プロローグ 第0話「消失」
無次時、それは、無限に広がる次元や時空。
この世界には、様々な世界が広がる。モンスターの巣窟となった世界や、平和すぎる世界、無人世界や、科学や魔法に特化した一つ一つが細かく分類された“次元世界”。
それらのあらゆる世界が、ひとつの“時空世界”として広がる。
当然、その次元世界のすべての存在を知る時空世界も存在する。
その世界は、大きく2つの世界にわかれていた。
魔法と科学という、二つの力と技術だけが存在する世界、ファンタリム。
その二つの技術に加え、他のあらゆる力や技術が滲み溢れる世界、ライオネット。
魔法という観点のみで言えば、その力はファンタリムのほうが優っている。が、科学やその他の力といった観点では、ファンタリムはライオネットにかなわない。
この2つの巨大な時空は、かつてはひとつの世界だった。――――リムフォトンという全ての力や技術に特化した、とても巨大な世界。
しかし、大きくなりすぎたその世界は、ある一つのいざこざをきっかけに、世界は大きく分断。繰り返し起こる戦い、終わることのない因縁。超越したあらゆる能力や技術によって、永遠に終わることのない戦いが続くと思われた。
だがそれは、一人の人物の力によって幕を閉じた。リムフォトンという世界を犠牲に、新たな多数の世界を生み出すことで。
――――リムフォトンは存在としてこそ消滅したものの、消えることのない二つの世界の障壁として今も存在する――――
ファンタリム時空統制マザーシップ - リプレセンタティブ。
ここはファンタリム世界に存在する、一つの人口次元世界。とある次元で人の手によって作られ、時空間内で組み上げられた、特別な次元。
しかし、それでも完全な人口次元世界とはならず、起点とした次元世界――――ファンタリム第1管理世界『ゼロ』と呼ばれる世界から未だ切り離されていない。
世界として確立するには、あまりにも多くのものが欠落しすぎているのだ。切り離してしまえば、世界としてではなくただの閉鎖空間として、そこにあるだけとなるだろう。
そんな、リプレセンタティブ及びゼロの世界。
――――大きな魔法が唐突に使えなくなった――――こんな噂が、広まりつつあった。
ファンタリムという時空世界に存在する次元世界のほぼ全てを統制しているゆえに、科学においても、魔法においても最も技術が発展しているこの世界で。
魔法が使えなくなる、あるいはそれに類する噂が経てば、瞬く間に広がる。
そして、その噂を追うように、本当に魔法が使えなくなった、という人が現れる。
統制政府は、最初は噂だろうと無視していたが、しかし次第に無視できなくなってきたこの件。
念入りに調べたものの、しかし結局、今日までその原因は発見できなかった。
――――現在、その影響範囲は、リプレセンタティブ及びゼロの世界だけにとどまらず、魔法が扱えるはずの他の統制次元世界ですらも、使えなくなっていた。
そんな最中の、とある次元世界。
なんの特徴もないどこにでもあるようなよくある、遊歩道橋。
その場所は、連なる遊歩道から見える景色で最も眺めがよく、数多くの様々な人が休憩場所として利用していることも多い。
それゆえ、かなり人目につく――――のだが、時間帯が時間帯。深夜も遅いせいか、あまり人は見られない。
ただ一人、少女は静かに、そこから見える景色を眺めていたのだろう。十代半ばだろうか。雲色とも銀色とも言える色合いの、ショートツインテール。
その瞳は青空よりも青い蒼。その服装はどこかの学生を思わせる服装である。
「よう嬢ちゃん。何やってんの?」
そこに、何人かの男性集団がやってきて、十代後半から二十代前半を思わせるガタイのいい一人の男性が話をかけた。
呼びかけられた少女はその方向へと振り向くが、表情ひとつ変えず何も言わない。
「聞こえなかった? 何やってんのって聞いてんの」
男性は少しむっとしつつ、しかし繰り返し問うも、少女はじっと見つめたまま、応答ひとつしない。
「おいてめぇ、人の話聞いてんのか!?」
話をかけた男性はしびれを切らしたのか怒鳴り声を上げた。が、その少女はやはり表情ひとつ変えず、黙ってその男性を見る。
「もうただじゃおかねーぞ。人の質問に答えないってことはそれなりの覚悟があるってことだよな!」
ついにその男性はその少女のみぞおちへと真っ直ぐに拳を振るった。気絶させてどこかへ連れ去るつもりなのだろう。だが、その少女もただ見ているだけではないようで、その拳を軽々と捕まえる。
ガタイはいいかもしれないが、動きが鈍い上力がない、捕まえた少女の表情は、そのような考えを持っているだろうと思わせる。
「なっ……てめぇ……離しやがれっ」
男性は振りほどく力で手を離すも、その少女は言われて簡単に離したためか、勢い余りすぎてそばにいた他の男性にぶち当たった。
「っつ……てめぇ、わざとやっただろ!?」
傍目、一つのコントのようにしか思えないほどの馬鹿さが目に見えた。ぶち当たった男性が当てられたところをさすりながら怒鳴り声をあげる。
「あぁ? お前の目は節穴か!? 今のは勢い余り過ぎただけだろ!」
勢い余り過ぎてぶち当たった男性に向かって罵声を飛ばす。
「いいや絶対わざとだ。てめぇには前から――――」
その罵声が癪だったのか、それとも元から気に入らなかったのか。言いながら殴りかかろうとして、
「いい加減にしろお前ら」
巨大な体躯の男性の一声ですぐに収まる。どうやら仲間の中に頭がいたらしい。年齢はぱっと見三十代ほどだろうか。
「よお、うちの奴が世話になったな。どうだ、何かの縁だ、一緒に来ないか?」
その頭はさっきの男性の攻撃を軽々と捕まえたところを見て仲間に入れたくなったらしい。
「拒否します」
少女は、暫く考える素振りを見せるかのような間を置いた後に返答する。
「そうかい、そりゃ残念だ。じゃあな子猫ちゃん」
しかし、そうなることも予想していたのだろう。いつの間にか後ろに回っていたらしい、幾つかの男性が木の棒片手に少女に向かって振り下ろした――――
――――ドスッという、鈍い音。明らかにあたった音だ。だが、どういうわけか、その少女は立っている。
「な!? て、てめぇ……」
よく見れば、後ろにいた男性二人は、伸びていた。木の棒で伸される前に見もせず肘打ちで伸したというところだろう。
頭が自分の後ろを見て、顔で合図する。その合図と同時にその仲間たちは一斉に少女を取り囲んだ。
「はーい、そこまで。それ以上続けると管理局総本部まで連行しちゃうよ?」
外野だろうか。突如として外部からの声が飛び込んだ。
「あぁ? てめぇ何様のつもりだ!?」
その少女を取り囲んでいた人物とは別の人物が止めに入った何者かに向かって罵声を飛ばす。
「……降伏は、しなさそうね。紗菜枝、やっちゃって。」
紗菜枝と呼ばれた少女は次の直後、その細身の身体からは想像もできないほどの身のこなしと俊敏さで、盛大な回転蹴りを浴びせる。
取り囲んでいた人はそのいきなりの行動に対応できず、皆が皆顔にモロに食らって一瞬で全員伸びた。
頭はひと味違うのか、それをガードしてやってのけたが。
「……紗菜枝、もう少し恥ずかしがることも覚えたら?」
赤いサイドポニーテール、紫色の瞳をもった二十代前半くらいに見える女性。
その女性の言葉に、自分のしたことを思い出して今更顔を赤らめた。
紗菜枝と呼ばれた少女、服装は先程も述べたとおり学生を思わせるような服装。当然下はスカートなわけで。盛大な回転蹴りをすれば何が起こるかは目に見えている。
「し、しまし、フギュッ」
どうやら全員が全員、完全に伸びてたわけではないらしい。
伸びかけていた男性の一人に、紗菜枝と呼ばれた少女の下着を口にされかけて、言い終える既の所で顔面にもう一発蹴りを浴びせる。
もしかしたらいきなりの行動、と言うよりはいきなりの行動の直後、それが見えて見とれてしまった人がほとんどなのかもしれない。
「へへ、やるな嬢ちゃん。だが、可愛い一面もあるな。どうだ、今ならまだ許すぞ。一緒に来ないか」
再び暫くの間。何か考えているというよりは、その行動を苦手としているかのような。
「ついていく義理は――――」
しかし、紗菜枝と呼ばれた少女は一歩踏み込み、
「――――ないっ!」
立っていた残りの一人、その一団の頭に向かって、一発のストレートをかます。
「甘いっ!」
男性はそれを受け流し隙を突いて蹴り技をかます。
が、少女はそれを見越してか、空いた方の手でそれを流しつつ受け、そのままその足を軸受けにして顔面に向かって蹴りを浴びせた。
さすがにそれは予想外だったらしく顔面横に見事にクリーンヒット。間もなくその男性も伸びた。
「さすがね。私は今のは対応出来なかったかも」
「……七花、後ろ」
「知ってる」
少女の呼びかけがあってか、しかし元々は気づいていたと言わんばかりに、七花と呼ばれた女性はその言葉に応えながら後方に向かって目も向けずにストレートをかます。
これもまた避けられることなくクリーンヒット。最後に残ってたらしき一人も伸びた。
「全くもう紗菜枝は、合図するまで手を出すなって言ったのに」
((向こうから仕掛けてきたんだもの、あれは自己防衛だから))
唐突に、少女の話し方が切り替わった。口で喋ったわけでなく、テレパシー的な何かを感じさせる会話だ。
少女の名前は八神 紗菜枝。ファンタリム第1統制世界に存在する、ファンタリム時空統制マザーシップ所属第8特別機動管理部隊隊長である。
紗菜枝は、ある事情で、必要以上にしゃべることができない。その事情とは、心的言語障害だ。
通常の言語障害とは違い、発言するための必要器官が使えないとか、脳障害とか、そういうものではない。文字通り精神的なものであり、心からくる言語障害だ。それ故にその気になれば、喋ることは出来る。
但し心からくるものなので、その気になって無理をし、言葉を発し続ければそれは反動となって疲労、酷ければ発作や失神等、様々な副作用を引き起こす。
それを解決してるのがこのテレパシー……もとい、魔法を使った念話である。
見知らぬ人にこれを使って話をかけるのは相手に気を使わせてしまうため、他人相手に滅多なことでは念話を使うことはない。
必要であれば喋る、のだが、その会話は数分と持たない。
そしてもう一人。女性の名前は式柳 七花。紗菜枝と同部隊で、副隊長を務めている。
紗菜枝の古き頃からの親友であり、戦友の存在である。
「まぁ、何にしても、さっさと連行しちゃわないと。目を覚まされても面倒だし」
七花は目線を伸びている男性集団に向けつつ言った。
((そうだね。応援の連絡は?))
紗菜枝もつられるようにしてそちらを見て、同意した上で事前にやりとりしてあったことを聞く。
「してある。もうそろそろ来る頃かな」
サイレンと共に幾つかの車両が走ってきた。この世界の治安維持をする行政だ。
音につられるようにして二人共そちらの方向を向いた。
「ご協力、感謝いたします」
車から降りてきた真面目そうな人は二人に向かって敬礼し、お礼を言う。
紗菜枝、七花も敬礼する。
「あとは任せましたよ」
紗菜枝と七花の立場は逆であると言っても過言ではない。
紗菜枝は自らの病の関係で必要以上に喋ることができないため、指揮には向いていない。
「じゃぁ、帰ろっか」
((うん))
だが、実際の指揮は紗菜枝がとっている。必要以上に喋ることができない、というのを無理矢理に押し殺しているためだ。
仕事関係の事になると、普段よりも長い時間喋っていられるのだが、それでも終わった後の疲労は尋常ではない。それでも、彼女は仕事を続けている。なぜそんな病を持っているにもかかわらず、紗菜枝は隊長という身分であるのか。
自らの身を犠牲にしてでも、他人を守ろうとする強い気持ちがあるからだ。
これについてはまた、紗菜枝の過去に関わってくる話になるため、のちのち話すとしよう。
帰宅途中のこと。
二人は人が通らないような薄気味悪く小汚い裏路地を携帯懐中電灯で前方を照らしながら歩いていた。
((七花、なんか、静かすぎない……?))
紗菜枝は回りのあまりの静けさに少し危機感を持ったらしい。時間帯が深夜も遅くとはいえ、いくら何でも静かすぎるように感じたのだ。
「裏路地だし、仕方ないんじゃないかな」
別に近道をする意味でこの道を使ってるわけではない。ではなぜそんな道を使ってるかというと、そこを使わなければ帰るのに必要なポータルがないからだ。
七花も紗菜枝も、この世界に家庭を持たない。こことは別の次元空間内に存在する管理局総本部に家庭がある。
そこへ行く手段は地上の人達に知られる訳にはいかない。そのために、このような不便な道を使っているのだ。
((そう言うんじゃなくて。第一、ここは使い慣れた道だからいまさらそんな話しても仕方ないし))
「それもそうね。ちょっと待ってね」
七花は意識を集中し始めた。何をしているのかというと、彼女が持つ特殊な能力、天希能力を使っているのだ。
七花の天希能力は超広域空間認識。かなり広い範囲にわたってあらゆる存在を認知できる。
ただ、細かく見分けることはできないため、特定の人物や特定の物を探しだすという行為には不向きである。
「紗菜枝の言いたいことがよくわかった。この周囲に、ううん、これは……広すぎる範囲で人がいない」
((え……?))
「紗菜枝、気をつけて。全方位からなにか来る。」
言われ、二人は構える。互いに背中合わせになり、目の届く範囲を見据える。
暫く見据えていると、携帯懐中電灯の光りに照らされ、その姿を表す。
視界にとらえたその姿は、本来、いま紗菜枝達がいるこの次元世界ではまず見ることのできない、だが紗菜枝たちにはどこか見覚えのある何かが、近づいてくる。
「何、これ」
((数が多すぎる……))
二人は、一瞬で取り囲まれた。何かによって。
感じ取れる気配の、その数は、数百。いや、下手すると数千を超えてるかもしれない。
『二人共、聞こえますか!?』
いきなりのことだった。遠距離映像通話だ。それも、強制応答の。緊急にしか利用されないものだ。
「リーシャ!? どうしたの? 今手が離せないんだけど」
いきなり視界の側面に映像が現れたので七花も紗菜枝もすこしばかり驚いていた。
『手が離せないってことは、手遅れかもしれません……いま、何と対峙してますか?』
聞かれ、二人は目線を目の前に戻す。
((よく、わからない。けど、端的にいうなら、機械ロボット的なもの))
人形の機械、という事以外特徴のないそれを、簡潔に紗菜枝が説明した。
『やっぱり、手遅れだったか』
「手遅れって何!?」
なんの言葉も無く手遅れといわれれば誰でも驚くだろう。
まして、目視出来るだけでも数千を超えてるかもしれない数なのだ。
七花からすれば、異常な数が感じ取れてるのかも知れない。
『おそらく、もう間もなくそいつらに襲われます。――――慌てないで。今そっちに救出に向かってます。そいつらを壊さないように何とか耐えてください!』
「襲う!? それに壊さないようにって、この数相手に耐えるのなんて……」
挙句の果てに無茶な注文に、七花はかなり焦りを見せていた。
((壊さないようにって、何かあるの?))
紗菜枝は冷静に聞いた。
『――――分裂増殖。壊れた破片の数だけ無限に増えます。傷つけたらそこから零れた破片からでも』
「……分裂増殖って。本気の力も使えないのにどうやって戦えっていうの!?」
分裂増殖の言葉に、七花は完全に混乱を始めていた。
((七花、落ち着いて。とにかく、時間を稼ごう))
「……どうするつもり?上も逃げ場ないのに」
紗菜枝の言葉で、少し落ち着きを取り戻す。頼れる隊長だからこそなのだろう。
だが、自分たちの上、つまり、ビルの屋上にも無数にいるということを示しているが、これでは七花がパニクるのも無理は無いだろう。
((私たちは、完全に力を奪われたわけではないっていうのは七花が一番良くわかってるはず。限られてるかもしれないけど、足掻くだけ足掻いてみよう))
「足掻くだけって、どうなっても知らないよ?」
((ふふ、いつもの七花に戻った。どうなるかなんて、やってみなきゃわからないでしょ?))
「……そうだったね。リーシャ、急ぎでお願い。どれくらい持つかわからないから」
『了解しました!』
通話が切れると、目の前に気を配りつつ深呼吸する。自らを落ち着けるための、自己儀式のようなものだろう。
「それじゃ、行くよ。クロニクルハーツ、少しだけ力を貸して……」
自らの耳に、と言うよりはピアスに手を当て、つぶやく。答えはないが、仄かに光ったような感じがした。
「……ノウェル」
紗菜枝も、真似するかのように。いや、これこそ彼女たちの勇気の儀式ともいうべきなのかもしれない。紗菜枝はチョーカーから下がるアクセサリーのようなものを手に、つぶやく。
やはり答えはないが、同じくこちらも、仄かに光ったような感じはした。
紗菜枝と七花、それぞれに一体ずつが、向かってきた。
「壊さないように、なら、動きを止めればっ」
七花は呟きながら、その機械に向かって軽く拳を振り下ろす。
その機械は避けることなくそれを喰らい、しばらくすると動かなくなって地面に落ちた。
((ひとまず一体ずつ来たってことは何かあるかもしれない、気をつけて。))
「わかってる」
逆に紗菜枝は、向かってきた一体に向かって、手をかざし、一言。
「――――来よ、氷結の吐息 フリージングブリザード」
手から些細な吹雪が一定範囲にわたって広がった。
それを食らった機械は、周りにいた複数を巻き込んで向かってきた一体を凍結させる。凍った機械は、動かなくなった。
((やっぱり、思った以上に魔法の伸びが悪い))
悪い、どころの話ではない。どういうわけか、ある日を栄えに、巨大な魔法を使うことができなくなってしまったのだ。
まるで、外部から力を封じられてるかのような、そんな感じだ。
「でなきゃ、こんな苦労はしてないよ。」
向かってきたやつをとりあえず倒した二人は、元の位置で背中合わせに構える。
何かの機械は、しばらく動かなかったと思うと、いきなり全てが同じ行動をし始めた。まるでそれは、ケタケタケタ、とこちらを嘲笑うかのような印象を思わせる動きであり、同時に何か、身の毛もよだつ様な奇妙な踊りをしているかのような、そんな印象である。
「え!? なに!?」
しばらくそうしていたと思うと、再び動かなくなった。しかし、それ意外には何もない。
「っ!」
紗菜枝が驚く。それをやろうとして、気づいたのだ。
「……七花、魔法が」
紗菜枝の問いかけに、七花が驚く。いきなり口答で喋られては驚かざる負えない。
だが、驚きはそこでとどまらなかった。
「魔法が完全に封じられた?」
七花の言葉に、紗菜枝は頷いた。紗菜枝がいきなり口答で話し始めたのは、このためだ。
魔法が完全に封じられ、念話が使えなくなっていた。
「くっ、どうしたら……!」
二人は手詰まりになった様子だ。
この数相手に、自分たちの技を完全に封じられては対処の仕様がない。
「っ! 紗菜枝、上!」
七花は何かを感じ取ったのかと思うと上を見上げ、同時に声を張り上げた。その言葉に、紗菜枝も上を見上げ、唖然とする。
屋上に待機してたらしき機械の軍勢が、飛び降りてきたのだ。
直後、視界が消えた。七花が、その身を盾に紗菜枝をかばったらしい。
だが、それも叶わず。二人は、機械の軍勢に襲われた。
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――――――――
――――
遥か彼方の空、宇宙。そこに浮かぶ一つの戦艦。
その中で一つのやり取りがあった。
『紗菜枝隊長、及び七花副隊長の存在情報が消失しました……』
「消失? どういうこと?」
『わかりません……ですが、こちらも補足されたようです。どうしますか』
「……仕方ないわ、一先ず撤退して」
指示を出していた黒髪ショートストレートの女声は、【リーシャ・ゼッペルト】。七花と同じく、ファンタリム時空統制母艦所属第8特別機動管理部隊副隊長を務める。
この部隊に副隊長が二人いるのは、七花が紗菜枝につきっきりなためだ。
どちらかと言えば、リーシャは副隊長補佐、七花が実質の副隊長であり、隊長補佐、と言ったところだろう。隊長を務める紗菜枝が訳ありなために、こういう複雑な関係になっているが、現時点ではこの複雑な関係は寧ろ助かることとなった。
「リーシャ副隊長、ダーンス部隊が帰還しました」
「OK、ありがとう。続けて紗菜枝隊長と七花副隊長の所存の確認をお願い。私はダーンス部隊と合流するわ」
「了解です」
司令官との会話を簡単にした後、リーシャはその場を立ち去る。
丁度、ダーンス部隊と呼ばれる部隊の隊長格が来たようだ。
「リーシャ副隊長、ただ今戻りました」
「おかえりなさいライラ。それで、存在情報の消失ってどういうことなの?」
「それが、その言葉そのままの意味で、まるでどこか別空間に飛んでいってしまったかのような。そう、それは、その場から“ふっ”と消え去ったんです」
女性とも男性とも取れるような容姿を持つ、天然パーマ、【ライラ・カノン】。
ダーンズ部隊の隊長的立ち位置を努めており、同時に戦闘教義官も勤める。
第8特別機動部隊は3つのツリー上に分かれており、それぞれが海、陸、空のそれぞれの場所を得意として成り立つ。
ナイツ部隊は空、ダーンス部隊は陸、ダスクス部隊は海となっている。これら三つの部隊を一つとして第8特別機動部隊としているのだ。
もちろん、あくまでもこれは第8特別機動部隊内でのルールであり、公式的なものではない。指示があれば担当域でなくとも動くのがこの部隊だ。あくまでもその域を得意としているだけである。
そしてこのダーンス部隊の隊長格であるライラは七花に似たような天希能力を持つ。
七花ほどの範囲ではないが、少なくとも視認できる範囲内にいるあらゆる生命体を判別する能力を持つ。
七花の能力と掛け合わせることで、捜索部隊が二人で成り立つほどだ。
七花と同系統の為、能力名も空間認識能力と簡単なものでしかない。
実質的にはその人が持つ魔力の量や、ライラにしか見えない色による判別方法だというが、
それについてはやはり本人にしかわからないため実質的にはどういう仕組みなのかは謎である。
「……わかった、ありがとう。報告書書いて出しておいてちょうだい。あと出来れば、同一現象が過去に起きたことがないか、調べておいて欲しいの。お願いできる?」
「わかりました」
そのやり取りを終えると、二人はそれぞれ入れ違いになって、出会う前に進んでいた方向へと進んでいった。
――――二人の運命は。
このプロローグ自体は、実を言えば2年ほど前に書き上げたもので、最近になって、自分自身の最近の書き方に合わせて手直ししたものです。
ですが、その当時はまだ自分はそのレベルではないと過小評価しており、今日公開に至るまでにこれだけの時間がかかってしまいました。
公開に至るきっかけとなったのは、最近になって作ったサイトがきっかけです。サイト作りなど、自分が手がけて作るものはなんでも好きなのですが、サイトを作っても特にこれといったコンテンツがなく、困っていたところにこの小説を公開するという考えが思い至った、というわけです。
正直、初のオリジナル小説にして、長年温め続けたこともあり、各主要キャラクターや世界観設定など、細かなところまで相当に作りこんでいる思い入れ深い作品だと、私は思っています。
あまりにも巨大過ぎる世界観故、はっきり言って、これ以上と無いくらい二次創作のし易い作品です。自分自身、この世界を用いて二次創作を二重掛けするくらいでした。ですが、はっきり言います、この小説は私だけの小説だと。
深い意味は、ないです。ただ、自分だからこそ、自分が思いを込めて作った小説だからこそ、書ける小説なんだっていう、ただそれだけ。
もちろん、読者の方には相応に楽しんでもらいたいですし、そうであるほうが作者としてもとても嬉しいです。
あとがきとは言えないくらい長いものになっちゃいました。
改めてですが、読者の皆様、是非今後も楽しんでいただけたら、そう思います。不束者ですが(違)、宜しくお願い致します。