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マッサージ系

ネコっ子にマッサージされる話

 私の目の前には小さな獣人がいる。

 ウェアキャットだとか猫又だとか言うのだろうか。

 背丈は私の腰辺りまでしかない。10歳より少し上の年齢に見える。しかし見た目よりも歳は取っているようだ。

 茶色の毛皮に覆われ、くりくりとした目が特徴的だ。

 初めて会ってから付き合いはそこそこある。

 たまにこうして私の家に遊びに来るのだ。



 今日の私は疲れていた。そのためベッドで横になっていた。

 このだらしない姿を見ていたその子に

「これだから年寄りは…」

 なんてことを言われる。言っておくがまだ若い。若いはず。

 子供から見れば十八より上は皆年寄りかもしれないが。

 それはともかく若くとも疲れるときは疲れる。

「しょうがないなぁ、こんなときはこうするのが一番良いんだよ?」

 私の背中に腰掛けてきた。

「じいちゃんはこうされると気持ちいいって言ってたんだ」

 まあ、たしかに背中の重みが心地よい。

 外見よりも軽く思える。毛の分だけ体積が大きく見えるからだろうか。

 うつ伏せになった私の体は上に乗る生き物の体重を支えていた。

「重たい?」

 そう聞かれた。しかし私とその子の体格の差ならば半日くらいは乗せていられる。

 私が首を振ると、

「なら跳び跳ねてもいい?」

 意地悪そうな顔で尋ねてくる。さすがにそれは許可できない。

 ふーん、と口角を上げたまま姿勢を崩し、私の上でうつぶせになる。

 その子の体重全てが私の体にのしかかってくるが、重みが身体全体に分散されてむしろ楽になる。

 ふわふわの毛布をかぶっている感覚だ。

 毛布に例えるには少し重いが。

 しかし首筋にその子の毛があたりこそばゆい。

 それを察したのか

「うりっ、うりっ」

 頬の毛を擦りつけてくる。匂いづけも兼ねてるんだろう。

 振り払うのも面倒な私は、わずかながら身体をもぞもぞさせて抵抗する。

「うりっ、うりっ」

 なおやめる気配はない。

「くすぐったい?やめてほしかったらおきろーおきろー」

 今度は両手で首筋をくすぐり始めた。爪は引っ込めてあるから、指の感覚だけが首筋に伝わる。

「おきないのー?そんなにつかれてるのー?」

 頷いて返事を返す。

 残念だけど今日は相手出来そうにない。

「ほんとにしょうがないな―」


 

「こうしてあげるのは今日だけだよ?」

 首をさすっていた手が、首を揉み始める。

 首の骨の左右の筋肉をつまむように揉みほぐす。

 固まっていた筋肉に遮られていた血が流れていくのを感じる。

「今日はねぎらってやる。かんしゃしろー」

 これは良い。疲れた首が癒されていく。

 凝り固まった筋肉がほぐれていく。

 感謝するから毎日やってくれんかの?

「調子にのんな。やめちゃおっかな」

 えー

「じょーだんじょーだん。ふだん遊んでもらってるし、今日くらいサービスしたげる」

 私の身体の上に寝そべる姿勢から馬乗りに体勢を変え、

 首を揉む手が段々と上へ登っていく。

 そのまま指先で頭皮を刺激していく。

 両手で頭を揉まれる。

 つむじの左右に手を当てて前後左右に頭皮を動かされるように。

「頭揉むとハゲに良いんだってさ」

 失礼な。

「でもまだまだ大丈夫そだね」

 当然だ。

 ワシャワシャと髪の毛をめちゃくちゃにされる。

 指先だけでなく毛先も頭皮に触れる。

 圧力を感じる指先とは違い、毛先はさわさわと撫でていく。

 毛先が触れるたびに頭がしびれるような、くすぐられたような感覚が駆ける。

 その感覚に頭が溶かされるような錯覚を覚える合間にも指先は前頭葉、頭頂、そして後頭部や側頭部、頭を一通りぐにぐにしていく。

「こうやって動かすとかつらみたいだよねー」

 小学校の頃そんな遊びが流行ってたな。



 頭を全体的に揉み終えたその子は首を撫でるように伝わせて肩まで手を持っていく。数百の茶色の線もそれに従う。

 「首はさっきやったからー、次は肩!」

 いきなり揉むようなことはせずに筋肉を温めるようにさすっていく。肩全体を手のひらを使ってさすっていく。

 普通の人間とは違い毛が生えているためか、とても柔らかな感触だ。

 筋肉が温まることでリンパや血液の流れをよくしてから、その子は肩を揉み始めた。

「痛かったらガマンせず言いなよー?」

 凝り固まった肩をゆっくりと揉んでいく。首の根元から二の腕へ向かってゆっくりと。 

 ただ揉むだけでなく肩のツボをしっかりと押さえた揉み方だ。上手いな。

 日ごろ酷使することでボロボロだった肩が柔らかさを取り戻していく。

「こことかどう?ここも良いー?」

 首回り、うなじ周辺、鎖骨の上、肩甲骨近辺、僧帽筋が余すところなく揉みほぐされていく。

「肩はもう大丈夫?もうちょっとやってほしい?しょうがないなー」

 その子は手のひらを合わせるように構えて肩たたきを始めた。ちょうど床屋の肩叩きのような感じだ。

 ぽふぽふと叩かれていく。首から肩の半ばあたりまでぽふぽふと。

 ちょっと強めかもしれないがこの子にはクッションがある。むしろちょうど良いかもしれない。


「はい、おしまい!肩たたきやりすぎはよくないしね。」

 少し残念。

「次はどうしよっかな。背中かな?」

 その子は身体をずらし位置を変えようとする。

「背中はさっきまで乗ってたから大丈夫だよね。それじゃ腕!」

 背中降りて、私の横に座り右腕を持ち上げる。

 最初は二の腕から始める。指先は使わず、指をそろえて指全体と手のひらで挟み込むように揉んでいく。

 外側、背中側の腕の筋肉が揉みほぐされる。

 肩や腰に比べると忘れやすいが、ここもけっこう気持ちいい。

「腕はサクッと済ませちゃうね」

 両手で私の腕を挟みこんだ彼女はそのまま左右に回すようにし始めた。

 これも子供の頃の遊びを思い出す。力いっぱいねじればそれは痛いが、この子のやるように軽く、全体を一緒の方向に回せば腕は軽くなっていく。

 数回繰り返した後、仕上げとして小刻みにプルプルと腕を震わせる。

 滞っていた血液が出口を見つけたかのように流れ出すかのように感じる。

 


 二の腕を揉んでいた腕はそのままひじ関節を下り前腕部へ。

 前腕部の二本の骨を挟んだ表と裏を親指と他の指でマッサージしていく。

 前腕部はほんの通り道だったようだ。そのまます先へ下りていく。

「手のマッサージのやり方、これ誰が考えたんだろね」

 その子は手のマッサージを始めた。その子の両手の小指と薬指の間を私の小指と薬指、親指と人差し指の間にそれぞれ差し込む。

 そして私の手のひらを広げながら、その子の親指が手を全体的に指圧していく。

 一人ではできないマッサージは右手を癒してく。

 ふわふわの毛にくるまれた手と私の手が絡んでいる。

 親指の指圧の感覚はもちろん、ふわふわの感触が手から現実感を奪っていく。

「おー?どしたの?気持ちよすぎる?ふふーん。でも右はおわりね」

 その子の手が離れる。せめてもうちょっと。

 なんだか段々身体が重くなっていく。さっきまで身体を覆っていた全身に重りを付けられたような重さとは違う幸せな重さを感じる。

「そんなに残念そうにしなーい。ほら、次は左手やるから」

 私の体をまたぎ、反対側へ移ったその子は左腕を揉み始める……



「ふー、左手もおわり!」

 身体は軽いのに起き上がれない……

 空に浮かびそうなのに身体はもう起き上がらない……

「楽になったでしょー?」

 とてもとても楽に……

「それじゃもう遊べるよね!なにして、って……」

 ……

「寝ちゃってる……」

「もー、なんのためにマッサージしてあげたのさー」

「しょうがないなー」

 ……遠くでごそごそと音が聞こえた気がした

「おやすみ」

 ……とてもあたたかくやわらかい何かが布団のなかに潜り込んでくる

 

 

 翌日の私は信じられないくらいさわやかな目覚めを経験した。

 そして隣で眠るその子も見つけた。帰らなくてよかったのだろうか。

 快調になった私はその日が休みだったこともあり、昨日のお礼に目いっぱい遊んであげた。

 そしてその夜にはまた疲れ果てて、倒れてから起き上がることはできなかった。

 あの子は遊んで満足して帰ってしまったので今日はマッサージは無い。


 まあいい、また疲れて動けない振りしてマッサージしてもらおう。

 そんなことを考えながら明日に備えて瞼を閉じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マッサージ描写が細かく丁寧で、読んでいてとても癒されます。理想のマッサージ小説でした。毎晩のように読み返しています。
[良い点] 文書は読みやすいです。 [気になる点] どうなるんだろうと思って読んでいると、あれ?って感じで終わってしまう印象です。
2014/05/14 01:48 退会済み
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