クシラス市の異変
ロメスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬ。ロメスには、政治が分からぬ。ロメスは、トラック運転手である。クラクションを吹き、前の車を煽って暮らしてきた。けれども、邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。今日はロメスも会社に出勤した。ロメスには父も、母もない。彼女もいない。21の、内気な妹と二人暮らしだ。この妹は、近々ボーイフレンドと結婚することになっていた。ロメスはそれゆえ、花嫁の衣装やら酒宴のご馳走やらを買うために、パチンコをやめようと決心したのだ。まず、荷物をトラックに詰め込み、それから国道をひたすら走った。伝票を確認した。次の届け主はティヌリンセウスである。長年勤めているとこんなこともあるのだな。そう、ティヌリンセウスとロメスはパチンカス仲間なのである。今はクシラスの町でパチンコをしている。その友をこれから訪ねてみるつもりだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねていくのが楽しみである。道を走っているうちにロメスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当たり前だが、けれども、なんだか、夜のせいばかりではなく、市全体が、やけに寂しい。のんきなロメスも、だんだん不安になってきた。路で出会った若い衆をつかまえて、何かあったのか、前にこの市に来たときは、夜でも賑やかで、町は明るかったはずだが、と質問した。若い衆は首を振って答えなかった。しばらく走って老爺に逢い、今度はもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。ロメスは老爺の車を揺すぶって質問を重ねた。老爺は声をひそめて、わずか答えた。
「王様は、パチンカスを殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「社会の害虫だ、というのです。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい。はじめは王様の妹さまを。それから御自身のお世継ぎを。それから皇后さまを。それから、賢臣のスレアキさまを。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。パチンカスを信ずることが出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しでもパチンコをする者には、勝った分の儲けを差し出すことを命じております。これを拒めば、パチンコ玉を投げられて、殺されます。きょうは、805人殺されました。」
聞いて、ロメスは激怒した。「呆れた王だ。生かして置けぬ。」