こまります
合コンが始まって一時間くらい。美味しい料理をたくさん食べた。お酒も飲もうかと思ったけど今日はやめとこう。
目の前の美華ちゃんは大橋君といい感じで二人でスマホをつついて遊んでる。百合ちゃんと舞ちゃんは時々そんな二人を茶化しながら西谷さんや前野さん、センパイと喋る。
私はそんなみんなの会話を聞きながらうんうんと相槌を打つ。
百合ちゃんは販売の仕事してるし、舞ちゃんも先生だったし、二人とも話題が豊富でいいなぁ…。私は緊張しちゃって話しかけることも出来ないし、話しかけられても一言くらいしか返せない。
どうしたら百合ちゃんや舞ちゃん、美華ちゃんみたいに男の人と平気で喋れるんだろう?
ぼうっとしながら喋ってる百合ちゃんたちを見てると、目の前にぬっと大きな腕が出てきた
「!」
叫ばなかったのが奇跡な位、ほんとに驚いて息が引きつった。
「春子ちゃん、どこ見てるの~?」
「え?」
このひと今名前で呼んだ?
「ねえ、なんでお酒飲まないの?」
センパイはテーブルの端ににじり寄って私に近づいてきた。うう、お酒臭いよお。
「あの、弱いんで、今日は…」
「ええ?飲めるんだ?じゃあいいじゃん!飲みなよ!」
怖いよお!こんな時うまいあしらい方も分からなくて固まってしまう。
「一杯だけ、ね。もしも酔ったら介抱してあげるから、ね?」
どうしたらいいんだろう?これは。…やっぱり年長者のお酌は受けないといけないのかな?
「じゃ、じゃぁ…、」
「俺が飲みます!センパイ!はいかんぱーい!」
私が「飲みます」と言う前に左の肩から生ビールを持った前野さんの腕が伸びてきてセンパイのジョッキにがつーんと当たる。
「おお、かんぱーい!」
センパイもその勢いに押され、生ビールを飲む。
「ハル、こっち。」
ぼんやりしてる内に百合ちゃんに腕を引かれ、立たされる。
「ちょっとトイレ行ってきます~、ハルもおいで。」
「いっトイレ~。」
と舞ちゃんがお約束のフレーズを言うとセンパイはさっきのことは忘れたのか笑っていた。
なんだ、冗談だったのか。とほっと胸を撫で下ろした。
トイレに行った後、厨房が見えるカウンターに促される。
「ハル、大丈夫?」
「ありがと、百合ちゃん。助かったよ。」
百合ちゃんはやっぱりすごい。いろんな人と話しながら私の様子も見てくれてたなんて。
「ハル。あんたいくら喋るの苦手だからって、嫌な時はいやって言わなきゃダメよ?」
怒られちゃった…。
「わ、わかってる…けど、あそこで嫌って言って、みんなの場がしらけたら悪いかなって…。」
「なんであんたはそういうところだけ妙に気が回るのよ…。」
「え、え?ゴメン…?」
百合ちゃんが疲れてる…。また迷惑かけたかな…。
「ほんとごめん、富士牧さん。」
抜け出してきた西谷さんが頭を深々と下げた。
「え、え?あのっ。やめっ…」
こんなに頭下げてもらうことしてないですし!
「ほんとはね、舞の旦那に来てもらおうと思ってたのよ。そしたら旦那の出張が急に入ったみたいで、人数合わせなくてもいいかなと思ったんだけど、丁度タイミングよくあの人が西谷さんに連絡してきたみたい…」
「ほんとにそういう所だけ妙に鼻が効くと言うか…。悪いやつじゃないんだけど、酒が入ると普段以上にあんな感じになるというか…」
そこでまたほんとごめんと頭を下げられた。
「あの、いえ、悪い…人じゃないなら、大丈夫です…」
西谷さんは私をじいっと見た。なぜか困った顔で。
「?」
「ダメだ。」
え?
「でしょう?やっぱ、席替えしてきます」
「え?百合ちゃん?」
みんな、何の話してるの?百合ちゃんはまた座敷に戻り、入れ替わりで舞ちゃんが来る。
「ほんとに春子って『呼び寄せる』よね~」
とけらけら笑う。
「な、なに?」
「いや、なんていうの?『あんな人』。飲み会のたびにいっちばん変なヤツに目付けられてしつこく絡まれたりさぁ。」
う、否定は出来ない。
百合ちゃんが誘ってくれる合コンや飲み会に行って「いいな」とか「かっこいい」って思う人はそりゃあ居る。緊張して声をかけられないけど。
そうなると何故だか良くしゃべる、きっと女の子全般が大好きなんだろうなって言う人が私の隣に座って、ずーっと喋り続けたりする、私は怖くて下を向きながら「そうですね」としか言えない機械のようになってしまう。
「んで、『そんな人』に限ってメンバー内で一番立場が上なもんで他の奴らに睨みきかせんの。そうじゃなきゃ春子に彼氏がいないなんておかしいもん。」
「舞ちゃん?」
途中から舞ちゃんが何を言ってるのか分かんなかった。とにかく私を心配してくれてるんだよね?
「ありがと。心配してくれて。」
「…あーっもう!天使!」
舞ちゃんはいつも私に会うと抱きついてくる。舞ちゃん曰く「抱き心地が神」らしい?
「っていうかあいつほんとマジどうにかしましょう西谷さん。うちの春子の乳がでかいだ太ももがどうだと本人の居ないところでセクハラ発言しまくりでしたよ。」
「…」
西谷さんはますます困った顔をしてる。
そして私は運動オンチのしまりのない体を指摘されたみたいで密かに落ち込んでいた。
舞ちゃんは結婚しても毒舌です…。