表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

はじめまして

今回もいつもの居酒屋でやるからね。今日は舞も来るよ!


半年に一回ぐらいのペースで高校からの親友百合ちゃんは、人見知りで男の人が苦手な私を合コンに誘ってくれる。

百合ちゃんから連絡があったのは1週間前の金曜日。女の子の数が足りないので、私の職場の後輩美華ちゃんも参加してくれることに。


「そっかぁ、舞ちゃんも来るんだぁ」

舞ちゃんは百合ちゃんと同じ、私と高校時代の親友。市内に住んでいるからいつでも遊べるんだけど、つい3ヶ月前に結婚した新婚さんだ。そういえばまだ新居にお邪魔してないな。今度お邪魔していいか聞かないと。


鞄の中でケータイがバイブ音を鳴らす。


ハルちゃん先輩☆もぉメンバー集まってますよ♪♪

男の人がまだ一人きてないみたいですけどっ(☆)先に始めちゃおっか~ってかんぢになってます☆


ロッカー掃除を巧みに逃れて先に合コン入りしてる美華ちゃんからのキラキラメールのあまりのキラキラっぷりに驚きながら時間を確認。予定は19時からだったはず。もう18時50分。


いつも行く居酒屋「アバンツァーレ」は居酒屋、というよりはイタリアンに近いちょっとオシャレなお店。ビルの2階にある隠れ家っぽい感じ。職場から十五分、駅から五分だから飲むときは絶対にここって決めてる。あんまり飲めないけど。


2階に上がるためのエレベーターの前に男の人が立っていた。

背が高くて、がっしりしていて、難しい顔をして携帯を見ている。エレベーターに乗りたいけど…この人が避けてくれないと、乗れそうにない。

ど、どうしよう…。

知らない人に声を掛けるのは苦手だ。どうにか気付いて避けてくれないかと彼の後ろをそろそろと歩く。


「ん?」

携帯を見ていた男の人が顔を上げた。目が合ってしまってびくっとなったけど、男の人は私を見て「ああ、すいません」とエレベーターのボタンを押して、避けてくれた。


「すいません…」

聞こえたか分からないくらいの小さな声でお礼を言って、エレベーターが来るのを待つ。男の人は私のそばに立ったままで、携帯と、ビルの店舗が書かれている看板を交互に見ている。

なんか、やだな…。


高校生の頃から、男の人に変なちょっかいをかけられることが多かった私は、こんな時が一番怖い。この人が変な人ではないと思っていても、そういう怖い男の人はいつも私が油断したときに襲い掛かってくる。


「あの、すいません。」

「ひゃ!」

思い切り変な声が出ちゃった。男の人は私の奇声には触れずに携帯を見せる。画面には地図アプリの画面が表示されている。

「この居酒屋に行きたいんだけど、…なんか迷ったみたいで。」

地図はこのビルを指している。


「あ、あの、多分…ここであってます。」

「え、そうなの?」

男の人は拍子抜けしたように携帯を見る。

「居酒屋って言ってたから、全然それっぽい名前ないし。」

あ、それで看板見てたんだ。

「あの、この『アバンツァーレ』っていうのが…居酒屋…」

看板には筆記体で書かれているので分かりづらいと思う、緊張で小さな声になる私に彼は

「そか。助かった~、ありがとう。」

と朗らかに笑った。その笑顔があんまり眩しくて、私は俯いた顔をもっと俯けてもごもごと「どういたしまして」と言った。聞こえたかどうか分からないけど。


「君も、そこ行くの?」

彼はやっと来たエレベーターに乗り、ドアの前で躊躇する私に声を掛けた。できるなら密室で二人きりは避けたいとトラウマになりつつある男嫌いが一歩出るのをためらわせた。

「あ、あの」

でも、なんとなくこの人は大丈夫なんじゃないかと思った。ほんとに、なんでか分かんないけど。ケータイを見るともう十九時を過ぎていた。

「ん?」

男の人はついでに私を乗せてくれようとドアを開けたまま待ってくれている。

「そ、うです」

搾り出すように言うと、彼は爽やかに微笑んで

「そか。じゃ、どうぞ」

はい。と返事した声はやっぱり小さくなってしまって彼には聞こえてないだろう。


店に入ると、髭の店長さんが「いらっしゃい、予約の方ですか?」と聞いてきたので

「は、はい。『長谷』で」

答えた声が見事にハモった。

「え?」

「ん?」


案内されたのは奥の個室。イタリアンな名前と食事だけど、座敷。ドアを開けると私と彼を除く6人が席に着いて飲み始めていた。

「おそい~。ハル。」

入り口のすぐ近くの席に座った百合ちゃんが私たちを振り返る。

「なに?二人で来たの?」

久々の再会にきゃあきゃあとなった後で舞ちゃんが私と彼を見比べながらにまにまして言った

「ち、違っ。」

慌てて首を振るが、顔が熱い。

「あ、そうだ、シュン。お前店の名前ぜんぜん違うの教えやがって。おかげで迷って迷って…。」

「え、そうだっけ?」

男の人の正面に座ったメガネの男の子が頭をかく。隣にはちゃっかり美華ちゃん。さすが草食系イケメン好きを名乗ってるだけある。と思わず感心しちゃった。

空いた席に座ることになったので百合ちゃんの隣に彼、その隣に私。の並び。合コンとは言え、知らない人にサンドイッチ状態はいつも緊張する。

「そうだよお前、なにが『アバンチュール』だよ。俺めっちゃ探したっつーの!」

爆笑に包まれる。

ああ、近い。名前が。彼とメガネ君の漫才で場が盛り上がったところで自己紹介をする。


「え、幹事から?えー、と。長谷百合です。はせでもゆりでもお好きに呼んで下さい。販売の仕事をしてます。年は二十四です。」

ちょっとクールだけどサバサバしたところが話しやすくって男の人には人気があるのだ。でもいつも幹事に徹して私と一緒に帰ってくれる。優しいけど、もしも気になる人がいたんだとしたら悪いことしてるなあと反省。

それには私がまず人見知りを直して、男の人と仲良くならないといけないというとても高いハードルがあるのだった…

うう、無理…かも?


百合ちゃんの隣の人。

「あ、はい。西谷広輝です。営業をしています。そこの、前野と大橋君の上司で」

「俺の大学の先輩なんですよね。」

メガネ君が大橋さんで、隣の人は前野さんって言うんだ。覚えられるかな?名前を覚えるのは苦手。

で、西谷さんの話を遮ったのが私の右隣の人。うう、声が大きくて、ちょっと苦手なタイプかも?

いや、もともと男の人全般が苦手なんだからこれも、修行の内!苦手意識から脱出しなくちゃ!

「あ、そうそう。俺は三十七で、時代が全然違うんだけど、コイツと俺と前野は大学が一緒。」


「次あたしね。えー、寺原舞です。教員をしていましたが、今は無職です。百合とそこの春子とは高校の同級生で、二十三才です。」

あれ、そういえば、舞ちゃん結婚してるのに参加しても大丈夫なのかな?

「じゃ次―。」


「…大橋駿一です。エンジニアです。二十四才です。」

「…」

「それだけかよ!」

いきなり大声が隣で聞こえてビックリして持っていたウーロン茶をこぼすところだった。ああ、ビックリした…。


「はぁい、島田美華ですっ。ハルちゃん先輩の可愛い後輩のぴちぴち二十歳です!趣味はDVDかんしょーと、最近ダーツを始めました~。よろしくおねがいします!」

美華ちゃんすごい…こんな若いのにしっかり自己紹介できるなんて羨ましい…。なんだか緊張してきた…ううう。

そっか、さっきの大橋さんみたいに名前と年と職業だけ、言えばいいんだよね?それならなんとか緊張せずに言えるかも!


と、言ってる間に私の隣の人の自己紹介が始まっていた。あ、名前聞きそびれたな…。どうしよう。ここで話遮ったら場がしらけちゃうかな。後で改めて聞いたほうがいいのかな…?


私があわあわ考えてる間に隣の人は自己紹介し終わっていた。あああ、どうしよう。

「西谷さんと前野さんの先輩ってことは俺にとってもセンパイっすね。」

「お、センパイを敬えよ!はははっ。」

と大橋さんと冗談を言い合って盛り上がっている。

ここはしょうがない。「センパイ」と仮に呼んでおこうと決めた。


さて、次は私の番。

「あの、ふ、富士牧、春子です。」

あ、名前だけで区切っちゃった。次何言うんだっけ…?

「ふ、富士山の富士に、牧場の牧。春夏秋冬の春と書きます…。」

違った、そうだ、職業言わないといけなかったんだ!ああ、みんなが見てる!

自分でも分かるくらい顔が熱くなってる。

「よ、よろしくお願いします…!」


「かーわーいーいー!」

センパイの声が響く。ホントにいきなり大声だからビックリするよう!

百合ちゃんと舞ちゃんがフォローしてくれる。

「年はあたしらと同級だから、二十三ね。んで、美華ちゃんの先輩。」

「はぁい。事務員をしてま~す。」

みんなありがとう…!ううう、情けないよう。


「じゃ、最後?えー、前野孝太郎です。西谷さんの部下で、大橋たちの作ったものを必死で営業してます。年は二十六才。趣味は体を動かすことかな?」

体を動かすことかあ、運動オンチの私には想像がつかない。隣で前野さんの筋肉がついた腕を何とはなしに見てると彼が急にこっちを向いた。

「方向音痴なんで、今日は富士牧さんに助けられながらやっとの思いで参りました。よろしく。」

和やかな笑いで自己紹介は終わり、前野さんは私にグラスを掲げて爽やかに笑いかけた。私も笑ってグラスを返したけどウーロン茶のはずなのにほっぺが熱い気がする。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ