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『転生賢者の斧無双 ~魔力ゼロで木こりを目指したら、いつの間にか聖樹も魔王城も真っ二つにできる件~』  作者: 沼口ちるの


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第一話(後半):賢者の残滓と、無力の真理

ルークは庭に転がっている、先ほど自分が「削り取った」森の残骸を眺めていた。


(……やはり、効率が良すぎる)


普通の魔法使いは、体内の魔力(MP)を変換して現象を起こす。だが、ルークにはその「ガソリン」を溜めるタンクが生まれつき存在しない。 前世の賢者エナードであれば、10万の魔力をどう分配するかに知恵を絞っただろう。だが、今世の彼は「タンクがないなら、世界に満ちている魔力の奔流マナに直接、物理的な『歯車』を噛み合わせればいい」という結論に至った。


これが、ルークの編み出した「外部魔力同調・きこり式」である。


「ルーク兄様? またぼーっとして。……それ、重くないの?」


リリィが不思議そうに、彼が片手で持っている巨大な鉄斧を指差した。


「重いよ。……物理的には、30キロはあるからな。でも、こうやって『重心』を世界の流れに合わせておけば、羽毛より軽くなる」


「またお兄様の変な理論……。いいから、お母様が呼んでるわよ。あの子、お風呂から上がったって」


居間に戻ると、そこには見違えるほど綺麗になった少女、シエルが座っていた。 リリィの古着を着せられた彼女は、まだ小さく震えている。


「あ、あの……助けてくれて、ありがとうございました」


シエルが蚊の鳴くような声で言った。その瞬間、彼女の肩がビクリと跳ねる。 彼女の指先から、制御を失った真っ黒な魔力のスパークが漏れ出したのだ。


「ひっ……! くるな、こないで……! 壊しちゃう……!」


魔力53万。それは巨大なダムがひび割れているような状態だ。 感情が昂れば、その圧力だけでこの家どころか村ごと消し飛ばす。父ガッツが身構え、母セリアも険しい顔で一歩前に出ようとした。


だが、それより早く、ルークが歩み寄った。


「動くな。……ちょっと『枝打ち』してやる」


ルークは斧を持たない素手のまま、シエルの肩にそっと手を置いた。


(――計算開始アナライズ。シエルの体内の魔力循環は、右半身に偏りすぎている。これを外圧で整える)


ルークは自分の中に魔力がないことを逆手に取った。 彼は**「完全な真空」**なのだ。 水が低い方へ流れるように、シエルの溢れ出した53万の魔力が、ルークという「魔力0の空洞」に向かって猛然と流れ込む。


普通なら、人間一人が受け止めれば破裂して死ぬ。 だが、ルークは賢者の知識を使い、その奔流を自分の体を素通りさせ、そのまま足元の地面――つまり、惑星という巨大な基盤へ「放電」させた。


「……え?」


シエルが驚愕に目を見開く。 あんなに苦しかった魔力の膨張感が、ルークが触れた瞬間に、まるで凪のように静まったからだ。


「よし、循環サイクルが整ったな。お前、魔力が多すぎて自分の回路が焼き切れてるんだ。少しの間、俺が外から『剪定』してやるよ」


「どうして……。魔力がないって言ったのに、私の魔力を……消したの?」


「消してないさ。ただ、流れを整えて地面に逃がしただけだ。……木が腐らないように、余計な水分を根に逃がすのと同じだよ」


ルークは淡々と言った。 これこそが、魔力0で賢者の知識を持つ彼にしかできない芸当。 「自分を透明なパイプに変え、他者の強大すぎるエネルギーを物理法則に従って受け流す」。


「お兄様……。あんな化け物みたいな魔力を、素手で……?」


リリィが呆然と呟く。 隣で見ていた父ガッツは、豪快に笑ってルークの頭を撫でた。


「ガハハ! さすが俺の息子だ! きこりは木を整えるのが仕事だが、まさかお前、魔力まで整えちまうとはな!」


「……ルーク。後で少しお話があるわね?」


母セリアの笑顔が、今日一番深くなった。 「隠し事は無しよ」という、かつての大賢者すら戦慄するような威圧感。


「……あ、ああ。分かってるよ、母さん」


ルークは冷や汗を拭った。 魔力53万の少女を救うよりも、この家の大黒柱(母)を納得させる方が、彼にとってはよほど難易度の高い「仕事」になりそうだった。



「真空の導管」: 体内魔力が完全にゼロであるため、外部の魔力に対して抵抗(電気抵抗のようなもの)が一切ない。そのため、シエルのような超巨大な魔力を「通す」だけであれば、肉体への負荷を最小限に抑えられる(賢者の計算による精密な制御が必要)。


「物理干渉」: 斧を振る際、刃先の極小の空間に大気中の魔力を「挟み込む」ことで、実質的に「空間の結合」を断ち切っている。

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