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第7話 最初の朝ごはん

 トントンと包丁の音が部屋に響く。


 味噌汁に入れる大根を短冊切りにする。パンにしようかとも思ったが、昨日の朝食もパンだったので今日は和食にした。


「……結城さん」


「うわっ! ……せ、先生……。おはようございます」


 昼ごはんは何にしようかと考えていると、不意に後ろから声がかかって驚いた。


「昨日はすみませんでした……」


「な、なんの話ですか?」


 あまりに唐突な謝罪に戸惑ってしまう。


(なんか昨日から謝られてばっかりだな……)


「たくさんご迷惑をおかけした上に失礼な態度をとったりして……」


「迷惑だなんて全く思ってないですよ。体調が悪かったんだから仕方ないですって」


「私、なにも返せませんよ……?」


 結衣もなかなか譲らない。


「わかりました、じゃあこれは《《投資》》、です。だから、これから先生が無理せず毎日楽しく生活してくれれば、僕は利益を得られますね。先生は儲けさせてくれますか? 自分を卑下したりするのは僕にとって損になるわけですけど」


 自己肯定感の低すぎる結衣にもっと楽に生活してほしいと思い、あえてこういう物言いにしてみた。


「卑下してるつもりはないんですけど……。わかりました、出来るだけ結城さんに損はさせません」


(うーん、真面目……)


 まだ固いが、僅かに表情が緩んだので今のところはこれで良いことにしよう。


「あ、そういえば、熱下がったみたいですね」


 依然真剣な面持ちの結衣だが、その顔に火照りなどは見られない。三十九度の熱が一日で下がるとなると、心因性の発熱だったのかもしれない。

 いずれにせよ、結衣が回復してくれたのであれば何よりだ。


「おかげさまですっかり良くなりました」


「良かったです。食欲が戻ってたらですけど、朝ごはん一緒にどうですか?」


「あ、用意してくれたんですか、お願いします」


 実は無意識のうちに二人分で朝食を用意してしまっていたので、いらないと言われると二食同じご飯を食べる羽目になるところだった。


「じゃあ、テーブルの準備お願いしても良いですか?」


「はい」


 結衣はにこっとはにかんでダイニングに走っていく。


 作り置きのきんぴらごぼうとコンビニの焼き鮭も用意したら完成だ。


 二人分の配膳なので、お盆に一人分ずつ置いて持ち上げる。


「おおっ、すごい、旅館みたい……」


 ダイニングにお盆を持っていくと、既に着席した結衣が感嘆の声を上げた。


「ふふっ、ありがとうございます。さあ、食べますか」


 向かい合うように透華も座り、二人揃って手を合わせる。


「いただきます」


「どうぞ。いただきます」


 結衣が箸をつけたのを見て、透華も食事を始めた。


 一人での朝食だとどうしてもこだわる気力が湧かずに簡素な食事にしてしまうことが多いので、ここまでしっかりとした朝食を作ったのは久しぶりだ。料理へのモチベーションを上げることができたのも、結衣と暮らすことのメリットなのかもしれない。


「……結城さん」


「なんでしょう……?」


 突然に深刻な面持ちで名前を呼ばれる。


「……ご飯、美味しいです!」


「……え? あ、ありがとうございます」


 深刻な面持ちに固唾を呑んだが、続く言葉の内容に拍子抜けする。


「昨日のお粥もすっごく美味しかったです。結城さん、お料理も出来るんですね……すごい……」


 結衣に褒められると、どうも掛け値のない言葉に感じられて照れてしまう。


「まあ、少しですけどね」


 少々の面映ゆさから、少しぶっきらぼうな返答になってしまう。


 母の硝子が拓水を追って海外に旅立つまでは、よく一緒に料理していた。思い返せば一人暮らしを始めることになる透華に、自炊の仕方を教えてくれていたのだろう。


 いつしか結衣の茶碗が空になっていることに気が付いた。随分早い完食に驚くも、それだけ気に入ってもらえたのだとしたら非常に嬉しい。


「おかわり、要りますか?」


 そう問いかけると、あっ、というような顔をする結衣。


「食べますか?」


「……お願いします」


 結衣は僅かに恥ずかしそうにどんぶりを差し出した。




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