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甘えたがりな保健室の先生と、甘えられたがりな男子高校生

 目を覚ますと、白く無機質な天井が目に入った。


 病室なのか、死後の世界なのか。


 一瞬生じたそんな迷いは、枕元から聞こえる電子音で立ち消えた。


「──透華さんっ⁉」


 足にかかっていた重たさが除かれると同時に、疲れたような驚いたような声が聞こえる。


 ──誰の声かなどすぐに分かった。それほど聞きたかった声だった。


「……生きててくれて、ありがとう……」


 視線を上げると、今までにない程に大粒の涙を零す結衣がいた。端正な結衣の顔は大きく乱れていながらも美しく、不思議なほどに綺麗だった。


「話したいことはたくさんあるけど、一旦、先生を呼んでくるね」


 そう言って結衣は病室を駆け出て行ってしまった。


 病室に静けさが再来する。


(きっと、環さんが……)


 若い環が店を持っていること、借金をしている様子はないことを合わせて考えると店は相続したと察しが付く。


 では、誰からもらったのか。それがきっと、笹宮トンネルの事故で亡くなった親からなのだろう。


 人目を気にしていたはずの結衣との関係を学校に密告したのも環なのだろう。待ち合わせに使っていたやどりぎに常にいたのだから、密告はわけなかっただろう。


 冷静に考えれば避けうる未来であったはずなのに、予測できなかった自分がひどく情けない。


 幸か不幸か生き残ったが、目の前で人が死にかけた結衣には大きなショックを受けさせてしまったことだろう。気持ちは沈んでいってしまう。


「透華さん、先生連れてきました」


 がらりと音を立てて病室の戸が開かれる。


「久しぶりだね、透華」


 またも耳に馴染んだ声が聞こえ、透華ははっと顔を上げた。


「父さんっ⁉ 痛っ……」


「ほらほら、あまり大声を出すんじゃない。傷口が開いたら大変だしね」


 平然と告げる拓水の姿に、透華は驚きを隠せなかった。


 海外にいるはずの拓水が何故ここに? 拓水は全てを知っていたのか?


 聞きたいことは浮かぶが、口が回らない。


「ふふっ、色々聞きたそうだね。時間はあるんだ、ゆっくり話そうじゃないか」


 拓水は見透かしたようないつもの笑みに、幾許かの申し訳なさを浮かべた表情でそう言った。




 ◇◆◇




「四日も目が覚めなくて……もう、駄目かと思いました……」


 拓水がひとしきりの説明を終えて退出すると、病室はまた二人きりになった。


 刺されてから意識不明状態になり、四日もの間目を覚まさなかったらしい。


 透華は意識がなかったが、結衣としては気が気ではない体験だったのだろう。それを証明するように結衣の目の下には隈ができており、全体的に少しやつれたように見える。


「心配かけて、すみませんでした……」


「謝らないでください……、私が悪いんです。もっと早く警察に頼っていれば透華さんがこんな怪我をすることなかったのに、ごめんなさい……」


「いやいやっ! 父さんが悪いんですよ、可能性は考えてたくせに何も言わないで……」


 拓水は自分が関わっていた事件というだけあって、その遺族が犯人の可能性を想定していたらしい。それすら言わなかったのだからあとで問いただしてやろうと思う。


 しかし拓水が透華や結衣に危害が及ぶことを想定して日本に帰国していたおかげで海外で学んだレベルの高い手術を受けることができたのだから一口に貶すわけにもいかない。


 僅かに引き攣るような呼吸をして、結衣は泣きだしてしまった。情緒が不安定になってしまっているのだろう。


(本当に、申し訳ないことしちゃったな……)


 すすり泣くその姿に透華の胸も締め付けられる。


 透華の腕に縋るようにする結衣の髪を手櫛で梳くように撫でる。


「生きてますから、安心してください。これからも、お願いしますよ」


 落ち着かせるように、穏やかな声音で結衣に語りかける。


 しばらくの間そうしていると、腕に縋りついたまま結衣が言った。


「……犯人は、予想どおりでした。とまりぎのマスターの海棠環さんは、笹宮トンネルの事件のご遺族だったとのことです。今はまだ精神鑑定中ですが、解離性同一性障害の可能性が高いとのことです」


 わかってはいたことだが、改めて聞くとやるせなさがこみ上げる。


 環は自分中心にすべてを完結させるような人間ではない。


 きっと、事情を正しく把握していれば踏みとどまって次の人生を始められたのだろう。なんの根拠もないが、環との付き合いの中で得た関係性がそうだと告げているのだからきっとそうなのだろう。


 そう思うと余計に虚しかった。何の意味もなかったのだ。


「透華さん……もう、離れないでほしいです……」


「ふふっ、甘えたいんですか?」


 たくさん不安な思いをしてきた反動なのだろう。病室なのであまり出来ることは多くないが出来るだけ要望に応えてあげたい。そう思っていたのだが──。


「そういう意味じゃないんです。離れないでほしいんです」


 抱き着いていた腕を離して、目を合わせて結衣は言った。


「一生、甘えさせてくれませんか……?」


 生徒と教師。世間的には受け入れがたい関係性。


 そんなことはわかっていながら。


「僕で良ければ、喜んで」




 最後までお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました。

 初めての長編小説として書かせていただいた本作ですが、松柏の筆力不足によりお読み苦しい点も多々あったかと思います。そんな中でここまでお読みいただいた皆様には、心より感謝申し上げたいと思います。


 初めての長編小説として、たくさんの設定(登場人物の今後等)は用意していましたが、上手に生かすことができませんでした。ご要望がありましたら何らかの形で公開させていただこうと思います。


 もしこの作品を通して松柏に希望を見出していただけましたら、是非ご評価を頂けますと幸いでございます。

 そしてもしこの作品を気に入ってくださった方は是非カクヨムの方にもいらしてくださると幸いです。この作品がお気に召したあなたがきっと楽しめる作品をご用意してお待ちしております!


 改めまして、最後までお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました!

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