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第33話 誕生日と浴衣②

『誕生日おめでとう、透華』


「ありがとう、父さん」


 透華は朝からリビングで拓水と電話していた。正月と透華の誕生日だけは必ず電話が来る。


『紅葉さんからはもうお祝いしてもらったんだろう?』


「ああ、日付変わってすぐお祝いしてもらったよ。けど、何で知ってんの?」


『なんかすごく準備してくれてるって硝子さん伝えに聞いたから、きっと夜のうちにお祝いしたんだろうなと思って。ごめんね、誕生日なのに一緒に居てあげられなくて』


 仕事の都合なのだから仕方がないだろうに、拓水は毎年申し訳なさそうに告げる。硝子に関しては今一緒でない様子なのでお仕事真っ只中なのだろう。


「仕事なんだし仕方ないよ」


『ごめんね……』


 謝りながら通話終了の電子音が鳴り、透華は携帯を置いた。


 今更誕生日に両親がいないくらいで落ち込むほどセンチメンタルではないが、こうして電話口で申し訳なさそうにされるとかえってもやもやしてしまう。


「……とうかさん、でんわ、ですか?」


 いつの間にか起きて寝室から出てきていた結衣が、まだ眠たそうな目をこすりながらリビングへやってきた。


「ええ、父からですよ」


「そうなんですね、お祝いのメッセージですか?」


「そんなところです」


 純粋なお祝いだけではなかったので言葉を濁してしまったが。結衣は気づかなかった様子だ。


「……実は今日、一緒にお出かけできたらなと思ってて……」


「良いですね、どこ行くかは決まってるんですか?」


「最終目的地は、決めてます」


 拓水が話していたのはこのことだったのだろう。自信ありげな結衣の表情からも、きっとたくさん準備してくれていたであろうことが伝わる。


「じゃあ、紅葉さんにお任せしますね」


 大きく首を縦に振ってからぱあっと破顔し、結衣は身支度を整えに部屋へと戻っていった。




 ◇◆◇




「天気も良くて、良かったですね」


 抜けるような快晴の空の下、結衣は楽しそうに笑った。


 結衣の纏う、空色のリボンタイつきブラウスと白いプリーツスカートは、まさに今日の心地の良い空模様を表現しているかのようだ。


「最初はどこに向かうんですか?」


「透華さんはどこか行きたい場所はないんですか? 最終目的地以外は自由にしてもいいのかなと思っていたんですけど……」


 あくまで透華の意志を尊重してくれるらしい。しかしせっかくなら結衣の考えてくれた行程で一日を過ごしたい。


「じゃあ一旦とまりぎに行きませんか? そこで一日の予定を決めるということで」


「……わかりました、そうしましょうか」


 ひとまず涼しくて滞在時間を自由にしやすいカフェで、今後の予定を決めようと提案した。六月中旬らしい過ごしやすい陽気にライトアップされたような街並みを歩き、とまりぎに向かう。


 しかし透華は少し引っ掛かりを覚えていた。結衣は逡巡するような素振りを見せてから、了承してくれた。前にもとまりぎは入るのに抵抗があると言っていたので、避けるべきだったかもしれない。しかし今更行き先の変更を提案するのも変かと思い、そのままにしてしまった。


「あ、いつものお客さん……」


 カランとドアのチャイムが鳴り、追って気だるげな環の声が聞こえた。


 やる気のなさそうな雰囲気の割に丁寧にカップを拭いていた環が指し示した席に着くと、注文を取りに来てくれた。


 長居するつもりはなかったのでアイスコーヒーだけ頼んだのだが、環がサービスで小さなワッフルを二つくれた。


「……なんか仲良さそうだし……でも美味しい……釈然としない……」


 はむはむとワッフルを頬張る結衣は、何故かその状態に相応しくないしかめっ面だった。


「……やっぱり雰囲気苦手ですか?」


 ここを選んだのは失敗だったかもしれない、と思って小声で問いかける。しかし結衣は首を横に振った。


「いえ、ちょっともやもやするというか……原因は私にある、みたいな……」


 なにかを弁明しようとするように話しているが、あまりはっきりとせず透華にはわからない。


「そ、それより! 次にどこに行くか決めませんか?」


 はぐらかすように話題転換される。最近は透華の真似のようにこうして話を逸らすようになった。


「んー、どこかに行こうと思っていなかったので特に何も決めてないんですよね……。紅葉さんのおすすめの場所はありますか?」


「私が決めてもいいんですか? でも、透華さんがそう言うなら……。じゃあ、足湯カフェに行きませんか? 最近新しく出来たところなんですけど……」


 やはり、計画自体は用意していてくれたらしい。折角準備していてくれたのならそれに沿って行動したい。


「いいじゃないですか、行ってみましょうよ。楽しみですね」


 自分の誕生日に、誰かが何かを準備してくれているなんていうことは、何年ぶりだろうか。いつになく透華の心は浮足立ち、わくわくが膨らんでいた。


「あ、新しく出来た足湯カフェ行くんですか?」


 カップを拭いていた環はそう言うと、こちらを見つめた。結衣がいるからか少ししっかりとした態度だ。


「……タオル、持っていくと良いですよ」


 環はそう透華達に勧めてくれた。


「ありがとうございます。じゃあ、お会計お願いします」


 さっと会計を済ませると、結衣が「私が払おうと思ったのに」と膨らませた頬で訴えかけてきた。


「折角のお誕生日だから私が払おうと思ったのに……」


「ふふっ、そんなにほっぺ膨らませて。かわいい」


 揶揄うようにそう言うと、結衣は顔を赤らめて歩調を早める。


 しかしだ。


「一旦タオル取りに戻りましょう? 慌てなくても足湯カフェは逃げませんよ」


「……っ、もう! すぐ子供扱いして! 許すのは今日だけですからねっ!」


 ぷんすこと怒る結衣に「なんだかんだ許してくれるんですもんね」と追撃しながら隣に並び、一緒に歩き始めた。




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