第3話 同居、始まる
「……やべ、何時だっ⁉」
昨晩閉めそこねたカーテンの隙間から差し込む陽の光に起こされた透華は、慌ててスマホで時計を確認した。
「十時⁉ やらかした……!」
昨日は早いうちに布団に入ったのだが緊張からか眠りにつけず、寝坊してしまった。
眠りが浅かった理由は明白で、今日結衣が引っ越してくるという事実への緊張が透華の睡眠を妨害していた。昨晩なかなか寝付けず、スマホのアラームにも気づかなかったのだ。
(突然自分の家に女性が引っ越してくるんだから、普通に寝ていられる方がおかしいだろ……)
現在時刻十時五分。あと二十五分で結衣が引っ越し業者と共に家に来てしまう。
結衣に使ってもらう予定の部屋は片付けたりする必要は特にないのだが、寝起きの姿ではそもそも出迎えられない。
「急がないと……」
半ば紅茶で流し込むように朝食を終わらせて身支度を整えて待っていると、予定していた時間ちょうどにエントランスのインターホンが鳴った。
『おはようございます、結城さん』
インターホン越しに結衣の声が聞こえる。
「おはようございます、紅葉先生。今開けるので、右側にあるエレベーターで上がってきてください」
『わかりました』
程なくして今度は部屋のチャイムが鳴る。
「おはようございます、紅葉先生。……あの、大丈夫ですか……?」
ドアを開けるとそこには、昨日路上でうずくまっていた時よりも顔色が悪い結衣がいた。顔が青白く、生気が薄いように感じられる。
「大丈夫です。もうすぐ引っ越し業者さんが来るのでお願いします」
心配からそう問うたものの、すげなく返され、それ以上は追及しないことにした。
十分ほどして引っ越し業者がやってきた。結衣の荷物がかなり少なかったので、搬入は二十分とかからずに終了した。
引っ越し業者が帰り、結衣と二人になったところで、透華は問いかけた。
「あの、少し休んだ方がいいんじゃないですか?」
誰がどう見ても、結衣は明らかに体調が悪い。顔面は一層蒼白になり、心なしかふらふらしているようにも見える。その全てが、明確に結衣の体調不良を物語っていた。
「布団さえ敷けばすぐに休めると思いますけど、どうしますか?」
「…………お言葉に甘えても、いいですか」
やはりかなり参っていたのだろう、透華の提案を素直に受け入れてくれた。
運び込まれたばかりの布団袋から布団を取り出し、ベッドを整える。
「ゆっくり休んでください。何かあったら呼んでいただいて構いませんから」
「ありがとうございます」
そう言って結衣はパタンとドアを閉めた。
「……大丈夫かな?」
透華としては、具合の悪そうな人を見て見ぬふりは出来なかった。
(それにしても、これからどうしたらいいんだろう……)
今日から同居が始まるわけだが、結衣の態度はやや冷たい。少なくとも人格破綻者などではなさそうで安心したが、これから良い関係を築いていけるかどうかはまだわからない。
そもそも結衣はストーキングのストレスなのかかなり体調が悪そうだったので、そこを改善するところからスタートだろう。
先日まで知りもしなかった人の面倒を四六時中見られるほどお人よしではないが、大変そうな人を見捨てるほど冷酷でもない。しかし突然過度に干渉されると余計なストレスになってしまうかもしれないので、関わり方は難しいものだ。
「はぁ、本でも読もうかな……」
結衣も休んでいるし、透華も少し落ち着く時間が必要だ。
自室の本棚から本を取り出す。最近話題になっていた推理小説だ。
アイスティーを用意したり、日当たりの良いリビングに移動したりと、最適な環境を整えてから読書に興じ始めた。




