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第16話 初デート(?)①

「何見てるんですか?」


 土曜の昼下がり、読書を終えて結衣を見ると、何やら雑誌を読んでいるようだった。


「近くに新しいカフェができたんですって」


 これです、と結衣が見せてきた雑誌には、美味しそうなパンケーキの写真とそのお店の地図が乗っていた。


「あ、あの……一緒に行きませんか?」


 おずおずとそう尋ねた結衣は雑誌を軽く握り、緊張した様子だった。


「そんなに固くならなくても、一緒に行きましょう? 家に引きこもってばっかりでも気が滅入りますしね」


「え、でも、もし誰かにばれたら迷惑かけるかもしれないですし……」


「別に犯罪でもなければ誰かに迷惑をかけるわけでもないですし、良いんじゃないですか?」


「結城さんそういうところ緩いんですね……」


「緩いんですかね……?」


 別に自分では緩いとは思っていなかったがそうなのだろうか?


 透華の考えとしては周囲の人に迷惑をかけたり不快な思いをさせたりしなければあとは個人の勝手だと思っていたので、先生との外出だろうが抵抗はなかった。


(まあ外聞が良くないのもわかってはいるから気をつけはするけどね……)


 そんなことを考えつつ、結衣に声を掛ける。


「じゃあ、三十分後出発でいいですか?」


「はい、大丈夫です」


 女性は色々身支度に時間がかかるものだろうと長めに時間をとってみたが、これで十分なのかは心配だった。しかし大丈夫ですと即答できるくらいならば大丈夫なのだろう。


 透華も準備を始める。とはいえども男性の出掛けの準備は余所行きの服に着替えて髪型を整えるくらいのもので、さほど準備がかかるわけではない。


 案の定結衣より早く準備し終わり待つことになったので、その間にカフェの予約を取ることにした。雑誌によると予約なしでも入れるようだが、雑誌に掲載されたことで混雑することも想定されるので予約を取った方が良いと判断した。転ばぬ先の杖というやつだ。


「お待たせしました、行きましょうか」


 スマホで予約を取っている間に結衣の準備も整ったようで後ろから声を掛けられた。


「おおっ……」


 後ろを振り返ると思わず声が漏れた。


 ホワイトのフレアスカートの上にテーラードカラーのベージュコートを羽織っており、いつにもなく大人びて見える。若干童顔めいている結衣だが、カジュアル過ぎず清楚過ぎないコーディネートで綺麗にまとまった印象を受けた。


 今までは白衣・スーツ・寝間着のいずれかしか見たことがなかったので、私服はとても新鮮に見えた。


「……あんまり見られると恥ずかしいんですけど……」


「…………あっ、すみません……」


 若干顔を赤らめている結衣の言葉で意識が現実に引き戻された。


「いや、でもすごく可愛いですね」


「えっ、いや、あのっ……」


 素直に褒めると結衣の顔の赤みが増し、林檎のようになってしまった。


「大丈夫ですか……?」


「大丈夫ですけど……あんまり女性にそういうこと言わない方が良いと思いますよ?」


 少しむくれたように言う結衣に申し訳なく思いつつも、褒めることは躊躇するなという母の教えなのでもうちょっと褒める。


「ちょっと大人っぽい服装ですよね。いつもと違う感じがして良いですね」

「話聞いてます……?」


「和装も似合ってましたけど洋装も似合うんですね。何でも着こなせるとか凄すぎません?」

「あのっ……えっ?」


「似合う人に着てもらえて洋服も本望なんじゃないですか?」

「っ……⁉ もうっ、なんなんですかっ⁉」


 いつしか結衣は涙目になっていた。


「あー、ごめんなさい。口が滑りました」


「わざとですよね⁉ 明らかに揶揄ってましたよね⁉」


 だって良い反応するんだもん。


 ちょっと嗜虐心がくすぐられていじめ過ぎてしまった。


「ごまかさないでくださいよ、もう……」


「すみません、じゃあ行きましょうか」


 エントランスを抜けると、五月上旬にしては冷涼な風が頬を撫でた。


「最近は気温の変化が激しくて服装に困りますよね……」


 そうこぼす結衣だが、コートを着てきたあたりしっかり天気予報を見てきたのだろう。


「そうですね、毎年いつ衣替えしようか迷っちゃいます。紅葉先生もだったりしますか?」


「ですよね、あはは……」


 何だか会話のリズムが噛み合わず、気まずい雰囲気が流れた。先程から結衣の様子が変だ。


「…………んんっ、あのっ、先生呼びは外聞が悪くないですか? 外聞、じゃなくても休日に先生と生徒、みたいな関係を意識しちゃうと疲れますし…………どうですか?」


 結衣は喉を鳴らすような咳払いをして、もっともらしくそう言った。


「……ふふっ、あははっ!」


「っ⁉ なんで笑うんですか?」


 不意に笑い声をあげてしまった。


「いや、だって、それを言うのに緊張してそんなに挙動不審になってたってことですよね? なんか、可愛いですね」


「また馬鹿にしてますよね……」


 結衣にじと目でにらまれる。本当に揶揄いがいのある人だ。


「まあまあ、じゃあこれから学校以外では紅葉さんって呼ばせてもらいますね」


「まあまあ、でごまかせると思わないでくださいね……? 呼び方に関してはそれで、お願いします」


 そんな会話を交わしながら川沿いを歩いていく。マンションからカフェまでは徒歩二十分ほどなので、ここで半分くらいだ。


「そういえば、紅葉さんはもうこの生活にも慣れましたか?」


「はい、この生活も結構馴染んできました。感覚としては私が餌付けされてる感じなんですけど……」


 あはは、と目尻を下げる様子に、未だ引け目を感じている様子が薄く透けていた。


「僕も大分慣れてきましたよ。紅葉さんとも休日にデートに行けるくらいの中になりましたしね?」


「で……っ⁉ 私、別にそんなつもりじゃ……!」


「そうなんですか?」


「……っ! 絶対また揶揄ってるじゃないですか! もうっ、今日はなんなんですか!」


 顔を赤らめて怒っている。怒っているのだが、その怒り方がぷんすかという擬音語がぴったりなほどに可愛い。


「すみません、もう揶揄わないのでそっぽ向かないでくださいって」


 ぷいっと顔を背けてしまった結衣に慌てて声を掛ける。揶揄いがいのある人であるのは確かだが、不快にさせたいわけではないのだ。


「わかりました、今日の晩御飯何でも好きなもの作りますから」


 普段から要望があれば出来る限り沿うようにしているが、お詫びの意を込めて何でも作ろう。


 そう声を掛けると、結衣はぱっとこちらを振りむいた。しかしすぐに前を向いて早足で透華を置いていく。


 風で流れる髪の隙間から覗く結衣の耳は真っ赤に染まっていた。


「おいしすぎるご飯作る結城さんが悪いんだもん!」


 幼子のように言い切って、結衣は小走りで堤防を進み行く。


(……かわいいかよ)


 追うように歩調を早めながらも、頭の中はそんなことを考える透華だった。




普段は優しい透華くんですが、適度に結衣を揶揄うのは続けるんでしょうね。

因みに女性の服装を褒めるのは硝子の教育の賜物です!

まだまだ二人の初デートは続きますので、今後もご愛読の程よろしくお願いいたします!(松柏)

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