諦神 ヴォルド
諦神と決死の交渉…
「…少しは聡いようだな。」
その男は話した。
「霊気の事?」
私が妖気を見て、即座に霊気で対処したことを見抜かれたのだろう。
私は魔法の短刀を抜き、両親が娘の健康を願って毎日込めた
お祈りパワーを込める。
「どうか、戻ってきて!」
「ああ神様、どうか…」
力を使うと両親の祈りの声が重なった。
距離は…2、3歩分。
…ここがもともと複数人用のトイレでよかった。
男が手を伸ばす。
「記憶を読み取らせてもらおう」
「その瞬間殺すんでしょ…!」
私はお見通しだ…あなたの声は一方的だ!
刹那、妖気と霊気の間で光が起こる。
夜中なのに昼のような閃光が部屋を包む。
バチバチと光が手を襲う、男は思わず手を引いた。
バチ…バチバチィ!
お互いにらみ合ったあと、
男が妖気を纏った手で強行突破を試みる。
ポコ…ポコポコポコ!と妖気が沸き立つ音を立てて
手がこちらに向かってくる。
私はお祈りパワーを限界まで宝石に込めた魔法の「霊刀」で対抗し、
男の腕を薙ぎ払った。
霊刀は刃が魔法の力の塊でカぎらつく特殊な状態だ。
キーン!
刃と妖気が一瞬拮抗するが、全力で押し通す。
ザンッ!
男は再び驚いて手を引く。
妖気がもげ、指が欠けたからだ。
今は何も考えない。読まれる。
「一人、閉じ込めて記憶を読み取ろうと思ったが
面倒だ。見逃す条件を出す。」
諦神は私を見つめ、
その体にはより強い妖気を纏っている。
次は無い。
フラリスはにじむ汗を抑え、
全神経を集中する。
「俺の目的は贖罪の誓いに従い、ギルドに雇われた人員が
真に義を守る人間か確認することだ。」
諦神はそう話した。
パチパチとお互いの間で火花が散り、警戒状態だ。
「俺は人間との交渉を無駄だと感じている。
ほかの誰かを差し出せ。
その記憶を読み取って判断してやろう。」
それは交渉を諦めた神の信念だった。
差し出さなければ許さない、
仲間を差し出す愚か者ならやはり許さない。
人間を信用しない、まともな交渉もしない。
人間の愚かさに、共生が不可能と感じて
自らを数少ない信用できる人間に封印してもらったのだ。
それで人間を見逃してやったのだ…あの時までは。
それをこいつらは…
「なら、見守ればいいじゃない。
この子は真にいい子よ。」
本心でそう言う。
それを見た諦神は自身の一部を外して
石の腕輪を作る。
「これを腕につけろ、
自らの義に反する決断をしてみろ、腕が飛ぶぞ。
その娘が信用できるなら…付けろ。」
私は遠慮なく、その腕輪を受けた。
「これでいいよね。」
石はきれいに右腕に腕輪としてくっついた、
違和感は全くない。
そこの交渉は必要なかった。
この存在は信用できる。良いだろう。
交渉を諦め、その提案に乗ろう。
言外の納得がその場の空気を緩めた。
「ああ、それで俺も心を常に監視できる。
少しの間だが、お前と娘を見極めてやろう。
以前の馬鹿どもと違うといいな。」
そういって、部屋の魔法陣を消す。
諦神の姿は徐々に薄くなり…消えた。
トイレで、私は座り込むと冷や汗があふれ出す。
決して便意じゃなくて
両親と日葵のお祈りパワー、
レベルの低い体で頑張りすぎたせい。
体にジクジクと激痛が…!
私はトイレのカギだけ確認し、その場で精神を日葵に返しながら
日葵の魂を掴んで体に戻す。
本当に久々に意識が途切れる中、日葵の魂は笑顔で
私を見守ってくれていた。




