夕暮れとたくましいおばあさん
日葵は鍛冶屋の扉を開けて、外に出る。
「えっと、確かこの道の左側に直線で向かうんだよね…」
夕暮れ時になり薄暗く、路地は見えづらくなっていて
夕焼けには蝙蝠が不気味に羽を伸ばしているのが見えた。
人通りもなくなった石造りの街道は、冷たさと不気味さを漂わせていた。
私が道を歩いていると、
路地からガラの悪い男の人が道を横切るように現れた。
このままだとぶつかるしれないと咄嗟に考え、
私が横に避け距離を取る。
男は立ち止まり、私をにらんだ気がした。
私は走った。
足音に交じって、後ろから舌打ちのような音が聞こえた。
(舌打ちするって、何かするつもりだったの…!)
そう思うと周りの路地から覗かれている気がして、私は夢中で駆け抜けた。
息を整えながら立ち止まると、
石造りの建物に吊るされた鉄製の看板が目に入った。
夕暮れの中、大きな丸の中にTのマーク
「Tのマークだ。ここだ!」
Twilight Innと書かれたその石造りの宿を見た私は笑顔になった。
急いで中に入る。
質素な宿だ、従業員は受付に1名と奥に何名かいる気配があった。
すこし汚く見えたが、そんな事は気にならなかった。
私は受付をしていたおばあさんに声をかける。
「あの、すみません。泊まりたいのですが、今日は空き部屋、ありますか?」
私を見たその目が疑惑の色を浮かべたのに気が付いた。
おばあさんはあきれたようにこう返してきた。
「ガキの冷やかしはやめて、そんな年齢じゃないでしょ。
どうしても泊まるなら500クラン渡しておくれ」
本気じゃないと勘違いされている。
私は急いでバッグを開けようとした。
しかし、頑丈でなかなかあかない。
その様子を見て、おばあさんは何か思いついたように声を発した。
「そのかばん、もしかしてひったくったのかい?貸しい!」
おばあさんが私から見事にバッグを奪い、手に取る。
ダイナミックにバッグを開けると中から手紙と布袋が出てきた。
まるで盗みの証拠が出てきたかのようにおばあさんが笑う。
「これを読ませてもらうからね。嬢ちゃんの名前は?」
「建内 日葵です。」
名前を聞くとおばあさんはその手紙を取り出し、読み始めた。
おそらく私がバッグと関係ある人物か、見極めようとしているのだろう。
「日葵ちゃんへ 今日は働いてくれてありがとう。
事情があって大変かもしれないけど、いつか両親のもとに帰れることを祈ってるよ。
忘れていたら危ないから、ホテルの位置と名前についてここに書いておくから泊まるんだよ。
(Twilight Innの名前と位置関係が記載されている)
明日はうちの鍛冶屋は休みだから、
縁の下ギルドに行って事情を聞いてもらいなさい。」
…ルーニーより。
そこまで音読すると、おばあさんは私の名前とその内容に頷き
このバッグの持ち主を理解してくれたようだった。
私はその開いたバッグ中の布袋から500クラン札を取り出しておばあさんに渡した。
おばあさんは札を確認し、いいのかいこんなに…と意味深に囁くと、そのまま部屋に案内してくれた。
石づくりで、テーブル・ベッド・荷物置きがある質素な部屋だった。