一将功成りて万骨枯る
食事を食べてすぐ、仕事が始まった。
昨日よりも多くの冒険者が来ているのが分かった。
でも私は焦らなかった。
心強い仲間がいたからだ。
レンさんは時にカウンターに入り
時には依頼用紙を整理回収し
時にはラブレターをもらいと大忙しだった。
バルドさんはケンカやいざこざがないか
衛兵さんとともに見張ってくれてかなり心強い。
私とキャロスさんはただ業務に集中すればよかった。
あの時までは…。
「…へん!ばかども!」
何?
「止まりなさい!」
衛兵さんの声だ。
その声が聞こえたのは、午前中の終わりのころだった。
乱雑にギルドが開かれ、招かれざる客が入ってきた。
「おいおいここが草取りギルドかよ!」
「笑っちまうぜなあおい、俺たちギルド追放組より下だぜ!」
何だって?何も知らないくせに。
「おいおいおこちゃまが受付やってるぞ!
おい、あのおこちゃまから仕事貰ったお前その紙見せろ!」
冒険者さんから紙を取る。何するの!
「うわー家具運搬だってよ。底辺すぎ!
ヘイ底辺この紙返すわ!
俺たちのいたギルドでは4000クランの仕事もあるんだぜ!」
周りの一般冒険者も一歩引くしかない。
「うわ…、高レベルかよ。なんでここにいるんだ?」
「煽りに来てきっと憂さ晴らしだぞ。」
「めーつけられるから静かにしとけ!」
見るとバルドさんが5人の中の3人を追い出し中のようだ
「くそ、おら出やがるんだ!無駄な抵抗しやがってこいつら…!」
ギルド外に追い出した相手が内に入ろうとしていて人数に苦戦しているようだ。
それでも追い出したのだからすさまじい力だ。
衛兵さんは力で負けてしまって手も足も出ない。
きっと相当レベルが高い、肩に力が入る。
私の息が震え、汗が出るのを感じた。
ついには2人は受付の横まで来て冒険者さんをあおり始めたので
私はいてもたってもいられず反論する。
「底辺ではありません!この方たちはいろんな悩みを持っている
依頼者と、自分自身を幸せにするために来ているんです!」
私は真剣だった。
彼らを見つめて意見を話した。
…彼らは不誠実だった。
「底辺は底辺じゃん!ダンジョンいけねー底辺底辺!」
私は首を振り、仕事の重要性を説明する。
「違います。ダンジョンに行くだけではみんなが生活できません!
ダンジョンだけでは、食事も鍛冶も警備も賄えません!」
不良は考えるのをやめたのか、今度は私をエサに周りを馬鹿にし始めた。
「おいおこちゃまが何か言ってるぞーおこちゃまに庇われる底辺どもぉ!」
許せない!
「底辺じゃありません!!!!」
私は涙ながら叫んでしまった。
一瞬驚いたように不良はこちらを見るが
私の短刀を奪おうと手を伸ばす。
あ、まず…
それを止めたのはレンさんだった。
掴んだ相手の手がねじれてる…気がする。
「お前らは、真面目な人を壊すだけの魔物だろう。
魔物以下などいるものか…」
お、怒ってる…レンさんが…おこってるよ…。
今は事務員として武装を持っていないはずのレンさんだが
すさまじい勢いで怒り、宙には水の宝珠にて作った固形の水の剣が浮いている。
その浮いた剣の刃には光が燃えるように輝いていた。
一歩間違えば切り伏せる気だ…。
私はレンさんもある種の魔物に思えるほどだった。
キャロスさんのほうを見ると、立ち上がりこちらに向かっている。
その目は鋭く、片手が黒く染まりもう片手には…雷拳を帯びて。
それだけではない、ギルドの傍観者たちの目も先ほどと異なっていた。
まるで今すぐにでもどうかしたいような…恐ろしい目。
「や、やべええ!逃げるぞ!」
彼らは逃げて行った…。




