はじまり
ふと気が付くと私は見知らぬ街に一人立っていた。
私は顔を隠して泣いたまま、移動した事だけ理解した。
「やあ、お嬢ちゃん」
通行人の男に声をかけられ顔を上げる。
迷子と思ったのだろうか、その男は笑顔で問いかける。
「なあ、大丈夫かい?え、その虹色の服は…」
不思議な服だ、パジャマなんかじゃない、虹色に輝いて体を隠している。
周りの視線が私に集中していた。
こんな服目立つから着替えたい!
私はどうしようもないぐらい、恥ずかしくなった。
「すみません!驚かせてしまって!っ~!」
思わず近くの建物の扉に逃げ込んだ。
息を切らし、とっさの行動に床から視線を動かせなかった。
数秒後、顔を上げると炉やインゴット、バケツ等が並んでいた。
どこかから装備を売るお姉さんのセールストークも聞こえてくる。
部屋の中で優しそうなおじさんが一人で炉を回転させるため薪の準備をしている。
ここは鍛冶屋のようだ。
慌てて飛び込んできた私に気が付き、
背中を向けていた金髪で中肉中背のおじさんは顔をこちらに向けて驚いた。
「どうしたんだね君…」
「そんな服まで着込んで、依頼にあった鍛冶を手伝いに来たのかい?」
服!そうだあの恥ずかしい服を着たままなんだ!
着ている感覚がなんだか変わった気がする。
そうして自分の服を見て驚いた。
鍛冶屋さんの服だ!
どことなく虹色だったが胴体をカバーするレザーエプロンまでしていて
私のイメージと完全に一致していた。
私は魔女さんの言っていたことを思い出す。
<貴女の気持ちに応じて変化する。生活上の不便はないわ。>
<貴女にふさわしくない日常生活をさせてあげる>
思えば私はベッドで寝ている間普通に働くことを夢見て過ごしていた。
毎日学校に行って友達と遊んだり、お店でお手伝いをしたり、汗をかいて働くこと。
私にとって「ふさわしくない」。遠い夢だった。
(もしかして、ごく普通の暮らしができるのかな…?
息もつらくない。体もいたくない。 これなら動ける
動けるなら 動きたい)
これが私の本音なのかな。
学校に行って、仕事もしたい!
そう思うと自然に言葉が声が出ていた。
「ここで鍛冶を手伝わせてください!」
鍛冶屋はにこやかにその決意を受け入れた。
私の鼓動は高まっていた。