影と日常 - 不穏
階下に降りると、衛兵とキャロスさんが話をしていた。
「ギルドの壁に矢が刺さっていますが、
その付近から強烈な甘い香りが観測されています。」
「そうか、そのために昨日…。」
「ハチュッシャは特に甘いものに吸い寄せられる性質があるので
それを利用してギルドの住人を襲わせようとしたのでしょう。
ハチュッシャを収めていたと思われる箱もありました。
中級以上の冒険者か、金持ちか不法組織か…
入手できる人物は多くいるので特定は難しい状況です。」
キャロスは考え込み、苦笑いする。
彼は依頼のトラブルから恨まれる可能性があるのだ。
「全く、ほかの家じゃなくてギルドで良かったかもしれんな。」
衛兵は首を振り、思わぬ事実を告げる。
「実はほかの家にも被害が出ているようで…
今後の方針を決めていますので、ご連絡をお待ちください。」
キャロスさんは真剣な表情になった。
私はふいに後ずさった。ここの治安は悪すぎる。
口々に心配された理由、今まで以上に身に染みた。
「我々としては私怨の線も考えているので、
心当たりを教えていただけませんか?」
足を動かしながら腕を組みキャロスは口を開く。
「心当たりか…。
隣町のギルドを追放された中級冒険者が傲慢だから
依頼拒否してやったことはあったな。
あっちは規模が大きいからそういうやつが多い。」
隣町のギルドのほうが規模が大きいんだ。
仕方ないよね…。
「リーファに言い寄った男を撃退したり
ほかにも…」
キャロスさんはそのあと、心当たりのある名前や情報を伝えていた。
早く捕まってくれないかな…。
キャロスさんはハチュッシャの解体と
壁の矢を取り除くのにずいぶん時間がかかったようで息を切らしていた。
朝食に出たパンとハチュッシャの焼いた肉は、かなり固いが
噛めば噛むほどおいしく、その味はわずかに不安を隠した。
私は通常通り、仕事準備をして
ギルド業務を開始する。
私の服は業務用に戻っていた。
今日は人が多かった。
依頼を聞いていると宅配作業が追加されており
私に配慮して普段は受けないような依頼を増やしてくれたみたい。
ギルドには活気があった。




