雷拳が貫く
バリーン!
私はびっくりして起き上がる。
近くの部屋からだ。
バタバタと音が聞こえて、キャロスさんが扉を開けて
一瞬こちらを覗いた。
「何かが来た、ちょっと来い。後ろを見ておいてくれ。」
「は、はい!」
そーっと進むキャロスさんの後ろで、
私はおどおどと周りを見ていた。
服が海老の殻のように薄く固くなり、触れるとへこむ。
まるで自分の不安が形になったようだ。
ドタン、キシュキシュ!
何かの動物だ!
「ここで待て、あいつは危険だから。」
扉を開けるとパンをむさぼりながら、その生物が顔をこちらに向けた。
”ハチュッシャ”という兎とネズミの中間のようなげっ歯類だ。
初級から中級ダンジョン・その付近の草むらに潜み、
魔法の類なのか一見摑まれそうにない壁にも張り付いて
移動することがあるという。
飛びついてきて食料や顔をえぐる危険な害獣で有名だ。
逆に彼らがいれば、近くにダンジョンがある。
でも、何で街中のギルドにいるの…!
「こいつ、俺の夜食の食い残りを…!」
キャロスさんは手に雷を纏わせる。
表情はわからないが、手はみるみる赤くなった。
腕をそーっとおろして一気に正拳突きを行い、
赤い雷の拳が飛んでハチュッシャを殴打した。
バリッ!
雷の光が見えて、びくっとなって私は目を閉じてしまった。
足音が室内に入っていく。
少し焦げたような匂いが風と共に舞い込んでくる。
「終わったぞ。」
暫くして目を開けると動かないハチュッシャ。
「ギルドのメンツのために修理しないといけないよな、
ボロギルドだなんて思われたくはないしな…。」
キャロスさんは費用のことで悩んでいるようだった。
そして、モンスターの首根っこを掴み持ち上げる。
「こいつにはその肉で賠償してもらわないといかんな。
高すぎてあんまり肉は食えないんだが、今回ぐらいはいいか。」
はは、お肉だ。
「ハチュッシャの肉は、可食部だけにすれば450~600クラン程度の価値がある。
食べても十分残る量もあるし、
売れば少しの費用にはなるしな。」
キャロスさんは冷静に”それ”を調理場に持って行った。
私はガラスとか血とかそういうのを掃除した。
特にキャロスさんのベッドは横から念入りに見て、取り除いた。
その時どこかから甘い匂いがした気がする。
そして、ただパンを食べていたつもりだったかもしれない
ハチュッシャさんには心の中で謝った。
外では衛兵が相談している光景が見えた。




