善因善果 - 恩と刃
私は意を決し、声を出す。
「ありがとうございます!
…あと、一昨日はすみません。
バッグや高額なお給料も頂いてしまいました。
縁の下ギルドで住み込みできることとなったので、お返ししたいと思っています。
あの、でも残りが1000クランで…」
今のギルドの日給の80倍の差がある金額。
それだけの大金をルーニーさんは私のために渡してくれたのだ。
しかもバッグや布袋も併せて…。
私を助けるつもりで支援してくれたんだから
仕事が見つかった今、残った分は返さないといけない。
「やっぱり…あのばあさんは逞しいね。
夕方や夜に行くと500クランの部屋を勧めてきただろう?
親切でいい人ではあるんだけどね…
だから、体調を崩した時のために多めに入れておいたんだ。」
ルーニーは苦笑いしながらそう話す。
私はカバンを開けて布袋から頂いた残りの1000クランを取り出した。
紙幣が音を立てて手の中で整列する。
それを見てルーニーさんは複雑な顔をする。
「日葵ちゃんが1000クランを返したいなら受け取るけど、
それでも元気で暮らしてほしい気持ちは変わらないから、
何かしてあげたいな。」
少しの沈黙が流れ、何か思いついたルーニーさんが小刀を持ってきた。
黒い鞘、ごく小さな宝石が柄についた小刀だ。
刃渡りは二の腕ぐらいに見える。
「実はね、昔親父が残したコレクションの中に、"北連合-和権国"製の短刀があってね。
応鉱石がしっかり使われていてかなり良さそうなんだ」
(応鉱石!)
フラリスさんが嬉しそうな声を出した。
「こちらじゃ刃の素材が再現できないしうまく研げないって噂で、
刃こぼれしたら修理が難しいから売れないんだ。」
ルーニーさんが鞘をずらす。
刃を少し、綺麗な波模様が見える。
「綺麗なんだけど、芸術品としても長刀が人気らしくてね。」
そうして小刀を差し出される。
「せめてもの気持ちとして、護身用の短刀を受け取ってくれないかい?」
つばを飲み込んで私はルーニーさんの顔と短刀を見ていた。
あげたいという気持ちがしっかりと伝わってきた。
昨日読んだ本"魔法と武具"の内容によると、
応鉱石が使われる短刀なら魔法の練習に使えるかもしれない。
私は言葉だけではその短刀の価値がわからなかった。
しかし値踏みするのは失礼だと思った。
「わかりました、お気遣いいただいて助かります。
とても嬉しいです!」
私は片手でクランを差し出して、片手でその短刀を受け取った。
両手で輪ができて仲良くなったのを感じた。
…
…
ルーニーさんに使わなかった1000クランをお返しした上で
報酬の140クランと、短刀を受け取った。
将来、恩返しをできるように私は生き残る!
そう思う気持ちがより強くなった。
魔法の短刀を、魔法服に自然とできた格納場所に入れる。
私の心に、強く刻まれた恩返しの刃。
今までの気持ちに一区切りつけて、ギルドに戻った。
ギルドに帰ると、私を待っていたキャロスさんに
依頼の無事終了を告げて、報酬の140クランを取り分である40%の56クランにしてもらった。
レベルを上げる…そうだ。
ダンジョンでは危険な代わりにレベルが上がりやすいって、
昔どこかで聞いたことがある。
ダンジョンの本を読まないと、何が必要かもわからない。
もしかしたら、行かないといけないのかな…。




