全能ヒント
日葵が祠をイメージし精霊と対話した時の出来事である…。
「いつも見守ってくれてありがとね日葵ちゃん!」
祠と森をイメージするも精霊のイメージは浮かばない。
感謝の声だけだ、だが好意的なことでほっとする。
「あなたは、あの祠の精霊さんですか?」
いたんだね。
「祠の精霊じゃないけど、祠を見ていたよ。
私の名前はフラリス。担当は風と全般かな。」
祠と私は違う、とフラリスさんは言いたいんだ。
風の魔法ができるんだ。
「そうなんですね。私を見ていてくれたんですか?」
一緒に祠を見てたんだから
もっと前から話しておけばよかった。
「そうだね。つまらなそうにしていたから気になっていたんだ。
あの魔女にお気に入りの祠を汚されて、嫌な感じに巻き込んじゃったし
この機会だからぜひ手助けしたいなと思って!」
嬉しい!
魔女さんの仕掛けた呪いだったんだ。
「あの祠はフラリスさんの、お気に入りだったんですか?」
なんで祠がお気に入りなんだろう?
「人間の友達の作ったものだから、思い入れはあるよね。」
そっか、私も同じ立場だったら気に入るかも。
イメージ内で風が流れ、私の髪が靡く。
「ところでさ、これからのヒントほしいよね。」
ヒントって言っても何を解決すればいいんだろう。
「ヒント、ですか?」
「そう、これからは危険な選択ばかり取らないといけないからね。」
体が少し震える
「魔女がいるから…ですよね。」
フラリスさんは相変わらず声だけしかわからない。
それでも、まるで餌に食いついたかのように
何かが切り変わったことはすぐに分かった。
イメージ内の森が明るくなった気がした。
「そうだよ…困ったときに頼れるあなただけの選択肢。
私は考えました!その名は”全能ヒント”!」
なんだろう?
「”全能ヒント”?」
イメージの森が紅葉に染まるそして明らかに、口調が変わった。
紅葉が舞い散る、特別感がそこにはあった。
「これは何の憂いもない第二の選択肢。
貴女だけの特別提供、世界最新版の賢い契約。
これは決して詐欺ではありません。」
思わず呆然としてしまった、
「特別…賢い契約…」
「そうなの!これ、すごく頼りになるんですよー。」
「何の心配もなく使えるヒント?」
一呼吸置くように、なんでもない提案が私に飛んできた。
「余った体力や精神力をくれるだけで
すっごく有用なアドバイスをします!」
え、ヒントに精神力や体力がいるのはちょっと…
「その後響かない?」
イメージ内で水のしずくが落ちてきて、輝いている。
綺麗な光景だった。
「そこがこの契約の凄い所なんです。
貰ったエネルギーの一部を使って何をするかって分かります?」
これは簡単だ。
「フラリスさんのお食事?」
イメージの森が一瞬固まった気がした。
「…。
例えば寝る前なら余った体力分しか受け取らず、
起きているならあなたの望む分だけ受け取って、
あなたの治癒能力を高めるんです。
だから夜もぐっすり朝もすっきり、
効率的なサイクルを実現出来るからお得なんです。」
一瞬暗くなる、そして再び朝になり、森の香りが漂う。
清々しい朝と言いたいんだろうけど、
本音は体力や精神力を搾り取りたいのかな。
「どんなアドバイスをくれるのか、分かんないと、何も言えないよ」
すると祠が開き、本が出てきた。
私はそれを手に取る。
「そうですよね?今からそのご説明をいたしますのでご拝聴ください。」
「一応聞こうかな…」
私は本を開き、目線に合わせてフラリスさんが説明する。
「契約したあなたの知識と思考をもとに導き出した最適解を教えるよ!
周りからおかしいと思われないなんて凄いでしょ?」
それだけ?記載もそれだけだ。
「自分で考えるのと何が違うの?」
風が一瞬止まり、また動き出す。
「…。最小限のリスクで大きな成果、正に監視されている方にぴったり。」
…答えになってないよ!
嵐のように圧倒的な情報量が
吹き付けてきて判断が緩みそうになる、でも負けないもん。
フラリスはそんな気持ちを察してかさらに語調を強める。
「すごい利点があるの!貴女は考える時間すら…必要ありません!」
その場でヒントを求めるんだよね。
「それってフラリスさんの考える時間が必要なんじゃ…?」
森が曇り、一瞬雨が降った。
「…。
訓練しきれなかった体力や精神力でヒントを使い、
もったいないを有効活用。
アドバイスを主体に治癒能力をまとめることで、
お手軽に1つの祈りで2つの効果を実現しました。」
もったいないって言われると
「確かに使えない体力はもったいないの…かな?」
清々しい風が吹き、雲が流れ、青空が木々の間から垣間見える。
「そんな体力を使えば安定的にあなたに作用して、幸せになります!」
…もしかして有用だったりするの?
だめ、雰囲気にのまれちゃいけない!
目の前の木と木をツタがつないでいるのに気が付く。
沢山の葉っぱがその間についている。
「継続してヒントを活用して時間を作り、
訓練で体力がついていく。
すると訓練しても体力が余るから、
日中に何度も教えてあげられるようになるの!」
「それは嬉しいかもしれないけど…」
「ここからは特典です。」
葉っぱが私の頭に落ちてきた。
「初回契約記念で今なら専属になってあげる!
さらにおまけして、初回ヒント無料まで付いちゃうんです!」
「へ、へえーー」
木の実が2個、本に載ってきた。
私はそれを転がして落とす。
「特典満載、贅沢気分!人生、2倍楽しくなります。
貴女は、この提案のとりこになっています…」
「いやそんなことないけど。」
だが、次の提案は私にとって断りづらいものだった。
「私から話しかけられるようになります。
だから、ずっと話せる友達になれるよ。
これが一番、魅力的だよね。」
それは…卑怯だよ。
「ずっと、友達…。」
「こんなに近くに友達はいないでしょ?すぐに親友になれるよね」
風で本がめくれ、手をつなぐ絵が乗っている。
「どう?これ以上譲れない好条件だよ!」
そうしてなぜか自然に私の体が回り、自分の家が見えた。
私の心をフラリスさんは本当に理解してるんだ、帰りたいって。
「最後に慎重なあなたへのとっておきの提案だよ。
1か月間の後に契約解除をしたければ、断腸の思いで受け付けちゃいます。
私はきっと泣いちゃうけどね!」
私はその様子を想像し、呼吸が浅くなる。
断りづらいよ…。
そこのあなたにもとっても素敵な提案だよ!
あなたの脳内に、私をイメージして「全能ヒント」をもらうの!
あなたの精神と引き換えに、”私”があなたの知恵を使ってアドバイスできる。
そしてあなたは、ほかの人にフラリスを広めてね。




