異変 槍の巣
政治家のセドンさんに
依頼者カウンターの会議室で
さっそく面談を開始する。
「実は我々は今非常に困っておりまして
力を貸していただきたいのです。」
会議室の空気は重かった。
セドンは深く一礼すると、真剣な目でキャロスを見据える。
「槍の巣から……撤退せざるを得なくなりました」
その言葉に、キャロスさんの顔が苦く歪む。
私も思わず息をのんだ。槍の巣――バルドさんの故郷を守る砦
「それは本当ですか…。
本当ならとんでもないことですね。」
「ええ、しかしヌエッサンおよび直属の
LDF (Lance Decontamination Fortress )が撤退を拒否し
何とか説得をしてもらいたく旧知の仲のあなたに
依頼をしに来たのです。」
レンさんの言っていた、国定魔術師。
バルドさんの故郷を守っていた、まともな人。
撤退ってそんなことをしたら…!!!
「難しいかもしれません。彼はそういう男です。
私も"加勢"ならできるかもしれませんが
説得は難しい。」
「そうですよね、しかし何か情報が欲しいのです。」
私は意を決して口を開く。
「あの、私は知り合いに聞いてそのヌエッサンさんが
撤退しない理由を知っています。」
私はバルドさんの故郷"アドル村"の話と
警備が来なかった話やヌエッサンさんに交わした約束
について伝えた。
「ありがとう、娘さん。
しかしそうなると、あの頑固者を
見捨てるしかないと…」
…見捨てる…!
驚いて、ふつふつと怒りのような感情が沸き上がる。
堪えなきゃ。
「周辺住民の避難は?」
「できておりません、
勧告はしているのですが動かず…。」
そんな、あり得ない!
「それに砦を統合するだけという口実を
国が決めてしまったため大々的に
避難勧告もできず困っているのです。」
「そんな、ひどいです!」
キャロスさんが手で私を制する。
「どうして撤退を?」
政治家は何かを思い出したのか頭を抱えた。
「あと1週間もしないうちに
腐った大地の亡者の軍勢が攻めてきます。
せめて国だけは守ろうと、
村を見捨てる決断が下されたのです。」
「数は…どうして?
今まで対応していたのでは。」
キャロスさんは凄く驚いていた。
「腐った大地の亡者。
あいつらは武器を使える人型の
獣で、常に体から匂う毒素を出し
戦闘に関する知恵だけが備わっています。」
セドルさんが詳細を語り始めた。
「奴らは六方喰らいという
コードネームを軍が付けた
怪物と手を組みました。
そいつが厄介なんです。」
食欲が凄いって事…?
「今まではヌエッサンが特殊な兵器を経由して
太陽の光を増幅し弱らせることで、
亡者を簡単に倒せていました。」
太陽の光を増幅、凄い力…。
「しかし、六方喰らいはその死体を食い
たちまち泥や新たな軍勢に変えてしまいます。
泥を軍勢にかけ、太陽を無効化してしまい」
新しい軍勢、戦術に適応する…?
「切っても再生し非常に強く、
常に多くの軍勢を引き連れている。
個別対処も難しい。」
メモを取りながらキャロスさんが聞いている。
「"腐った大地"からは時々変異種が出ますからね。」
「腐った大地の亡者は報告によると3000体を超え
六方喰らいは10体ほど確認できています。
国は、この街を守るため
村を見捨てることに決め…」
バルドさんが居なくてよかった。
もしいたら、きっと一人で飛び込んでいるだろう。
「…」
キャロスさんも天を仰いでいる。
(運命の精霊の仕業…?)
私はそのフラリスさんの声を聴いてますます嫌な予感がした。
犯罪者みたいな貴族や国、そして魔物。
こんなに一瞬で厳しさが押し寄せてくるなんて。
「本当に私やギルドメンバーが加勢しても無理なのですか?
戦うことは。」
「聞き飽きたよ。
だが、これは戦術家の試算だ。
片翼が奮闘すると、もう片翼に敵が押し寄せる。
どちらかを見捨てるしかないんだ…。」
図面が書かれてる。
2つの砦に支援箇所が2つ。
槍の巣は十字型の防御陣地だ。
そこに掛かれた軍勢と被害は避けられない観測。
難しい状況に私は絶句した。
そうしてセドンさんは去っていった。
またもや不穏な影を残して…。




