不穏なる足音
「国に伝えてくれ、私は
何としてでもここを守ると。」
夜、その黒を纏うかのように砦の部屋で
待機するちょび髭の黒い男が居た。
彼はヌーバーン出身。
今は槍の巣に籠り、
カロル国に仕えている――
ヌエッサンという名の国定魔術師だ。
「あなたは貴重な戦力なんです。
撤退するわけではない、
複数の砦をちょっと国側に纏めるだけです。」
政治家が説得しているようだ。
「足元の村はどうなる、近くの農場は?
古代泉の水源は?
暮らせなくなるって分かってるかアンタ」
彼はここを引くと周辺の村が"腐る"ことを知っていた。
約束もある。彼らからも頼られている。
私は希望の火なのだ。
「国の決定です、従わなければあなたを解雇します。」
青ざめながらも、そう宣言する男。
「ヤッチャッタな、お国の大将。
腐敗もそこまで来たか。」
そうしてろうそくの火が大きく燃え上がる。
「私はカネ抜きでもここを守る。
私の”増幅の魔法”で」
その顔は覚悟に満ちていた。
「それがあまり通じなくなったから!
撤退するんでしょうが!
この頑固者が!」
思わず本音が飛び出る。
「俺は撤退しない。」
説得は無理と判断し、丁寧に謝罪し部屋を出た。
上っ面とはわかっていた。
政治家は帰りながら考えていた、
彼は国家級の戦略の要。
様々なものを増幅できる強力な軍師でもある。
それだけではない、彼には奥の手もある。
何とかして説得せねば
関係者はいないものか。




