兜・魔具の調達 - お値段が高い
ギルドからホテル方面に歩いて通り過ぎ、
私たちは鍛冶屋に入る。
ルーニーさんの鍛冶屋だ。
だけど、今回は店側からの入店となる。
「いらっしゃいませ!」
兜と軽鎧を被った笑顔のお姉さん。
きっとルーニーさんの娘さんだ。
「何かお探しですか?」
そう聞くと私を見て驚いたようだった。
「えっと、あなたはどこから来たのかな?」
迷子じゃないよ?
「あの、ギルドで働いている建内日葵で
今日は兜装備を探しに来ました。」
お姉さんは目を見開いた
「え、あの日葵ちゃん!
こ、こんなに若かったの?
まあ…」
私の姿を眺めながら言葉が滑り出す。
「装備を購入したくて来たんです。
みんなと一緒に頑張れるようにって」
「お父さんを呼んでくるからちょっと待っててね」
お姉さんが裏に歩いて行った。
「日葵、この鍛冶屋と知り合いなんだよな?」
バルドさんが聞いてくる。
「はい、最初にこの街で迷ったときに
1600クランも支援いただいて、生きているうちに恩返ししたいと
思ってるんです。
1000クランしか返せてないんですけど、
今回装備を買ってお店に貢献できるなら…」
そう話しているとルーニーさんが裏から
出てきた。
手に何か持っている、あれはなんだろう。
「ああ、日葵ちゃん!どうしたんだい?
装備を買いに来るなんて、まるで警備でも…」
そうして周りの人を見てルーニーさんは驚いていた。
「ダンジョンに潜るのかい?」
私は頷いた。
「はい、ダンジョンに潜ります。
ダンジョンに潜って自分を鍛えるんです。」
ルーニーさんは凄く悲しそうにしていた。
「その年齢でダンジョンに潜る子なんていないよ。
…親の人にそんな事をさせられて居るのかい?」
…これは答えれなかった。
ルーニーさんを巻き込みたくなかった。
私が黙っていると、ルーニーさんが再び声を出した。
「キャロスさんが許可したんだろうから
きっと事情があるんだろうね。」
そして手に持つものを取り出した。
「かなり高い素材だから、まず小さめのもので
機能するか試してたんだけど…」
黒くツルツルの素材の兜だ。
「最初は小さめに作るつもりだったんだけど…
でも、使えない道具を作るなんてどうしても嫌でね。
結局、日葵ちゃんが使えるサイズになってたよ。
はは、職人の性ってやつかな。」
ダンジョンの時はもちろんだけど
夜に階段を下った時、転びそうで不安だったな…。
ちょっと重そうだけど、階段下るときに使おうかな。
口や目の部分に何もなくて、防御が足りないように見えるけど…
「ちょっと待ってね」
金具で鉄マスクも追加で装着できるようになっていて、
カウンター下から取り出してハンマーで形を調整し嵌めてくれた。
店内に飾っている中では
サレットっていう兜に似た形だった。
厚めで少しずっしりしているが、被れないほどではなかった。
「君を見ていると何だか
大物になる気がするね。
お代に関しては、ダンジョンで無事に帰ってくること。
今はそれだけでも十分だよ。」
私は驚いた、さすがにまた恩を受けるわけにはいかない。
「そんな、買い取ります。
何クランなんですか?」
焦って声が上ずる。
「これはクランでいうと1800くらいなんだ。
でもお代はいいよ。
小さめの試作品みたいなものだから。」
た、高い!
するとレンさんが私の代わりに交渉してくれた。
「それなら、後払いで払わせてください。
ダンジョンで一山当てたら必ずその報酬から
1800クランと言わず2500クランは支払います。
だからその兜を使わせてください。」
ルーニーさんは顎に手を当てて考えた。
「そうだね、絶対に無事に帰ってくるんだよ。
日葵ちゃんだけでなく、君達もね。」
交渉は成立したようだった。
ルーニーさんも私たちが命を軽く捨てない様に
保険としてこの交渉を飲んでくれたようだった。
「ほかの装備は、普通に買ってもらうけどね。
絶対に生きて帰ってくるんだよ。
その兜は光の回路が埋め込んである、祈ってごらん。」
私は体力を捧げて祈ってみた。
兜の前側が目のように光る。
「ダンジョンで使うなら、虫とかも呼び寄せちゃうから
前が見えない時だけにするんだよ。」
「はい!」
そうだ、逆に敵を呼び寄せるなんてことも…あるよね。
「日葵ちゃん、探検服はもう頼んでいるの?」
「はい、ダンジョン探索隊の方に選んでいただいて
6500クランで靴と手袋がついているみたいで。」
お姉さんが値段を聞いて心配そうにした。
「その値段…きっと鎖帷子も付いてるよ。
重いけど大丈夫?」
「今そのために体を鍛えていますから!」
私は腕を出す。
自分でも少し太くなっている気がした。
ダンジョンでは氷が張っているかもしれない。
念のため日葵たちは一括購入で割引してもらい
ピッケルを4つ1200クランで買う。
ルーニーさんのお店では魔具を使って一人で仕上げることも多いので
相場より50クランは安いのだそう。
8200クランを合計で消費した。
「うーん、緊急時の浮遊魔具は俺とローラは浮けるから
バルドと日葵に持たせたいけど、
移動代も考えると自費で払うしかないよな…。
1つ1000クランだもんな。」
レンさんは自分の財布を見て嘆いている。
財布の中は1200クランを立て替えた影響で
400クランが残っているようだ。
私は改めて、3人分の装備が揃っていても
小道具と一人の装備を用意するのに
10000クランほどかかることに驚いた。
私たちは装備を手にいったんギルドへと戻る。
お金を立て替えてもらい、キャロスさんと
レンさんが相談した結果
ギルドのお金からさらに1000クラン出してもらえることとなった。
「外は暑いし、俺が買いに行ってくるよ!」
そういってレンさんがお店で浮遊魔具を買ってきてくれた。
服の内側にセットする、緑色で
大きなピンみたいな魔具。
祈ると10秒間ほど体が浮くみたい。
階段で試したら、滑るように浮いて驚いた。
「こうやって風を吹かして体を戻すのよ」
私を床に引き戻してくれたのはローラさんだ。
確かにこれなら登り途中でモンスターが襲って来たり
少し穴が開いている時にも安心だ。
そうして合計10200クランを使った装備調達は完了した。
食糧代800クランを残して
冒険服さえ届けば探索できる準備が完了した。
後は、私自身の心と魔法の準備だけだね!
日葵ちゃんの装備が定まったようです。
初の冒険にしてはかなり立派な装備ですね。
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魔法の短刀
リザードの皮盾
光るサレット(魔具)
鎖帷子服+下着
皮ズボン(部分防具付き)
鉄手袋
革靴
浮遊ピン(魔具)
水袋・布袋(食料・水入れ)
ピッケル
固有:魔法服(透過状態) 身体補助
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でも装備以外の面はどうでしょうか。
本当に、魔法と心を整えるだけで
いいのでしょうか。
ダンジョンという閉所に入るとき、
ちょっとした油断が大きな命取りになる。
装備があっても死ぬときは死ぬのです。




