<魔女の気持ち>
魔女は悪夢のような思考の波に苦しんでいた。
「レベル…5…で、す」
その言葉を聞いた時魔女は歓喜に包まれた。
やった、経験値魔具が効いているわ…。
このペースなら想定通りあと80日もすれば…!
安堵と笑いが止まらない。
「うううう…死にたくないよ…」
その声に反射のように言葉が口をつく。
「フフフフフ…それでいいのよ!私に屈すれば!」
その言葉を自身で聞いて、魔女は後悔した。
私はなんで取るに足らない小娘に、意味のない優越感を。
床を這うような音が聞こえる。
心が折れかけているのかもしれない。
人を壊すだけの魔物、そうか私なのか。
私は魔物になってしまったのかもしれない。
これを、喜ぶものが果たしてこの世にいるのだろうか。
…
私は建内 輝美が持ってきた食事を食べる。
あの輝美という女は、来るなといったのに
今も娘を治療してくれていると勘違いをして
食事をおすそ分けに来る。
もしかすると、あのことに気が付いたのかもしれない。
そうなら本当に最悪なのだけれど…。
この街になじみがない中で有難い、
味だけで見ればおいしい料理ではあるが
今日はことさら不味く感じてしまう。
…あの服に呪いをかけたのは、必然だった。
服に呪いをかけなければ、祝福の力を蓄積する前に
外されてしまい計画が失敗してしまう。
協力者には無論止められた。
人の呪いをかけるという行為の意味や
今の状況を懸念しての事だ。
私は噓をついた。
「私なら呪いがあっても外せるの…
私の魔法が今まで
どれだけ役に立ったか忘れた?」
誰にでもなく、その時の言葉を繰り返す。
この嘘が無ければ、どれだけ楽だっただろうか。
魔法を補助したり、苦しみから守ると
渡された銀の輪を見ながらそう肩を落とす。
だけど人には無意識があるし、幾ら真摯に説明し
日葵のような優しい人間に出会えたとして
他の人に脱がされる可能性が否定できない。
「俺も今できることをやるから、
歯を食いしばって耐えてくれ」
聞き覚えのあるセリフに一瞬驚いた…が、
キャロスとかいうやつの声だった。
諦神…と今朝言っていたな。
日葵の接触したその存在は、神霊か古代霊か。
少なくとも憑依するタイプだ。
…考えるたび不安がよぎる。
もしも強力な存在が憑依しているのなら
魔法服を破壊して引きはがすことは可能だろう。
そんなことをされたら困る。
契約で抑え込むか、力で抑え込まねばならない。
ローラという女は…そうか
そのような存在なのか。
「どうもこうして、特別な存在ばかりが集まっている?
私をからかい、あざ笑うためか…!」
怒りに震えていると、
クスクス…というような空気のざわめきが聞こえた。
「何者!」
辺りを探知し、警戒したが
物理的な存在はいないようだった。
精霊の…悪戯か?
すべての食事を食べ終え
適度に仮眠を取りながら作業する。
何も考えなくていいわ。
そう自分の不安を拡散させて
作業に取り組んだ。
そうして、その夜に…




