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嵐のフードデリバリー!
「嵐の日は配達ができない」
フードデリバリーの配達員をそれなりにやっていれば知れる知識だ。
注文が多く発生するタイミングは、大きく分けて以下の二つ。
①ご飯時と②人様が家を出たくない時だ。
①ご飯時は言わずもがな。②人が家を出たくない時、これは、例えば冬の寒い日、夏の暑い日、そして雨の日だ。
普段とは桁違いに注文が来るので配達員としては絶対に抑えないといけない。
ただ、嵐の日は。
嵐の日は配達員の安全を鑑みて配達用アプリが停止されるのだ。
そんなご無体な。私は嵐など気にしないのに。
スズはアプリが止まるたびにそう思っていた。
20代とはいえ、毎日自転車を乗り回している彼女は細身でも身体の丈夫さには自信がある。
雨に降られたって熱々のポテトを届けるのに。私を働かせてください!と湯屋の少女よろしくアプリに叫んでいた。
だが、この日は違った。
天気予報は晴れ。台風など来ている予感もなかったよに窓の外は雨風が吹き荒れている。
アプリは通常通りだ。
スズは喜んだ。稼ぎどきだ!
ワークマンで買った防水カッパを着て意気揚々と自転車に乗って家から出発した。