9.婚礼の日①/彼らの後日談
ビアンカとヴィオレットの婚約発表パーティーから半年経ったとある日…
ヴィオレットは婚約発表の日に着たスーツとは違い、両親から贈られた真っ白なドレスに身を包んでいた。
第二王子、ビアンカが18歳の成人を迎え、王家とサンセール家が少しずつ進めていた婚姻の為の準備が漸く終わり、晴れて婚礼の日を迎えることとなったのだ。
「…今日まで本当に、様々なことがあった。けれどようやく、ひと段落つきそうね。」
ヴィオレットは控え室で1人呟くとふと視線を上向けた。
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彼女に婚約破棄を告げたネグロは、今もまだ離れに軟禁されているという。ローズとの婚約も無かったことにされた為、王族からの除籍は辛うじて免れている。
彼の融通がきかず排他的な性格も、国の重鎮ともいえる老齢の者達が、彼が幼い頃からその考えを刷り込んで傀儡にしようと企てた結果、あのようになってしまった事もネグロが離れに移された後に離れ担当となった使用人から聞かされた。
その点に関しては、ヴィオレットやビアンカも同情の念を抱いた。
国王陛下に至っては、『幼少のネグロにもっと触れ合い言葉を交わしていれば王国の老いぼれにつけ込まれ、捻くれることも無かったのだろうな…。』と1人寂しげに呟いていた。
そんなネグロは半年間の軟禁生活で、王国の政や重鎮の下を離れ静かで落ち着いた地で過ごしているからか、少しずつ落ち着いて来ているとも聞いた。余計なしがらみもなく、使用人達と穏やかな暮らしを続けていく中で、自身の考えの過ちを振り返り反省するまでに至ったという。
それを聞いたヴィオレットは、彼はきっと大丈夫だと、婚約者では無くなったけれどいつか王国の為に、共に働く日が来るかもしれないと──そう感じていた。
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反対にローズは、他人の婚約者を奪おうとした事に関しては後悔したものの、そもそも何故婚約者を奪ってはいけないのか、根本的な部分を全く理解していなかった。
その為子爵家に帰宅した後に、両親に激しく叱責されたローズは逆上した挙句、
「この国の王子と結婚さえしちゃえばお金だって使い放題だし、わたくしも、お金持ちになる家族全員だって幸せになれると思ったのよ!」
とあまりにも非常識な発言をしたことが決め手となって、王国で1番厳しいと噂される修道院に送られる事が決まった。ローズの両親が自分達の手には負えないとお手上げする程だ。
彼女は最後まで、何故自分が修道院送りにされるのか理解できずにいたらしく、修道院へと向かう馬車の中で散々喚き散らし、修道院に行ってからも暫く悪態をつき続けていたという。