7.国王陛下の叱責
「み、認めないわ!!わたくしは絶対に、貴方達の結婚を認めないッ!!」
ローズの身勝手で貴族らしからぬ言動にヴィオレットとビアンカは驚き、呆れ果てて言葉も出なかった。
彼女の隣にいるネグロも、言葉には出さないものの、こちらを睨みつける敵意に満ちた視線がローズと同じことを考えているんだと訴えている。
ヴィオレットは彼らから視線を外すと、今度は国王夫妻にそっと目を向けた。
王妃様はそんな2人の様子を見ても全く動じることもなく、むしろ呆れるように小さく溜息をついただけだった。
そんな中、国王陛下が椅子から腰を上げ一歩前に踏み出した。ローズ達へと視線を向けると、ゆっくりと口を開いた。
「お前達の婚約を、王家の者として認めることは出来ぬ。」
「え……」
国王陛下の言葉にローズは驚愕の声を上げ、ネグロは目を見開く。
そんな彼らをよそに国王陛下はさらに続けた。
「そもそもネグロは、ヴィオレット嬢と何故婚約をしていたのか…理解していなかったのだな。古い考えに傾倒しがちなネグロが将来、国王になった際…時代にそぐわない発言をしてしまえば、新たな価値観の生まれている我が国や他国に多くの敵を作ることになる。そうなれば、外交に支障をきたす可能性もあり得る。だからこそ、そんなお前を律し国王として正しい道へと導いてくれる人材として、ヴィオレット嬢をネグロの婚約者として選んだのだ。」
国王陛下はそこで一旦言葉を切ると、眉間の皺を深くし再び口を開いた。
「しかし……お前はどうだ?自分の勝手な意思や行動、その全てをヴィオレット嬢に押し付け、挙げ句の果てには私達に報告をせぬまま婚約破棄をした。これは王家の決め事に背く行為であり、お前が我が国の将来の王として相応しくない行動を取ったことは明白である。よって……ネグロ、フォルシュット子爵令嬢、お前達の婚約は無効とする。もしこれに異論を唱えるのであれば、王族、貴族籍から除籍のうえ王都からの追放とする。」
国王陛下の強い言葉と迫力に、先程まで怒りで顔を真っ赤にしていたローズ達も一瞬にして顔面蒼白になる。
王妃様はその様子を静かに見つめると、ネグロに向けて声をかけた。
「さて……貴方達は私達の決定に逆らうのかしら?」
王妃様の口元は笑っているが目が笑っていない。その威圧感に押され、ネグロもローズも何も言い返すことが出来ないまま首を横に振るしかなかった。
(これで一件落着、ですね。)
そんな2人の様子を目にして、ヴィオレットは小さく微笑むと隣にいるビアンカに小声で囁いた。
「ビアンカ様、お疲れ様でした。」
「ヴィオレットこそ、お疲れ様。やっと終わったね……。」
ビアンカも安堵からか肩をおろして、小さく息をつくとヴィオレットに向かって微笑み返した。
2人の様子を見た国王陛下と王妃様がネグロ達に対する威圧を止めたからか、会場内の空気はどことなく和やかな雰囲気に戻っていった。
そんな空気の中、1人だけ不満そうに顔を歪めている者がいた……そうローズだ。彼女は先程からずっと俯いたまま何かぶつぶつ呟いているようだったが、流石に言い返す事は出来ずネグロと共に警備兵に連れられ、会場を後にした。
こうして、ヴィオレットとビアンカの婚約披露パーティーは、大波乱の中無事に終了したのだった。