29話「白髪少年は遂に海外勢と接触ス」
「さて、探すのはいいが……。如何せん時間が遅いから、もしかしたら奴はもう居ないかも知れないなぁ。まあ、そうだったらそれで良いんだけど」
望六は日も落ちて街灯の明かりが付きだした時間帯に外へと出て不審人物を探すために宮園家周辺を徘徊し始める。すると少し歩いた所で唐突にも不穏な空気を背中で感じ取り、
「ッ……なんだ? このやけに威圧感の孕んだ視線を向けられているような感じは……。まるで魔術基礎の授業中に居眠りをしていた俺を睨みつけるという視線の圧だけで起こしてきた木本先生の雰囲気に似ている……」
彼は妙な悪寒と共に全身を震えさせると、その視線の威圧感は何処か彼女のものと類似しているような気がして振り返って確認することを一瞬だけ躊躇しそうになった。
だがそんな視線をこんな人気のない道で向けてくると言う事は、可能性として今自分の背後に居るのは例の不審人物であるという事が望六の中で濃厚であった。
「ふっ、態々向こうから出向いてくれるとはな。これなら寧ろ好都合と言えるだろう。……あとは一気に俺が振り返って姿を確認して何者か突き止めればこっちの勝ちだぜ」
望六は道路の端に寄って足を止めて独り言を呟くと、それは自分が今から行う事の確認と意思表明のようなものであった。何故なら自分がいざ正体不明の人物に接触するとなると失敗した時の事を考えてしまい少なからず恐怖があるのだ。
「だが……そんな事で怯えていたら俺は何もできないッ! だから俺はやるぞ!!」
頭を左右に降って余計な考えを払拭すると彼はそのままの勢いで大きく振り返って背後から向けられている謎の視線に意識を向けた。
「What!?」
そうすると望六の視界には金髪で青目という如何にも外国人という風貌の女性が目を丸くして驚愕の声を上げていた。恐らく年齢は二十代後半で彼が急に振り返って顔を合わせてきた事に驚いているのだろう。
だがしかし、そこで望六は疑問と違和感を覚える。その理由としてはここ最近宮園家の周辺に現れていた不審人物と今自分の目の前に立っている海外の人とは背丈も格好もまるで違うからだ。
望六が探している不審人物は背が低くて茶色のロングコートに黒色のサングラスを身に着けていたのだが、海外の人はデニムパンツに黒色のブラウスを着ていて印象がまるで異なる。
「だ、だだ、誰だッ!?」
そんな事を思いつつ彼も近所迷惑を顧みず驚きの声を上げると、既に海外の人は落ち着きを取り戻していたのか肩に掛けているバッグに手を入れて何かを取り出そうとしていた。
「It's surprising. There is no way to be noticed……」
海外の人は英語を口にしながらバッグを漁ると、ついに何かを手にしたのか右手を引き抜くと視線を望六に向けつつ小走りで向かってきた。
「えっな、そ、それは!? まさかスタンガンというやつか!?」
小走りで近づいてくる海外の女性を視界に収めながら彼は何か危険を感じ取ると、彼女が右手に持っている黒色のスマホぐらいの大きさの物に目が留まった。
それは漫画やアニメでしか見たことがなかったが人を数秒の間動けなくさせる護身用の武器、通称”スタンガン”であることに気が付いた。
「Be quiet」
そして望六がスタンガンに気を取られていると海外の人は瞬く間に彼の間合いに入り込んで、何かを小さく呟いてから右手に持っている物を体に近づけてこようとしていた。
「クソッ、やっぱり俺一人で不審人物を探すのは危険だったか……。けれど情報は得ることが出来た。決して無駄ではない!」
彼は向けられたスタンガンを目で追うと何故か急に動きが遅く見えて徐に右手の甲を使って彼女の手を弾くと、そのまま体を横に傾けてから地面を蹴り上げて全力で走り出した。
その際に予めカメラアプリを起動していたスマホをポケットから取り出して彼女の全体を収めるようにして写真を取る。
「Camera!? Damn, wait kid!!」
望六のスマホからシャッター音が聞こえたのか、海外の人は英語でカメラという単語を口にして下唇を噛み締めると彼を追いかける為か走り出した。
「ふっ、捕まえられるものならやってみな! ここは俺の箱庭同然の場所だ。捕まえたければドローンか衛生カメラを使うべきだな!」
海外の女性が追いかけてくる足音を聞くと彼は変に気分が向上しているのか恐怖心は僅かなもので、それよりも心臓の高鳴りの方が凄くて次第に脈打つ鼓動が早くなっていく。
――そして望六は依然にも不審人物を撒くために使った手をもう一度使用する事を考えると、近くに置いてあったゴミ箱を踏み台にして外壁を越えると直ぐに体制を整えて物陰に身を潜めた。
「ここなら見つかる事もないだろう。美優達ですら見つけられない場所だからな」
望六は物音を立てないようにして警戒しながら呟くと、この場所は何年も前からずっと工事途中の空き地となっていてコンクリートのブロックが幾つも置かれた状態で放置されているのだ。
しかも既に日が落ちていることから更に見つかる確率は低い。
そのまま彼は音を押し殺して呼吸すら最小限の動きに留めて十分ほど隠れていると、
「……どうやら上手く撒けたようだな。ハイヒールの音が周囲から聞こえなくなった。にしても本当にあの海外の女性は何者なんだ? 明らかに俺を捕えようとしていたのは分かるが……」
周囲から聞こえていたハイヒール特有の軽いコツコツ音が聞こえなくなり物陰から出ながら独り言を漏らした。そして望六は当初の目的でもある不審人物を見つけるというのは、先程の海外の人がまだ周囲を徘徊している可能性を考慮して中断するしかなかった。
「はぁ……まったく、不審人物を探そうとしたら別の不審人物に遭遇するとは……。日本の治安は一体どうなっていやがるのやら」
肩を竦めて小言を漏らしながら望六は帰路へと着いて歩いていると、ふと視線が電柱の隅へと寄った。それは本当に何気ないことであり、自然と惹きつけられたと言っても過言ではない。
「んー……あれは……ま、まま、まさか!? 俺が探していた本物の不審人物ではぁ!?」
望六は自分でも何で電柱の隅なんかに視線が寄ったのか不思議に思いつつも視界を凝らしてよく見ると、そこにはずっと探していた不審人物が煙草を吸いながら何かを呟いて苛立っている様子であった。
「や、やべえ! こんな所で突っ立っている場合じゃない!」
直ぐに何処か隠れられそうな場所を探して彼は身を隠すと思わぬ所で本懐が遂げれそうになり、不審人物の様子を伺おうと聴覚に意識を集中させて何を呟いているのか探りを入れる。
「くそぉ……幾ら”宮園先輩”の頼みでも有給を全て使ってでもアイツらの監視をしろって流石に横暴過ぎるだろ……。私にだってまだやるべき業務が沢山あると言うのに。……ああ、学園に帰って自分のデスクの上を見るのが怖い」
すると不審人物は愚痴を零して更に苛立ちが増したのか地団駄を踏む音が聞こえたり、大きく溜息を吐いたりする声が聞こえて情緒不安定さが目立っていた。
「…………」
だがそれを望六はしっかりと全神経を集中させた耳で盗み聞くと、全身が一気に膠着してにわかには信じ難いという感情が湧いて変な汗が首元に流れた。そして不審人物が漏らした言葉を整理すると自分が追っていた人物は十中八九、第一WM学園所属の木本先生であると彼は理解した。
「変装の可能性は無きにしも非ずだが……。ここは情報を得るためにも接触するしかあるまい」
そこで望六は身を顰める事を辞めて本当に不審人物が木本本人であるか確認する為に敢えて近づく事を選んだ。だが先程の件を考えるに不審人物が木本の情報を何らかの手を使って入手して、変装しながら喋っている事を踏まえて警戒心は怠らない。
仮に最悪な展開を引いたとしても直ぐに逃げられるように、既に彼の頭の中には逃げ道の最適解が導き出されているのだ。
「あ、あのー……。もしかして木本先生っすか?」
恐る恐る声を掛ける望六は声が若干上擦ってしまったが、身元だけは確かめようと視線を合わせる。
「ああ? 誰だよ? なんで私の……なま……え……を……」
煙草を人差し指と中指の間に挟みながら苛立ち混じりの声を出して顔を合わせてくると、その不審人物は途中で言葉を途切れさせると同時に手元から煙草を落として呆然としていた。
「ど、どうもっす」
そんな彼女の反応を目の当たりにして望六は目の前に立っている人物が紛れもない木本先生である事を確信すると少しだけ頭を下げて挨拶をした。
「……まじかよ」
すると彼の挨拶から二十秒ほどの間が訪れてから、木本はサングラスを取り払って驚愕の表情を見せながら短く声を漏らすのであった。
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