表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/128

28話「それは親友達を守る為の嘘」

 望六が月奈の兜割りを見事に受けて記憶を意識を飛ばしてから数日が流れると、あっという間にゴールデンウィークは終わりを迎えて明日はいよいよ学園に戻る日となった。


 その間に望六の周りでは色々な出来事があり、月奈が一樹を押し倒した場面をナタリア以外の全員が目撃すると次の日の朝食はやけに気まずくお通夜状態であった。

 

 そしてシルヴィアと翠嵐は密談を交わしたのか月奈が起こした一連の出来事には決して触れないようにしているらしく、ゴールデンウィーク中は一言もそのことに関して二人が口を開くことはなかった。


 だが望六は殴られてから三日後あたりで記憶が復活すると、毎夜寝るたびに枕元に冷たい瞳を宿した彼女が立っているような気がして心的外傷を患う事となった。


 そのまま彼が睡眠不足で日に日に痩せこけていくと四日目あたりで、漸く月奈は機嫌を直したのか少しだけ辛辣な態度から刺が一本抜けたように接してくるようになった。

 具体的に言うのならば朝のおはようの挨拶を返してくれるぐらいだろう。


 それから日付が変わる事に一樹の隣の部屋をシルヴィアと翠嵐が交互に使っていたのだが、月奈の”押し倒し”という牽制が響いているのか二人とも彼に対して迫ることが出来なかった様子である。


 日に日に彼女らが溜息を付く回数が増えていくのを見て望六はそう感じ取ったのだ。

 あとは悶々とした毎日を二人が過ごしていくと、結局誰一人としてラブコメような甘酸っぱい事を成すことは出来なかったのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 そして今現在は最終日の夕方で時刻は十八時を少し過ぎたぐらいである。

 既に全員は荷物を纏めて明日の電車に乗るために変装の用意も済ませて準備万端であり、翠嵐の作った夕食を食べ終えて食後の休憩中である。


「ふぅー……。やっぱり翠嵐の作る四川料理は最高に美味い」


 お茶を飲みながら望六は呟くと未だに舌は痺れているが、それは別に嫌な感じではなくしっかりと食べきったという勲章みたいなもので寧ろ心地いい。


「そうか? へ、へへっ。褒めらるとなんだがむず痒いなっ!」

 

 頬を緩ませて翠嵐が照れくさそうに口を開くと後髪を触りながら何処か落ち着きのない様子である。


「私は初めて四川料理とやらを食べましたけど、口の中が燃えるような辛味が癖になりそうですの」


 するとシルヴィアが紅茶の入ったティーカップを徐に持ち上げてから、さり気なく彼女の作った料理が好きだということを伝えていた。


「おお、シルヴィアも分かるか! あの辛味がなんとも食欲を掻き立てるんだよなぁ。……あ、そうだ! 今度俺にも作り方を教えてくれよ!」


 だがそこで何故か異様に気分が高ぶっている一樹が声を上げると、彼女の放った言葉に深く同意しているようで大きく頷いていた。

 そして彼は矢継ぎ早に翠嵐の方へと顔を向けると四川の作り方を瞳を輝かせて訊ねた。


「んー、気が向いたらな。あれは人に聞いただけで作れるような単純な料理じゃないからね」


 翠嵐は作り方を教えることに対して難しい表情を浮かべると、それは一朝一夕で出来ることではないと真剣な声色で伝える。


「そ、そうなのか……。んじゃぁ気が向いたら頼むぜ!」


 一樹は彼女の言葉を聞いて少しだけ気落ちした様子の表情を見せると、何を思ったのか直ぐに表情を笑顔に切り替えて改めて今度教えて貰うように頼み込んでいた。

 翠嵐はそれに対して静かに頷くと、どうやら気が向いた時ならば教えてくれるみたいである。


「ねぇねぇ。望六はイタリア料理で何か好きな物はないのかい? 僕が愛情やその他諸々を込めて作ってあげるよ?」


 二人の話を聞いていてナタリアは思うことがあったのか隣から服を引っ張りながら尋ねてくる。


「あー……そう言われても急には思い浮かばないなぁ。いまさっき飯を食ったばかりだし……。てか変な物は食い物に混ぜるなよ? 頼むから」


 両腕を組みながらイタリア料理という限定的な食べ物を思い浮かべるが、望六は食後ということもあってか中々思い浮かばなかった。


「……ふっ」


 けれど何故か彼女は望六の言葉を聞いて鼻で笑うと口の端を釣り上げて顔を逸らしたが、その様子を隣で見ていた彼は絶対にナタリアは何かを仕込む気でいると思えてならなかった。


「はぁ……。まあそうだな、食べたいイタリア料理が思い浮かんだから教えるよ」


 望六はそんな事を危惧しながらもちゃんと食べたい物が出来たら伝えると溜息混じりで言う。


「うん、分かった! なるべく早く教えてね! 僕も色々と準備があるから……さ」


 ナタリアは顔を再度合わせて満面の笑みを見せながら妙に含みのある言葉を呟いていた。


「……にしてもあれだな。俺は今猛烈にコンビニに行きたい気分だ」


 だが彼はこれ以上は深く気にしたら負けなような気がして話を一旦区切ると、何気なく今自分が一番行きたい場所を机に肘を乗せて頬杖を付きながら口にした。


「なんでだよ?」


 すると当然の如く一樹から疑問の声が上がってくる。


「ふっ、理由は簡単だ。何故なら今コンビニでは対象商品を三個買うと限定のアニメグッズが付いてくるからだ!」


 そして望六はその反応を待っていたかのようにして椅子から腰を上げると、高らかにコンビニに行きたい目的を告げた。そう、彼は昨日寝る前に何となくウイッターというSNSを見て、たまたまその事に気がついてしまったのだ。


「あー、なるほど。だが俺達はいま無闇に外を出歩くことは出来ないぞ?」


 一樹は彼の言葉を聞いて全てを悟ったような表情をすると、現状では外に出るという行為は禁止だと真面目な口調で言ってきた。


「あ、ああそれは分かっている。だが今日を逃すと絶対にもう残っていないうえに学園の外出届けはまず却下されると思っていい。だから俺は今日今すぐコンビニに行きたいッ!」


 静かに右手で拳を作ると勢い良く掲げて、望六はコンビニに行きたい度がますます上昇していくのを体の内で感じていた。


「はぁ……お前の原動力は二次元なのか? この白髪オタクめ」


 溜息が長椅子の方から聞こえてくると、そこには頭を抱えた月奈が彼を見ながら小言を漏らしていた。


「それは褒め言葉として受け取っておこう月奈よ。……っということで俺はこっそりコンビニに行ってくる! 後悔は一切ない!」


 望六は彼女の言葉を軽く受け流すと、そのまま小さく左手を上げて全員に顔を向けてから外に出る事を告げると急ぎ足で玄関へと向かった。


「あ、おいッ!! 不審者に捕まったらど――」


 すると一樹が突如として音を立てながら椅子から立ち上がると、声を荒げて彼の行動を止めようとしたが時すでに遅し状態であった。

 望六は背後から聞こえる声に一切聞く耳を持たずに目先のことだけを優先したのだ。


「よーし、取り敢えず軽い変装として帽子とマスクぐらいでいいだろ」


 予め玄関に置いておいた二つを身に着けて彼はドアノブを回して外へと出る。

 それから直ぐに周りに不審人物がいないか一応左右を確認して宮園家の敷地から出て行くと、真っ直ぐに近くのコンビニへと目指して歩き出した。


「……まあ、演技はこれぐらいにしてこっからは俺のターンだな」


 望六はそう独り言を呟くと角を曲がって直ぐに背中を壁に付けて周囲の警戒を強めた。

 その理由は彼が柳葉家の帰りに遭遇した不審人物が最近になって宮園家周囲に現れたからだ。

 

 だが不審人物を見かけたのは本当に偶然で、彼が自分の洗濯物を干すために二階の一樹が使っている部屋のベランダを借りようとして外に出た時に気が付いたのだ。


 あの茶色のロングコートに黒色の帽子、黒色のサングラスを身に着けた人物が宮園家近くの電柱から自分達の様子を伺っていた事を。

 

「さて、俺がいつまでもコソコソと隠れて怯えているだけだと思うなよ? 寧ろこっちから攻めて誰が俺達を狙っているのか突き止めて七瀬さんに言ってやるからな!」


 望六はそう自分に言い聞かせて断然やる気が満ち溢れてくると早速、例の不審人物を探すために宮園家周辺の電柱や物陰の捜索を始めるのであった。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

宜しければ評価と、ブックマーク登録を、お願い致します。

活動の励みとなり、更新が維持出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ