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27話「白髪少年は自らの不幸を呪う」

 二人の女子が月奈の過ちを止める為に望六を思いっきり部屋へと投げ込もうとすると、彼はぎりぎりまで扉の端を掴んで耐えようとしていたが恋する乙女の力には到底及ばず、足元を躓かせながら入室させられた。


「あっ……」


 望六が部屋に無理やり放り込まれて直ぐにベッドの上で何かをしている二人と目が合うと、気まずい雰囲気が一瞬にして部屋全体に流れて時が止まったかのように静寂に包まれる。


「「…………」」


 そして肝心の一樹と月奈は一切の動きを止めて彼の方へと顔を向けてくると、二人とも表情が石像のように膠着していて望六は更に気まずくなる思いであった。


「ど、どうも……。通りすがりのセクハラ白髪でーす……」


 その場の全員が黙ったまま見つめ合って一分程が経過すると、望六は何か喋らないといけない気がして月奈が口にしていた二つ名を借りて自己紹介風に弱々しく呟いた。

 

「の……の、のの、望六ぅ!!」


 すると一樹が意識を再起動でもさせたのか急に瞳に光を宿して彼の名前を叫んだ。

 だが恐らくその叫び声の意味は自分が助けに来たとものだと勘違いして上げた声だと、望六は何となくだが彼の現状を見て理解出来てしまった。


「あ、ああ一樹。先に言っておくが別に助けに来た訳ではないからな……。むしろ俺の方が助けて欲しいぐらいだぜ……」


 額から変な汗を滴らせながら望六は自らの眉間を抑えながら口を開くと、取り敢えず万が一も一樹が勘違いを起こして期待を抱かれても嫌だったので事実を告げた。


「そ、そうなのか……?」


 一樹は捨てられた子犬のような顔をして小さく疑問の言葉を呟く。


「まあな。余り詳しくは言えないが……俺は”生贄”兼”抑止力”としてここに送り込まれた。……っとそれだけは確実に言える事だな」


 望六が頷いて反応すると徐に両腕を組みだして自身が部屋に放り込まれた意味をそれとなく伝えると、恐らく今も背後でこの場の状況を監視しているであろう二人の女子を頭の隅に思い浮かべて背筋に悪寒が駆けた。


「い、生贄? 抑止力? ……すまない。望六の言っている事が何一つ分からない……」


 彼の言葉を聞いて一樹は思案するように眉を顰めたが、理解が及ばなかったらしく謝り出す。


「気にするな。自分で言っていおいて俺も分からないし。……だがこれしか今は言葉が思い浮かばないんだ」


 だが望六とて自身が理解出来ていない事を無理やり強制するつもりはなく、ただ自分という

存在が何かしらの厄介事に巻き込まれているという事実を知って欲しかったのだ。

 

 それは例え一樹に伝わらずとも月奈にだけは確実に伝わって欲しいと。

 何故なら二人の空間に堂々と水を差すような真似を望六はしているからだ。

 

 ならば必然的にこの後の出来事は今日一日の彼女の行動を振り返れば自ずと分かる。

 そう、望六は自らの身に降りかかる惨劇を回避する為に先程の言葉を口にしたのだ。


 しかも今回は月奈が一樹を押し倒して一夜の過ちを犯そうとしている場面であって、普通の雑談を交えた和気藹々とした雰囲気の最中で起こった出来事ではないから余計に最悪なのだ。


「そ、そうか。……な、なぁ月奈? 望六もこうやって部屋に来てくれた訳だし、そろそろ降りてくれないかな……」


 一樹は顔を望六から外して今度は彼女の方へと合わせてると、月奈は今もなお表情を微動だにさせずに未だに彼の上に跨っている状態であったのだ。


 だが彼女は不思議と落ち着きを持っているのか焦りの色は全く見えず、そんな月奈の様子を見て望六は不思議に思い視線を合わせると途端に全身に言い知れない恐怖心が駆け巡った。

 なんせ彼女は真顔のまま瞳孔を全開にさせて瞬きもせずに自分の事をじっと見ていたからだ。

 

 月奈の漆黒色の瞳は一切の光を遮断しているのか深淵のように暗く、視線を合わせているだけで底なしの闇に引きずり込まれそうになるほどである。


「…………」


 暫くして月奈が無言のまま動き出すと漸く彼の上から降りる仕草を見せ始める。


「あっ、素直に降りてくれるのか……。あ、ありがとうな?」


 彼女が降りてくれることに一樹は何故か感謝の言葉を疑問形で口にしていた。


「…………」


 そして月奈が彼の上から降りて乱れた服装を少しだけ整えると、またもや瞳孔が全開の瞳を望六に向けてゆっくりと右手を伸ばしてきた。


 けれどその右手は彼の胸ぐらを掴む為に伸ばしたものではなく、この部屋の壁に立てかけられていた”木刀”を手にする為であった。


 望六その行動を見て一体何故この部屋に木刀が置かれているのかと疑問を覚えるが、それよりも木刀を手にした瞬間に月奈が小さく口を開いて呪禁のような言葉を発している事の方が気になる。

 

「ころ……ぶっ……す……」


 彼女は木刀を数回振り回して空を切ると歩き出す。


「な、なにを言って……?」


 望六は月奈が何を言っているのか分からず混乱するが一つだけ確かな事が分かっていた。

 それは今この場で確実に処されるということ。

 その証拠に彼女は木刀を手にして歩み寄って来ているからだ。


「ちょっか、一樹!? た、助け――」


 咄嗟に彼に助けを求めて声を出しながら望六は手を伸ばすが、


「ぶっ殺す」


 それは月奈から放たれた短くも殺意の篭った声により遮られた。


 しかも彼女は一定の距離まで近づくと急に木刀を構え直して先端を彼の方へと向けると、両足に力を溜め込むような動きを見せて次の瞬間には勢い良く床を蹴り飛ばして突進を仕掛けてくる。


「ま、待ってくれ月奈!! それは本当に俺が死んでしまうぞ!?」

 

 身振り手振りを使いながら焦る口調で言うと彼はこれから彼女が行う事が何かは分からないが、木刀の構え方からして真面な結果にはならないだろうとそれだけは認識出来た。


「死ね。幾度も私の邪魔をする不届き者めが。……水崎流、一期一閃ッ!!」


 月奈が水崎流の技を口にして木刀の先端を突き出してくる。


「まままっ!! まひゃ――――ぶげはぁ!?」


 それは刹那の間に望六の喉仏を的確に射抜くと彼は後方へと吹き飛んで床に伏せた。

 

「うがあっぁぁ……」


 望六は喉が吹き飛んだのではと思われるぐらいの激痛に襲われ始めると、床に転がりながら藻掻き苦しみ出して右手で喉を押さえて痛みを堪えようとした。


「ああ……そう言えば高校から”突き”は開放されるんだけっか……」


 彼が苦しんでいるのを他所にベッドの方からは、一樹の何とも言えない小さい声が聞こえてくる。

 

「楽に死ねると思うなよ。今のは私の邪魔をした分の罰だ。そして次は……お前の記憶が無くなるまで殺る」


 月奈は静かにそう死刑宣告のような事を告げて更に近づいてくると、木刀を徐に振り上げて白い歯を見せながら不敵な笑みを零すと一直線に彼の脳天に目掛けて振り下ろす。


「ひぃひぃ……こ、ころひゃれ……!?」


 命乞いをしようにも喉に痛みを受けていて上手く声が出せないでいると、望六は不思議と迫り来る木刀の速度が異様に遅く感じられて周りの光景すら確認出来る余裕があった。


 しかしそれは人が死ぬ間際に起こるとされている現象であることに望六は気が付くと、自分の体は既に免れない死を受けいれている状態である事を自覚されられた。

 

 そして幾ら木刀の振り下ろす速度が遅くても、既に体に力が入らず動けない状態であるならば回避する手だでは何一つ残されていない。

 ゆえに彼は必ず訪れる更なる痛みに怯える恐怖が増すだけであった。


「ひゃ、ひゃめ――――あばぁぁぁあッッ!?」


 やがて木刀が望六の脳天を直撃すると、彼は嘗てないほどの痛みをその身に受けて喉が潰れていいる可能性すらも捨て去り叫び声を上げて意識を飛ばした。


 けれど望六が意識を飛ばす瀬戸際に見えた光景は、月奈が木刀を肩に乗せながらまるで道端に吐き捨てられているガムを見るような冷たい瞳をしている姿であった。

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