24話「親友の家は幽霊が出る・・・?」
「あー……これは一樹が悪いなぁ」
月奈が怒りを顕にしながらリビングが去っていくと、この場に居る全員が突然の出来事に沈黙を貫いていたようだが、そんな中でも望六が小さく独り言を呟くように彼に向けて言い放つ。
「えっ?」
しかし突然彼に名前を呼ばれた事で一樹は目を丸くして困惑している様子であった。
「えっ。じゃないですの一樹さん。あれはどう見ても貴方が悪いですよの?」
長椅子に座りながらゆったりとした姿勢を維持しているシルヴィアは鋭い言葉を言い放つ。
「そうだぞ。あれは流石にアタシでも怒ると思う!」
床に座り込んでテレビを見ていた翠嵐も口を開くと彼女の言葉を援護していた。
「んー、あの月奈の反応を見るに……やっぱり僕の思い過しだったかな?」
この場にいる全員が一樹に向けて呆れたように言葉を言い合っている最中、ナタリアだけは依然として神妙な面持ちで未だに彼女と望六の関係を考えていた様子である。
そしてそれを聞いていた望六は、こんな状況だとしても彼女は自身の考えが揺れ動く事はないのだと妙に芯が真っ直ぐな所に何とも言えない感情を抱いた。
「まあ、とにかく一樹はあとでしっかりと謝っとけよ。じゃないと俺に飛び火するかも知れんからな」
月奈の八つ当たりを危惧して望六は絶対に謝るように強めの口調で言う。
「なんだよそれ……」
いまいち状況が把握出来ていないのか一樹の表情は煮え切らないものとなっていた。
「良いか分かったな? 可能であれば寝る間にだぞ!」
そんな彼の表情を見て望六は少しだけ苛立つと、人差し指を向けながら若干大きめな声を出す。
「わ、分かったよ……。だからそんな大きな声を出さないでくれ」
一樹が本当に意味を理解出来たのか真意は分からないが両手を上げて返事をすると、望六は取り敢えずはこれで自分の身は大丈夫だろうと安堵した。
「うむ、分かればそれで良し。ってことで先に俺が風呂を頂くが問題ないか?」
先程の件を絡めて話を適当に有耶無耶にすると、彼は先に風呂に入ろうとさり気なく一樹に訊ねた。今日は月奈に殴られた事や妹達の意外な様子を目の当たりにしたせいで、心的疲労が溜まってしまい望六は一刻も早く風呂に入って安眠に就きたい気持ちであったのだ。
「えっ? あ、ああまあいいけど……なんだ? 望六は俺と一緒に入りたいのか?」
だが一樹は何を思ったのか急に自身の頬を人差し指で掻きながら照れくさそうに言ってきた。
「……はっ?」
当然その言葉を聞いて望六は何を言っているんだと変な声が出た。
「あらあら、これはこれは……」
横からはシルヴィアが手の甲を顎に添えて何とも言えない笑みを見せてくる。
「ほほう、まさか望六が”二刀流”だったとはね」
翠嵐もそれに便乗してか口角を上げながら変なことを口にしていた。
「だ、駄目だよ望六! 同性の不純正行為は僕としては認められないからねっ! するなら僕にッ!」
すると少し遅れてナタリアが長椅子から立ち上がると、目をしっかりと開けながら彼に顔を向けて謎の念押しをすると共に右手を自身の胸に添えて力強く言っていた。
「よせ喋るなお前達! 一体なんて悍ましい考えをしているんだ! それとナタリアは俺が言った事をもう忘れたのか?」
望六は三人の様々な反応見ると背筋に悪寒らしきものが駆け巡り、直ぐに全員に向けてそれ以上の何も言わない事を言うと同時に、彼女だけには夕食前の出来事を思い出すように告げた。
「ああっ!? ……ご、ごめんなさい」
ナタリアは言われて思い出したのか気落ちした様子で謝る。
「うむ、思い出したのなら良し」
小さく頷きながら許したが、これが時折起こるとなると少しだけ頭の隅が重くなるのを望六は感じた。
けれど彼女が直ぐに感情を剥き出しにする癖は何時かは治さないといけない事だと彼は思っていて、それはかなり難易度の高いことであると先程のを見て何となくだが理解したのだ。
「えーっと、それで望六は俺と一緒に――」
一樹が何かを躊躇うような様子で口を開くと、
「入る訳ないだろ! 俺にそっちの趣味はまったくないからな!」
望六は間髪入れずに否定の言葉で返した。
「……ふっ、そんなに本気で否定しないでくれよ? ちょっとした冗談じゃないか。あと風呂は先に入ってくれて良いぞ」
そこから数秒の変な間が二人の間に訪れると彼は冗談だと言いながら笑っていた。
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ……まったく」
望六には本当にそれが冗談だったのかどうか分からず、依然として不安ではあったがこれ以上の会話は不毛だと思い終わらせた。
「んじゃ、俺は風呂に入ってくるからナタリア達は湯冷めしないうちにベッドに入っとけよー」
そして何となくこの場に留まる事に居心地の悪さを感じると、彼はリビングを出る前に女性陣達に声を掛けた。
「ふふっ、お気遣い感謝致しますの」
するとシルヴィアは足を組みながら優雅に返事をする。
「りょうーかーい」
翠嵐は手を小さく上げると左右に振りながら返してきた。
「僕は望六が戻ってくるまで待つよっ!」
だがしかしナタリアだけは違う反応をしていて、両手で握り拳を作ると自身の胸元辺りで小さく添えながら言い切った。
「あー……そうか。じゃぁ早めに上がってくる事にしよう」
恐らく今の彼女に大人しく部屋に戻れと言っても是が非でもこの場を動こうとしないだろうと、望六はここ最近の付き合いで悟ってしまうと余計な事は言わずに簡潔に纏めた。
――そして彼はリビングを出て行くと一旦自分の部屋へと向かって風呂の支度をするのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから望六や一樹が準備に風呂へと浸かって一日の疲れを癒すと時間はあっという間に過ぎて、今現在時刻は午前零時で深夜へと突入していた。
既に宮園家は物音一つしない静寂へと包まれていて、今日がゴールデンウィーク初日という事もあってか移動で疲れたのか皆一様に寝静まっているように望六には感じられた。
「うーむ。時間はいい具合なのだが、如何せん風呂に入ったせいで眠気が飛んだな」
部屋の電気を消して望六はベッドへと入ると目を閉じて暫く動かないでいたが、風呂に入ったせいで血行が良くなったのか段々と目が冴えていくようで寝付けない自分に苛立ちを覚え始めていた。
「はぁ……しょうがない。ここは一旦お茶でも飲んで心を落ち着かせるべきだな」
そう独り言を呟くと望六はベッドから降りて飲み物を求めて部屋を出ようとした。
――がしかし彼が部屋を出ようとしたその瞬間、二階から何やらベッドの軋む音が響き聞こえてきて足を止めた。
「なんだ? 一樹が大きめの寝返りでも打ったのか?」
その音が聞こえて彼は暗い部屋の天井を暫く見つめていたが、首が疲れると再び飲み物を求めてリビングへと向かうのであった。
「んっく……ぷはぁぁあ!! やっぱり喉が渇いている時は麦茶に限るぜぇ!!」
リビングへと到着した望六は冷蔵から麦茶を取り出すと、それをコップへと注いで一気に飲み干して乱れた神経を落ち着かせた。
あとはベッドへと戻って寝るだけなのだが、お茶を飲んだせいでトイレへと行きたくなると彼は最後にトイレに寄ってから部屋に戻る事にした。
「ふぅー……。うむ、寝る前の準備は全て整ったな。いざ夢の世界へ!」
トイレを済ませると望六は漸く寝る為に自分の部屋へと足を進める。
「ま……お……みつ……」
そして暗い廊下を一人で淡々と彼が歩いていると、ふと何処からともなく女性の声のようなものが流れ聞こえてきた。
「……き、気のせいだろ……ははっ」
流れ聞こえてきた声を否定するように望六は言葉を口にしたが、それをした途端に余計に恐怖が倍増してその場から動けなくなった。何故なら今彼が立っている場所は暗い廊下で、尚且つ聞こえてきたのは女性の声、さらに時間も遅く周りに人が居る気配は一切ない。
これらを瞬時に望六は考えて頭で整理すると女性の声は”幽霊”という結論に至ったのだ。
だが声の主が本当に幽霊であった場合物理が通じず、どうあがいても勝ち目がなく望六は一層の事気絶して現実から逃げたいぐらいであった。
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