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23話「幼馴染は複雑」

「俺の作った料理のせいで望六は腹痛を……ッ! 本当にごめん!」


 席を勢い良く立った一樹が真剣な顔つきで彼を見つめて頭を下げて謝ってくると、どうやら自分の作った夕食のせいで望六が腹痛を起こしたと思っているらしい。


「い、いや気にする必要はないぞ! あれだ! きっと俺の食い合わせが悪かったんだ! だ、だから頭を上げてくれ!」

 

 彼の無駄に責任感の強い部分を目の当たりにすると望六は先程まで自身が行っていた同年代の美少女達の寝巻き姿を見るためだけに、腹痛を使っていた事に妙な罪悪感が湧いていしまい身振り手振りを使って事を早急に収めようとした。


「だ、だけど……」


 一樹は尚も申し訳なさそうな雰囲気を漂わせ弱々しく言葉を出す。


「大丈夫だから! 気にすんなよ!」


 小さく右手を振ると望六はそのまま椅子へと腰を下ろして無理やり話を終わらせた。

 

「そうか……」


 望六が椅子座った事で彼は何処か納得のいかない表情を見せていたが、当の本人がこれ以上なにも言わない事から一樹も押し黙った様子で自分の席へと座り直した。


 だがそんな彼を見て望六は一安心することが出来た。何故ならその件を深く追求されて根掘り葉掘り聞かれたら、必ず何処かで綻が生じて嘘だと発覚してしまう恐れがあるからだ。

 

 ……もしそうなれば、ほぼ間違いなく月奈が黙っていないだろう。

 同年代の寝巻き姿を見たいが為に腹痛を装っていた。

 もはや弁明の余地すらなく、そこに待っているのは月奈による死刑という制裁のみである。


 しかもお気に入りのタオルで手を拭いただけで、人の意識を簡単に刈り取る事の出来る拳を放ってくるほどの女だ。

 ならば当然それ以上の制裁を受ける事になるは確定的だと望六は刹那に考える事が出来た。


「よし、次は私が風呂の番だな。では行ってくるが……くれぐれも覗きには来るなよ望六?」


 ゆっくりと長椅子から腰を上げながら月奈が口を開くと名指しで注意を促してくる。


「の、覗かねーよ! お前は一体俺を何だと思っているんだ……」


 唐突にも自分の名を呼ばれた事で彼は心臓が口から飛び出そうな衝撃を受けたが取り敢えず返事をした。それは先程まで望六が彼女について色々と考えていた事が影響していた結果である。


「ふっ、そんなの分かりきっているだろ。性欲に呑まれた白髪の猿だな」


 何故か決め顔らしき表情を見せながら月奈は言い放ってくる。


「……ああ、さいですか」


 普段からそう思われているのかと望六は色々と異論を唱えたかったが、今は大人しく聞き流す方が無難だと割り切った。

 

 変に言葉を返して相手を焚きつけるような真似をして面倒事に発展するのは良くないと、自らが火の粉を撒く必要はないと彼は考えたのだ。

 ――そしてそんな望六を余処に月奈は軽やな足取りでリビングを出て行くのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねえ望六……」


 月奈が風呂へと向かって暫くするとナタリアが声を掛けてきた。


「あー? どうした?」


 望六は一樹がお節介で用意した暖かいお茶を一口飲んでから返事をする。


「いやね? なんか今日はやたら月奈と望六の仲が近いなぁっと思ってさ」


 彼女は首を傾げながらそんな事を言ってくると仕草は可愛らしいのだが、目が全く笑っていな事から質問の真面目具合が望六には伺えた。


「俺と月奈の仲が近いだと? ……いやぁ、それはないな。うん、確実にない」


 取り敢えず頭に浮かんだ今日の出来事を振り返って彼は返事をした。


「そうですか? 私も今日はやたら月奈さんと望六さんが話している様な気がしますの」

 

 すると話を聞いていたらしくシルヴィアがテレビから視線を外して話に加わり出す。、


「シルヴィアもそう思うよね。……やっぱり望六と月奈は互いに仲が悪い振りをして、実は好きなんじゃ……」


 ナタリアは同じ長椅子に座っている彼女へと顔を向けながら神妙な面持ちで言葉を口にしていた。


「あれか? 喧嘩するほど仲が良いってやつ? ……まあ望六の場合は喧嘩にすらなっていないけど」

「そう……だから僕は疑っているよ。実は望六と月奈が両思い何じゃないかって言う事を」


 ナタリアの声色が段々と低くか細くなっていくと、先程まで床に座りながらスマホを触っていた翠嵐が顔を上げて口をへの字にしていた。


「ぶふっ!? や、やめろ! そんなこと冗談でも言うことじゃないぞ!」


 彼女達の言葉を聞いて飲んでいたお茶を吹き出すと、そのまま望六は否定の言葉を口にする。


「冗談で言ってないよ! 僕は至って真剣だよ!」


 だが横からはナタリアが物凄い速度で反応を示すと大きく声を荒げて返してきた。


「まあまあ落ち着けって二人とも。そんなに声を荒げなくても直接本人に聞いてみたらどうだ? なあ月奈?」


 二人の言い争いを止めるようにして一樹が椅子を引きづりながら立つと、両手を広げて落ち着くように促してくる。


「「……えっ?」」


 しかし最後の言葉を聞いて望六とナタリアは同時に同じ言葉を呟いた。


「んんっ、ナタリアよく聞いてくれ。私は……」


 それから望六が振り返って顔を向けた先には、風呂上がりの月奈がサメの絵柄の入ったシャツを着てスポーツ用の短い短パンを履いた状態で立っていた。


「仮にこの地球が滅ぶことになったとしても決して望六の事は好きにならない。それは断言してもいい。いや……むしろ私自身の命を賭けても良いだろう」


 彼女はそのまま全身から湯気を立ち上らせながら、ナタリアへと歩み寄ると望六に対しての思いを力強く伝えて始めていた。それはまるで勘違いされること事態が嫌だと思われるほどに。

 

「ほ、本当かい? 本当に命を賭けられる? もし嘘だったら僕は月奈のことを――」


 ナタリアが話を聞き終えて瞳から光を無くすと何か怖いことを言いかけていたように望六は思えたが、


「ああ、無論だとも! そもそもこの木偶の坊の事なんぞ眼中にすらないからな!」


 月奈が口角上げて笑みを見せながら辛辣な言葉を放り投げてきた事の方に心が抉られた。


「それはそれで酷い気がするけど……俺的には月奈と望六は有りだと思うんだけどなぁ」


 一樹が彼の心を内を代弁するように苦笑いしながら口を開くと、後半は何を言っているのかと望六は自身の耳を疑った。


「「「「え”え”っ”!?」」」」


 そして彼の言葉をリビングに居る全員がしっかりと聞いたのか、一つ間が空くと皆一様に驚きの声と共に目を丸くして一樹へと視線を向けていた。


「ど、どうした皆? 俺なんか変なこと言ったか?」


 全員の反応が予想外だったのか一樹は困惑した様子のまま周囲に顔を忙しなく向ける。


「おいおい……お前終わったな。はぁ……」


 鈍感という属性に全てのステータスを振り分けたような男に対して望六は深く溜息が出ていく。

 

「ほ、ほほ、本当にそう思うのか? か、一樹は私の事が嫌いになったのか……?」


 彼の言葉が衝撃的だったらしく月奈は暫く膠着していたが、正気を取り戻すと絵に描いたように動揺し始めていて声に力が入っていないようである。


「いや好きだけど? てか何で急に俺が月奈のことを嫌いにならなきゃいけないんだよ」


 一樹は彼女の事情が全く分からないのか不思議そうな顔を浮かべて返していた。


「だったら何でそんな質の悪い冗談を……」


 月奈は彼の”好き”という言葉を耳にして安堵したのか動揺が少し収まったように見える。


「いや、冗談で言ったつもりは――」

「ッ……もういい馬鹿者! 私は寝る! 誰も部屋に来るな!」

 

 彼女は鬼の形相とまでは至らなかったが望六から見て額に青筋が張っている事に間違いはなく、一樹の空気を読まない発言は本当に勘弁して欲しい思うばかりである。


 そして月奈はそのままリビングから出て行くと、この場に残っている者達は誰一人として声を掛ける事は出来なかった。


 それほどまでに今の彼女は近寄りがたい禍々しい怒りの雰囲気を纏っていたのだ。

 さらに一樹とすれ違った際に月奈は横目で睨んでいたが、その瞳は確かに自分に対して怒っている時のものとは違うものであると望六は理解出来た。

 

 とどのつまり本気の怒りというやつであると――――

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