21話「童貞少年は少女達からの信用が低い」
望六が月奈から何度目かの制裁を受けたあと、なんとも気まずい夕食が始まって昼食の時ほど会話が盛り上がる事はなかった。
何故ならシルヴィアと翠嵐は未だに余韻が残っているのか頬が赤く、一樹は事情を知らないことから静観を貫いているようで、月奈に至っては焼き鮭の骨を器用に除きながら食べて難しい表情を浮かべているからだ。
そして夕食の時に隣の席からナタリアが望六に耳打ちしてきたのだが、昼食時に言っていたあとで用があるというのはエロ本の事だったらしいのだ。
つまり言ってしまえば、あの時から彼女は感情が抑えきれていなかった事になる。
「よし……取り敢えず飯も食い終わった事だし、そろそろ例の順番を決めようではないか」
全員が夕食を食べ終えてリビングの長椅子や床に座りながらテレビを見てゆったりとした時間を過ごし始めると、望六は今日の一大イベントと言っても過言ではない事を言い出した。
「例の順番?」
「それは一体なんですの?」
月奈とシルヴィアが真顔で聞き返してくると、望六は人差し指を立たせて小さく左右に振りながら喉に力を入れて再び口を開いた。
「そうだとも! それはずばり”風呂の順番”である!」
彼は声高らかにその言葉をリビング全体に響き渡らせる。
「「「「「……あぁ」」」」」
その場に居る全員が同じ呆れ顔を見せながら気の抜けた返事をしてきた。
それに対して望六は一樹がまさかの女子側の反応をするとは普通に予想外の出来事であった。
「おいおい一樹よ。お前までそっち側のリアクションをされると俺の味方がいなくなってしまうぞ」
彼はそう言いながら机の上に置かれているコップを手に取ってお茶を一口飲む。
「知らないよ。というより順番も何も月奈達が最初に入って望六が一番最後なのは既に決定事項だぞ?」
一樹が目を細めながら対面に座っている彼に顔を合わせて言い放つ。
「……ふぁ!?」
そこから僅かな間が空いてから望六は驚愕の声を漏らした。
それは一体いつのまに決まった事なのかと、なぜ自分を入れないでそんな大事なことを決めてしまうのかという驚きの意味合いも込められていた。
「当たり前だろう。お前は自分の日頃の行いを思い出してみろ。そうすれば心当たりの一つや二つ見つかる筈だ」
すると長椅子に座ってテレビを見ていた月奈が彼の方へと顔を向けて話し掛けてくる。
「……うーむ、駄目だ。まってくもって心当たりがないぞ」
望六は言われた通りに目を閉じて日頃の行いを振り返ったが特にこれと言った事は無かった。
「はぁ……馬鹿もここまで来ると厄介だな。まあ、なんにせよ今更順番は覆らないからな。お前は大人しく最後に入れ。無論だが風呂の栓は抜いておくから安心しろ」
月奈は大きく溜息を吐いたあと右手で頭を抱えだすと、視線を尖らせながら彼に向けて念押しするようにしっかりと聞き取り安い口調で言い放った。
「くっ! 月奈が段々と俺の扱いに慣れてきていやがる……ッ!」
彼女が手馴れたように言い放った言葉の中に全ての対策が講じられている事を望六は認識すると、冷や汗のような雫が頬を伝って落ちていくむず痒さが鮮明に分かった。
「ふんっ、慣れたくはないものだがな」
表情を凛とさせて言い切ると月奈は再び顔をテレビへと向けて話を終わらせるのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから望六達がテレビを見ながら静かな時間が経過していくと、既に時刻は午後八時過ぎぐらいとなっていて宮園家ではこの時間帯になると風呂の時間となる。
「えーっと、じゃあ最初は翠嵐が入ってきてくれ。そのあとシルヴィアで次がナタリア、んで最後が月奈といった感じで良いかな?」
一樹が風呂の準備を済ませてリビングへと戻ってくると顔を交互に全員へと向けて順番の確認を始めた。どうやら本当に自分は最後であることは確定事項のようだと、望六は若干項垂れながら頬杖を付いて話を聞く。
「了解したぜ!」
「承知しましたの」
翠嵐とシルヴィアは特に何も言うことはないのか頷きながら了承していた。
「僕は望六と一緒でも全然構わないんだけどなぁ……」
ナタリアが人差し指を自身の唇に当てながら独り言を漏らすかのように呟く。
「よせナタリア。あいつは性欲に身を蝕まれたただの猿だ。ここは大人しく一樹の言う通りにするんだ」
月奈が光の速さで反応を示すと彼女へと近づいて望六という人物の事を伝えていた。
そしてその話は当然当の本人にもである彼にも聞こえてくる訳で、流石に言い過ぎなのではないかと月奈に少しだけ望六は苛立った。だが決して性欲に蝕まれている訳ではなく、ただ単に好奇心の延長戦なだけであると彼は自負している。
「わ、分かったよ。……だからそんなに顔を近づけないで?」
顔を近づけられた事でナタリアは照れているのか頬を赤くさせながら返事をする。
「あ、ああすまない。ついお前の身が心配でな」
軽く謝りながら月奈はイケメンが使いそうな言葉をなんの躊躇もなく使用していた。
「んじゃ、早速アタシが一番風呂を頂いてくるぜ!」
場の空気を読んだのか翠嵐が声を上げて言うと、そのままリビングを出て行った。
恐らく替えの下着や服を取りに部屋へと向かったのだろう。
――――それから女子達が風呂を使っている間はトイレを除いてリビングから出る事を禁止されると望六と一樹はスマホでゲームをしつつ時間を潰して、ナタリア達はテレビ見ながら何やら楽しく話し合っている様子である。
「あー、すまないがトイレに行っても良いだろうか? ちょっとお茶を飲み過ぎたようだ」
スマホゲームを終えると思い立ったように椅子から立ち上がって望六が口を開く。
「……それは本当にトイレなのか? 言っとくが私はお前を信じていないからな」
先程まで楽しそうな雰囲気であった月奈の表情が一瞬にして険しくものへと変わっていく。
「ああ、無論だとも。この俺の命に誓ってトイレに用事があるッ!」
彼は自らの心臓を捧げる勢いで右手の握り拳を胸に当てながら言う。
「ふっ、随分と安い命だな。……まあ許可してやっても良いが、あまり時間を掛けるなよ?」
月奈はそれを鼻で笑ってトイレに行くことを許した。
だが時間を掛けると疑われるようなので事は早急に済まさねばならなくなった。
「了解した」
頷きながら返事をすると望六はスマホをポケットに仕舞ってリビングを出て行く。
その際に背中からは女子達の視線が痛いほど突き刺さる感覚を受けて、自分はそれほどまでに信用がないのかと少しだけ悲しくなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「……ふぅ。まったく、なんで俺の信用はあそこまで地に落ちているんだろうか……。こればかりは幾ら考えても理由が思い当たらないな」
トイレでの用事を済ませたあと望六は手を洗ってハンカチで拭きながら暗い廊下で呟くと、背後から軽い足音が段々と近づいてきた。
そして彼は足音が気になって振り返ろうとすると、
「っどぅえ!? ……っとなんだよ望六か。どうしたんだ? こんな廊下で棒立ちして。……あ、もしかしてアタシの風呂を覗きに来たのか? ははっ、残念だな。もう上がった所だ!」
それよりも早く翠嵐の甲高い声が耳の奥に響いた。どうやら彼女は風呂を上がったばかりのようで髪がまだ湿っているのかタオルを頭に乗せていた。
「あ、いや違うし……それは見れば分かるが……。何というか翠嵐は随分と肌を晒す服装をしているな」
翠嵐が覗きという言葉を発すると望六は直ぐに否定の言葉を口にして、そのまま視線を彼女の服装へと向けた。見れば翠嵐は大きく中華という文字が刻まれた半袖と無地の短パンを着こなしているのだ。まだ五月序盤だというのにその格好は早くないかと彼は少しばかり思う。
「ん? ああ、まあな。この方が解放感があって寝やすいし、ぶっちゃけ寝るだけなら格好に拘る必要性もないっしょ!」
そう笑みを見せながら彼女は言ってくると頭に乗せていたタオルを取って今度は首に掛けていた。
「確かに……それは一理あるな。んじゃ、ついでだし一緒にもど……っと待てよ? もしかしてこれは――」
それを聞いて望六は妙に納得してしまうと、このまま翠嵐と共にリビングへと戻ろうとしたのだが、突如として体に稲妻が駆け巡るが如く”とある事”を思いつくと自然と笑が零れるのであった。
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