20話「暴力系幼馴染は旧世代」
ナタリアと共に慌てて部屋を出た望六は急いでシルヴィア達を追いかけてリビングへと駆け込むと、そこには依然として顔を真っ赤に染め上げたままの二人が呆然と立ち尽くしている状況であった。
「お、おい二人とも聞いてくれ! これには海よりも深い事情があってだな!」
恐らく彼女らはまだ一樹達に事情を話していないと望六は判断すると、誤解を解くには今しかないと息を荒げながら二人へと近づく。
「え、ええ分かっていますの。望六さんだって年頃の男性ですもの。……だからそういう事に興味があるのは分かります。しかし……その、時と場所を弁えて欲しいですの!」
するとシルヴィアは顔を彼と合わせたくないのか逸らしながら何処か怒っているような口調で言ってくる。
「そ、そうだぞ。ここは一樹の家なんだぞ! その辺ちゃんと分かってるのかよ!」
隣で立ち尽くしている翠嵐も視線を合わせずに顔を横に向けながら声を荒げていた。
そしてそんな異様な光景が繰り広げられれば当然として、
「なんだ? どうしたんだ三人とも。何かあったのか? そんなに大きな声を上げて」
この家の家主代理でもある一樹が両手にナイフとフォークを人数分持ちながら姿を現した。
「まったく、騒がしいのも大概にして欲しいものだな。これでは落ち着いてテレビも見られやしない。……だが大方この二人の言い方から察するに、また望六が何かやらかしたんだろうな」
そう言って月奈が長椅子から立ち上がって両腕を組みながら彼のもとへと歩み寄っていくと、望六は如何せん状況的に全くの無関係とも言えずに彼女の言葉に反論出来なかった。
「はぁはぁ……。は、話しを聞いてよ二人とも! あれは僕が勝手に暴走しちゃっただけだから……望六はむしろ被害者なんだ!」
遅れてナタリアがリビングへと到着すると直ぐに自身が招いた結果だと説明を行う。
「いいえ、それは絶対にありえませんの。何故ならナタリアさんの格好は服装が乱れた状態で下着が顕となって、さらに涙目になりながら瞳は潤んでいて完全にあれは――」
だがそれはありえないと強く言い切られてしまい挙句にシルヴィアは事の内容を全員が揃っている前で公言し始めた。
「おい待てシルヴィア、一体なんの話をしているんだ? それに私の聞き間違えでなければ下着が顕になったとか言う聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだが?」
彼女の話しを聞いて横から月奈が待ったを掛けると、いまいち事情が把握出来ていない様子ではあるが望六的に一番気にして欲しくない所をしっかりとシルヴィアに聞き返している。
「そうですの! 聞いて下さいまし月奈さん! 実は望六さんが「あ”あ”あ”ー!!」……もぅ! うるさいですの!」
彼女の方へと顔を向けるとシルヴィアはここぞとばかりに口を大きく開けたが、望六はこれ以上彼女に余計な事を喋らせてはいけないと途中で割り込んで大声を上げて掻き消した。
その瞬間、翠嵐と一樹はまるで珍獣を見るかのように冷ややかな視線を向けてきたが今の彼にとってそれは些細な出来事で失う物は何も無かった。
……がしかし、心には鋭利な刃物で傷を入れられたような感覚を望六は受けていた。
「おい望六。少し黙っていろ。でないとお前に水崎流の極意の一つ、手刀による痛みを与えて力ずくで黙らせないといけなくなる」
月奈は静かにただ視線を鋭くさせて右手を意味あり気に見せつけてくると、彼に残された手段は大人しくするほかなかった。……だが望六には何となくだが分かっているのだ。
ここで抵抗してもしなくとも、どの道シルヴィアから話しを聞いたら月奈は問答無用で何かしらの制裁を加えてくることを。それが中学の頃からの付き合いゆえに悲しくも分かってしまうのだ。
「よろしい。ではシルヴィア、さっきの話の続きを頼む」
彼が大人しくなったのを見届けて月奈は話しを続きをするように言う。
「は、はい。分かりましたの……」
シルヴィアは困惑した様子の表情を見せていたが目の前に居る彼女の覇気に押されたようで自身が見た光景をありのまま伝え始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ッ!! 貴様よくも人様の家でそんな事が出来るなぁ!? お前の頭には一般常識というのがないのか!!」
シルヴィアから全ての話しを聞き終えて月奈は額に青筋を浮かせると、そのまま声を出しながら右手を望六へと向けて顔を握り潰す勢いで掴んできた。
「く”ぁ”あ”ぁ”あ”!?」
その一瞬の出来事に彼は回避行動すら取れないまま掴まれると、月奈の右手がこめかみの部分を圧迫して強烈な痛みを与えてくる。
それはまるで熟れた林檎を握り潰すかのようで、彼女は徐々に手に力を入れてくる。
「や、やめてよ月奈! シルヴィアが言った事は本当だけど違うんだ! あれは本当に僕が思いが暴走しちゃっただけなんだよ!」
ナタリアは望六の悲痛な叫び声を聞いて思い立ったのか、自身の胸元で小さく握り拳を作りながら改めて自分が悪いと真剣な声色で言っていた。
「ああ、ちゃんと分かっているともナタリア」
すると思いのほか月奈は彼女の言葉に理解を示している様子である。
「つ、月奈……!!」
ナタリアは申し訳なさそうな表情から一転して安堵感溢れるものへと変えていた。
「そう……言うようにコイツから脅されているのだろう? 大丈夫だ安心しろ。私が直々にこのクズを制裁して二度と手出し出来ないように教育してやるからな」
だがしかし月奈は望六が彼女に無理やり言わせているのではと考えているらしく、ナタリアの行為は彼を助けるどころか逆に煽るだけで結果として焚きつけるだけとなっていた。
「全然分かってないじゃないか!! や、辞めてあげてよ月奈ぁぁ!!」
両手を上下に小さく振ってナタリアは尚も望六を離すように声を張り上げる。
「へ”ふ”あ”っ”」
けれど彼女の尊いその行為は望六の短くも汚い悲鳴によって無意味になる。
「あ、力の加減を間違えた。チッ、楽に逝かせてしまったか」
舌打ちをしながら月奈は右手を顔から離す。そして望六はまたもや月奈の手によって気絶させられるのかと、一体これは何の因果なのかと思いながらリビングの冷たい床へとうつ伏せで倒れ込む。
「あぁぁっ!? の、望六大丈夫! 起きてよ!」
慌てた様子でナタリアが駆け寄って床に膝を付けながら彼を抱き抱える。
「くっ……ら、来世は猫になりたい……」
望六は辛うじて残っていた意識で来世の願望を呟いて重たくなった瞼を閉じようとする。
だがその刹那机の上に食器が置かれる音が響くと、
「まあ、色々とあったみたいだけど取り敢えず飯にしようぜ。せっかく作ったのに冷めちゃったら美味しくないからな」
一樹がいつもの爽やか笑顔で何事もなかったかのように言ってくるとその場にいた全員が呆気に取られていた。
「う、うむそうだな。食べ物を粗末にするのは良くない。……おい聞いていただろ望六。とっとと起きないと次は鳩尾に食らわせるぞ」
月奈は一樹の言葉を聞いて頷くと彼の方へと視線を向けて脅しとも言える言葉を使って無理やり覚醒を促す。
「は、はいっ! 起きました! 食べます食べます!」
望六はナタリアの腕から飛び起きて敬礼の仕草を取りながら顔に残る鈍い痛みに耐えながら返事をした。
「ああ、よかったぁ。大丈夫そうだね望六。……あと本当にごめんね、僕のせいで痛い思いをさせちゃって……」
ナタリアは彼が勢い良く立ち上がった事で体は大丈夫だと判断したのか、安心したように声を緩ませてながら何度目かの謝罪の言葉を口にした。
「なに、気にする必要はない。だが次からは出来る限り感情を抑えられるように頑張ってくれ」
望六はそれに何とか笑みを作って返すと次からは気をつけてくれと優しく注意する。
「……う、うん! 頑張るよっ!」
ナタリアは腰を上げて立ち上がるとギザ歯を見せながら笑みを零していた。
「そもそも望六がエロなんて持っていなければ、こんな事にはならなかったとアタシは思うけどな」
「それは全くもって同感ですの」
漸く事が一段落終えたように見えると横からは椅子に座ろうとしている翠嵐とシルヴィアの小言が流れ聞こえてきて、その意見は当の本人である望六でさえも同感であり心中で過去の自分を悔いるのであった。
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