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18話「武闘派女子に殴られ、イタリア少女は問い詰める」

「はぁ……。妹達の負の面を垣間見ていたせいで思いのほか出るのに時間掛かったな」


 望六が妹達の事で頭を抱えつつ柳葉家をあとにして宮園家へと向かうと、既に時刻は十五時を過ぎた辺りであった。そして彼は途中まで完全に忘れかけていたが、ふと思い出すと周囲に怪しい人物がいないか警戒して帰路へと辿る足を早めた。


「うーむ。周りに怪しい人物はいなかったから後を付けられている可能性はない筈だが……。もし仮にここで俺がやらかしていたら一樹やナタリア達に迷惑を掛けてしまうからな。最後にもう一度、あの角を曲がる前に周囲の警戒を……っと? なんだあの人は?」


 宮園家まで歩いてあと数分ぐらいの位置にまで来ると望六はその場で足を止めて再び周囲の警戒を行おうとしていたが、彼は何かの気配を背後から感じ取ると丁度良く道路に設置されていたカーブミラーに視線を向けて鏡の部分に写りこんだ人物を発見すると困惑の声が出た。


 その人物は見るからに不審な動きをしていて服装は茶色のロングコートに黒色帽子、黒色のサングラスと言ったまるで絵に描いたような不審人物の格好をしているのだ。


 それは当然彼の目を惹くには充分な格好であり、明らかに真面な人物ではないと望六は判断すると背後の人物に悟られないようにゆっくりと歩き出した。 


「……くそっ。ただの危ない格好をしている一般人かと思ってたいが……どうやら俺の当ては外れたようだな」

 

 望六は一つの可能性として背後の人物はただのファッションの一環でそういった格好をしている一般人可能性を考慮して知らないふりをして歩きだしたのだが、どうやらそれは見後に的外れの考えだったらしく彼が歩き出すと同時に背後の人物も動き出したのか足音が聞こえてきたのだ。


「チッ、このまま宮園家に向かう道を使うのは止めといた方が良いな。無闇に相手に情報を渡すのは得策ではない筈だ。つまり今俺に出来る事はこのまま背後の人物を上手く巻くことのみ」


 自分の背後を一定の感覚で追ってきているであろう人物から逃れる為に望六はとある案を脳内に浮かべると、それを実行する為に予備動作なしに走り出して曲がり角へと向かう。

 すると彼の背後から少し遅れて走り出す音が聞こえてくるが、


「これで上手く巻けるだろうな。なんせここは俺の地元だぜ? まさに庭と言っても過言ではないぐらいに周辺の地理は知り尽くしているぜ!」


 望六は角を曲がって直ぐにゴミ箱を利用して外壁をよじ登ると反対側に降りてそのまま老夫婦が住んでいる家の敷地を横切って不審人物の追っ手を巻くことに成功した。


 だが冷静になって考えてみると自分の後を追ってくるという事は下手したら柳葉家の出入りを見られている可能性があり、望六はその事実に気が付くと焦りからか心臓の鼓動が早くなるのを感じつつも宮園家へと向かって再び歩き出した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁ……。やっと帰ってくる事が出来たな。しかし変装していても無駄だったという――」

 

 宮園家へと到着して望六は大きく溜息を吐きながら扉を開けると、


「漸く帰ってきたな。クソ野郎」


 そこには鬼の形相をして右手にサメの絵柄の入ったタオルを持ちながら仁王立ちしている月奈の姿があった。

 

 そしてその瞬間なぜ彼女がこんなにも怒りを顕にしているのかと望六は頭の中が混乱状態であったが、月奈が手にしているタオルに視線を向けると答えは自ずと直ぐに分かった。


「なっ!? そ、そのタオルは……」


 望六はその特徴的なサメの絵柄には見覚えがあり、それは彼が柳葉家に向かう前に濡れた手を拭く為に使ったタオルであったのだ。


「ああ、気づいたようだな。お前は私のお気に入りのタオルで、その下衆な手を拭いたな? ……ならばもう言葉は不要だろう。さぁ、腰に力を入れて踏ん張れよ? でないと首が飛ぶ事になる」


 彼の自白にも等しい言葉を聞いて月奈は一層目付きを鋭くさせると、徐に握り拳を作りながら右手を構えて左足を前に出してきた。それはまるで人を殴るような体制で望六はこれから自分の身に起こる事を予想して恐怖よりも絶望の感情が上回ると、


「ちょちょっ待ってくれ!? 話をしよう! 一回でも話を――」


 必死に両手を前につき出して穏便に事を済ませようと奮闘する。

 だがそれは火に油を注ぐ行為と同じだったらしく、


「死にさらせ! 童貞白髪変態男ッ!!」


 怒りで口元を歪ませながら月奈は突進してくると全体重と筋力を乗せた腕を彼の喉に直撃させて後方の扉まで吹き飛ばした。


「げあうがッ!? ら、ラリアット……だと……」


 望六はそれを諸に受けて背中を扉へとぶつけると家全体が地震にも遭ったのかと思われるほどの揺れを発生させて、彼は背を扉に擦らせながら玄関へと腰を付けると彼女が繰り出してきた技を呟いた。


「ふんっ、私は寛大だからな。今日はこれで許してやるが二度はないと思え」


 未だに月奈は怒りを孕んでいる様子ではあるが先程までの鬼のような雰囲気はなく、最後に睨み利かせて念押ししてくると望六の朦朧とした意識はそこで途絶えた。

 





 ――――それから暫くして望六が目を覚ますとそこは借りている自室のベッドの上であり、月奈の手によって気絶させられての起床は本日二度となった。


「ああ、滅茶苦茶喉が痛い。……ったく月奈の奴また力が増したんじゃないか? もはやあの女に素手で勝てる者は七瀬さん意外に居ないんじゃ……」


 彼は寝ていた体を起こして優しく喉に触れると鈍い痛みがじわじわと起こり始めて、日に日に増しているであろう彼女の力に恐れを抱いて身が震えた。

 だが望六がそんな独り言を呟いていると唐突にも部屋の扉が開かれて、


「なーに馬鹿の事を言っているのさ」


 と言いながらナタリアが真顔で部屋に入ってきた。


「ん、ナタリアか? どうしたんだ?」


 意外と大きな声で喋っていたらしく外に漏れ聞こえていた事を自覚すると、望六は特に先程の言葉について訂正する事はなく彼女の方へと顔を向ける。


「どうしたんじゃないよ。もう夕食の時間だから起こしに来たんだよ?」


 ナタリアが首を傾げながら瞬きを一切せずに部屋に入ってきた目的を言う。


「えっ、もうそんな時間なのか? ってことは俺は二、三時間は気絶していたのか……」


 望六は部屋の壁に掛かっている時計に視線を向けて時刻を確認すると既に夜の十八時三十分頃であった。


 そして夕食と言われて体が気がついたのか空いた扉からは肉の焼ける香ばしい匂いが風に乗って漂ってくると、それは彼の鼻腔を勢い良く突き抜けていき空腹を実感させられる事となった。


「そうだよ。……でも僕が望六を起こしに来たのには他にも理由があるんだ」


 ナタリアが顔を逸らさずにずっと彼の瞳を見続けてくる。


「他の理由……?」


 それは段々と言いようない恐怖という感情に変わっていき望六は返事をする際に若干声が上ずった。


「うん。それはつまりね、この本の事について詳しく聞きたいなって」


 小さく頷いてから彼女は後ろで組んでいた手を離すと、そのまま右手を望六の前へと突き出してきた。彼はその突き付けられた本の表紙にじっくりと目を通すと、それは一度月奈の手によって発見されたSM物のエロ本である事に気が付いた。


「なな、なんでそれをナタリアが……?」


 一体どうしてそのエロ本を今度はナタリアが持っているのかと、望六は刹那の間に色んな考えが脳内を駆け巡ったが信憑性の高い答えが出る事はなかった。


「なんでって……そりゃぁ僕が月奈に頼んで処分される前に譲って貰ったからだよ。仮にもこれは望六が所持していた本なんでしょう? だったらこれを読めば望六の趣味がわかる訳だから僕が手にするのは当然だよ。でもね? 僕はこの本を読んで率直に怒っているよ」


 ナタリアは右手に持ったエロ本をゆらゆらと揺らしながらさり気なく主張してくると、望六は彼女がこの本を月奈から受け取った事や中身を読んだ事に素直に動揺が生まれた。

 何故ならこういう本は元来女性にとっては嫌悪するべき物だと彼は思っていたからだ。


「お、怒っている? そ、それは俺がエロ本を隠していた事にか……?」


 望六は動揺の影響なのか吃りながら声を発してしまう。


「違うよ。望六だって年頃の男の子なんだから、そういうのに興味があるのは仕方のない事だと思っているから別にそんなには怒ってないよ。うん、そんなにはね」


 ナタリアは首を横に振って答えると彼のそういう十八禁の面に関しては意外と寛大の様子であった。


「じゃ、じゃぁ一体何に怒って――」


 彼はナタリアの返事を聞くと何に対して怒っているのか分からなくなってしまい思い切って訊ねてみると、


「ッ……! 僕が本当に怒っているのは、この本の内容についてだよ!」


 彼女は急に態度を豹変させて望六の元へと近づきながら本を開いて”とある描写”が写されている場面を見せてくるのだった。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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