17話「柳葉家の女性陣は愛情が深い」
「クソクソクソッ! なんで望六兄さんは私を裏切ったんだ! どうしてあの時電話を切ったんだ……クソがッ!」
望六が引き戸を開けて僅かに作った隙間から覗き込むと、そこには彼の妹の一人であり次期柳葉家元の当主【柳葉美優】が荒々しい雰囲気を纏いながら風属性の刃を生成して木人形の頭部へと目掛けて放っていた。
「もっと……もっと私達が強くなればきっと望六お兄ちゃんは戻って来る……。いや、氷漬けにしてでも取り戻す。絶対に誰にも渡さない」
そしてその隣では美優の姉妹である【柳葉優希】が右手を広げて木人形へと向けると氷属性の柱を生成して人形の心臓部分へと数本打ち込んでいた。
「こ、これは一体どういう状況なんだ……?」
妹達の会話と魔法を目の当たりにして望六は動揺を隠せないでいるが、美優の言っている事だけは深く理解出来た。なんせあの日を境に着信拒否にされているからだ。
だがそれとは別に優希の方の発言に関しては彼とて謎が多く残るものであった。
「うーむ。あの日から結構の月日がたったと思うが、美優は未だに電話の件を気にしているんだな。……まあそう言うと俺も滅茶苦茶気になっていたから人の事は言えないが」
望六は引き戸の隙間から顔を離すと両腕を組みながら美優が現状思っているであろう事を考え始めるが、それよりも彼が気になったのは優希の言動である。
恐らく彼女は何かしらを勘違いしている様子だと望六は何となくだが分かったが、その肝心の勘違いの部分が具体的に掴めずに思い悩む。
「まさかここにきて新たな問題とはな……。にしても美優が情緒不安定なのは致し方ないとして、優希までも同じ状態になるのとは……。これは俺の予想していた以上に仲直りは難題かも知れん」
二人の妹達を思いながらも望六は小言のように呟くと、現状の状態で仲直りは火に油を注ぐだけだと判断して静かにその場を後にしようと思い立った。
……だがそこで妹達と再び会えるのは大型の休み以外にないと言う酷な現実が彼の脳裏を高速で過っていくと、最後にもう一度だけ妹達の姿を自らの瞳に映しておこうと顔を引き戸にめり込ませる勢いで再び覗き込む。
「はぁはぁ……。このまま木人形を相手にしていても強くはならない。お母様に頼み込んで稽古をつけてもらうぞ」
望六が考え混んでいる間にも美優は幾度となく魔法を発動していたせいで息が上がっているようだが、僅かに息を整える仕草を見せたあと顔を優希へと向けた。
するとその際に美優の横姿が確認出来て彼女の変わらない姿に望六は一瞬安堵したが、それも束の間であり彼はたった一つだけ変わっている部分に気がついてしまい視線が吸い寄せられるように離せなくなった。
美優は煎茶色のエアリーウルフボブの髪型で栗色の瞳を宿し、顔は優佳さんに似て凛としていて胸はそこそこ大きい方であるのだ。
……だがその胸の部分が去年よりも僅かに成長している事に望六は気がついてしまったのだ。
それは幾度となく妹の胸を見てきたからこそ分かるのだ。当然だがその全ては合法的に且つ日常における時のみであり、決して生乳を見た事がある訳ではない。
「う、うん……そうだね。望六お兄ちゃんを取り戻すにはもっと、もっともっともっともっともっと更なる力が必要だからね。そしていつかは第一から引き抜いて私達が入学した第二に来てもらうんだ。……ふふっ」
そう言いながら優希は自身が身に着けている魔術デバイスを指でなぞるように触れて何かを想像したのか恍惚とした表情を浮かべていた。けれど彼女も美優に引けを取らない容姿をしていて、それも相まってか年相応の色気というのが垣間見えた気がする望六である。
優希は短髪と長髪の丁度中間ぐらいの髪型をしていて肩に毛先が触れるぐらいの長さで狐色をしているのだ。そして瞳は漆黒色であり顔は優佳と似てなく表情が豊かな方である。
それは恐らく優佳の母で美優達からは祖母に当たる人物の遺伝が強く影響しているのであろう。
優希が持つ氷属性の魔力も彼女らの祖母【柳葉亜希子】だけしか元々持ってなくて、現状柳葉家で氷属性が扱える者は優希と亜希子のみである。
あとは例外なくして全員風属性のみであると、何年か前にこっそりとこの屋敷に訪れた亜希子本人が煎餅を食べながら望六に話してくれた事があったのだ。
当時はその事をなぜ柳葉家の人間ではない他人の自分に話すのかと疑問であったが、それは数年経った今でも不明のまま望六の中で残り続けている。
「そう言えば二人は第二WM学園に入学したんだけっか……」
そして望六は彼女らの話を聞いて前に優佳から聞いた第二WM学園についての事を思い起こすと、そこは完全に実力派主義の学園で魔法に関連した大会では常に一位か上位の成績を収めている所であるのだ。
「ああ、そうだ。だからその為に何者にも負けない絶対なる力が必要なんだ。……そして万が一にも私達の元から望六兄さんが逃げようとした時に拘束する術もな」
美優は右手で握り拳を作りながら力強い雰囲気で言い放つが、後半の事に関しては一体何をどうしたら自分が妹達の元から逃げ出すような展開になるのだろうかと望六は首を傾げる。
「確かに必要だね。私も次に望六お兄ちゃんと出会ってまた別れるような事になったら……もう自分を抑えられないかも知れない。だから拘束魔法は私も知りたいな……。ああ、お婆ちゃんに頼まなきゃ」
美優の言葉に同意するように優希も同じような事を口にすると、それを外側で聞いていた望六は背筋に言い表しようのない悪寒のような感覚が駆けていった。
そして二人が引き戸の方へと体を向けて歩いてくると、彼は強張っていた体を無理やり動かして近くの物陰へと身を潜めた。暫くすると修練場から美優達が姿を現して、そのまま優佳の部屋まで歩いていくのかと望六は思っていたのだが、二人は廊下に出た瞬間に足を止めて表情を曇らせた。
「おかしいな。なぜこの場所から居ないはずの望六兄さんの匂いがするんだ?」
美優が先程まで望六が立っていた場所を目を細めながら凝視して呟く。
「もしかして望六お兄ちゃん帰ってきてるのかな? あ、でも連休中は別の所で過ごすってお母様が言っていたし……」
その隣では優希が人差し指を自らの顎に当てながら思案を巡らせているようであった。
しかしそれを物陰の済から覗いている望六は気が気ではなく、妹達が前よりも増して気配に対して敏感になっている事に怯えて足の震えが止まらない。
「ふむ、しかし見たところ望六兄さんの姿は見当たらないな。……だとしたらこれは恐らく、私達の会いたいという欲求が嗅覚に異常をきたした結果なのだろうな」
凛とした涼しい表情で美優が周囲を見渡しながら匂いの正体が幻嗅であることを言う。
「んー……本当にそうかなぁ。案外近くに隠れてたりするかもよ? ほら、望六お兄ちゃんってノリと勢いで生きてる人だし」
優希は表情を緩ませて微笑みながら彼についての生き方を口にしてた。だが望六はそれを聞いて優希が普段から自分の事をそう見ていたのかと少しだけ憂鬱な気分に陥ったが、あながち間違いでもないと自覚した瞬間になぜか深い溜息が出そうになった。
「まあここで話していてもしょうがない。はやくお母様の元へと伺って稽古をつけてもらうように懇願しないとな」
美優が話しを終わらせると優希もそれに頷いて返し、二人は止めていた足を再び動かして優佳の居る部屋へと目指して歩き始めた。
「ふぅ……あ、危ねえ。優希があのまま周囲を探し始めていたら確実に見つかっていただろうな……。はぁ、なんか寿命が幾分か減った気がするぜ」
彼女らが去った事で漸く危機的状況を脱する事が出来た望六は安心したことで体が一気に脱力感に包まれて暫く物陰から出ることが出来ず、彼が柳葉家を無事に脱出したのはそれから数十分が過ぎたあとの出来事であった。
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