14話「幼馴染の家で昼食」
「ぐっ…………はっ!? い、今は何時何分だ!!」
鬼のような形相の月奈によって鉄拳制裁が執行されると、言わずもがな望六は気を失い今の今まで部屋の真ん中で倒れるように転がっていたのだ。
しかも仰向けの状態で倒れていたらしく、背中には鈍い痛みが駆け巡っている。
「くそぉ、月奈のヤツは相変わらず人を殴る事に対して一切の妥協がないな。……まあ、今回はエロ本を隠してそのまま忘れていた俺も悪いんだけどな」
背中を摩りながら彼は自身にも少なからず非がある事を認めるように呟く。
そして目が覚めてから暫くすると自分の胃から鳴り響く音によって、
「あぁ、腹が減ったな。……ってことは今は昼の時間なのか?」
空腹感を抱きつつ望六はポケットからスマホを取り出して時刻を確認した。
すると画面に表示されていたのは十二時を少し過ぎたぐらいの時刻であった。
「ふむ、という事は俺は二時間ぐらい気絶していた訳だな! ……だが妙だな。何で誰も心配して確認しに来てくれないんだ? 普通、二時間も姿を見せなかったら気にかけるだろ」
自分が気絶してた間の時間を大雑把に把握すると、次になぜ誰ひとりとして様子を見に来なかったのかと望六は一樹達に対して疑問を覚えた。だがしかし今はそれよりも空腹がもっとも優先されてしまい、考える為にも胃に何かを入れなければならない状況であった。
「ダメだな。腹が減りすぎて思考が定まらん! ……取り敢えずリビングへと向かうか」
空腹に耐えかねた望六はそのまま部屋を出て行くとリビングへと向かって歩き出す。
恐らく皆も既にそこに集まっているだろうと予想し、一樹に何か適当に作らせようと望六は思ったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「お、やっぱりここに皆集まっていたか」
リビングへと到着すると望六の視界には長椅子で寛ぐシルヴィアと翠嵐の姿や、一樹と共に台所で料理を手伝っている月奈の姿が映り込んだ。そしてナタリアは何やらご機嫌斜めといった様子の表情をしながら、ずっとテレビへと視線を向けていて望六とは顔を合わせようとしなかった。
「あら、やっと来ましたのね。望六さん」
シルヴィアが彼の存在に気がついたのか声を掛けてくる。
「ああ、まあな」
短く返事をして望六は近くに置いてあった椅子に腰を下ろした。
「お、望六やっと起きたのか! もう少しで昼食が出来るからテレビでも見ながら待っていてくれ!」
すると台所の方から一樹が忙しない声色でそう言ってきた。
中学の頃の土日とかは殆ど一樹の家で遊んでいた事から、ああやって昼食を作る姿を何度も見てきたのだが、いざ改めて眺めるとその姿は良い主夫になるのでは望六は思えた。
「お、おう……ゆっくりでいいぞ」
一樹の背に向けて余り急がなくても大丈夫だと望六は言うと、今は月奈も昼食作りを手伝っている事からその光景はさながら新婚の仲良し夫婦にも見えなくはなかった。
そして彼はそんな光景を眺めていると、よくシルヴィアや翠嵐はその光景を見させられても何も言わないのだろうと少し不思議であった。
「くぅぅ~! 一樹の手料理が久々に食べられるぅ! 嬉しい超感激だ!」
「ふふっ。私の屋敷に仕える一流のコック達が作る料理よりも、遥かに美味しいLunchを期待していますの」
どうやら彼が疑問を抱くのは早計だったようで長椅子に座っている二人が口を開くと、翠嵐は小さく拳を握りながら声を震わせて歓喜している様子で、シルヴィアは優雅にコップを注がれたお茶を一口飲むと一樹に何やら圧力を掛けているようだった。
「あー、なるほどね……」
その二人の言動を目の当たりにすると望六は自分が抱いていた疑問が直ぐに解決した。
それはつまり彼女らは一樹の作る昼食に全ての興味を惹かれていて、月奈が手伝っている事に関しては些細な事なのだろうと。
「はぁ……。にしてもナタリアは何でさっきから不機嫌そうなんだ?」
溜息を吐きながら望六は視線をシルヴィア達から外すと、今度はナタリアへと意識を向けて不機嫌な顔をしている理由を探ろうとした。
――だがそれと同時に彼の横からは一樹の声で、昼食の準備が整った事を知らせる言葉が聞こえてきた。その声につられて望六を含めて、この場に居る全員が彼の元へと顔を向ける。
「皆の分を作るとなるとちょっと時間が掛かったけど、なんとか全員分作り上げたぞ!」
一樹はそう言って台所から姿を現すと両手には料理の盛り付けられた皿を手にしていた。
「ふむっ、私の手伝いがあったこそだな」
更に遅れて月奈が姿を現すと何故か得意げに両腕を組んで誇らしげに言葉を口にしていた。
しかも二人はご丁寧にエプロンをちゃんと身に着けているようだ。
一樹は黒色の無地だったが月奈はサメの絵柄の入ったものを使っていてサメ愛が深いようだ。
だがそこで望六は月奈がそこまで料理が得意な方ではない……むしろ苦手の分野だと言う事を思い出すが、ここで下手に水を差すのは悪戯に寿命を減らすだけだと思い押し黙る。
「じゃあ、適当に置いてくから席に座って待っててくれ」
一樹が両手に持っていた皿を机に置いていくとその言葉を残して再び台所の方へと消えて行き、月奈は箸やナイフとフォークを人数分机の上に並べていく。
「ではでは、一樹さんのお手並みを拝見といきますの」
「もうお腹ペコペコだから、量が多めだと嬉しいなぁ」
長椅子の方からシルヴィアや翠嵐の声が聞こえてくると、ゆっくりと二人の足音が近づいて来るのが望六には分かった。
けれどそんな事に気を取られていると突如として彼の背後から、
「ねえ望六。あとで話があるんだけど良いかな? 時間は余り取らせないからさ」
ナタリアが小声で囁くように喋りかけてきたのだ。その声色は怒ってはいるが静かな怒りのような感じがして、呼び出しを食らうということは自分が知らないうちに何かやらかしたのかと望六は足の震えが止まらなかった。
「わ、分かった……」
大人しく従う他に手がなく望六は頷きながら返事をすると、背後からナタリアの威圧感は消えて隣の席へと彼女は腰を落ち着かせていた。彼はひとまず安堵して気を緩めて周囲を見渡すと既にシルヴィアや翠嵐も席へと着いているようだった。
――それから一樹が流れるような手捌きで料理の盛り付けられた皿を机に並べていくと、あっという間に昼食の準備が整えられた。
月奈もお茶を全員分コップに注いでいくと空いている席へと腰を落として、最後に一樹が机に並べられた料理を確認するように視線を向けると、満足したように頷いて身に付けていたエプロンを脱いで席へと腰を落ち着かせた。
「それじゃぁ、冷めないうちに頂いてくれっ!」
一樹が爽やか笑顔を全員に向けて言うと、
「「「「「頂きます!」」」」」
望六達は手を合わせて恒例の言葉を口にして料理へと手をつけ始めるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「「「「ご馳走様でした!」」」」
「「お粗末様でした」」
望六達が料理を食べ終えて月奈と一樹に顔を向けながら満足気に言うと、二人も何処か満足したような表情を見せながら言葉を返した。
昼食を食べている間は今後の事を交えながら話をしていて、気が付くと多めにあった料理はあっという間に無くなり、望六は胃がしっかりと満たされて幸福であった。
それから一樹が席から立ち上がると食器を重ねて片付け始めて、望六もそれを手伝うべく周りの食器を集め出した。
無論だがシルヴィアや翠嵐やナタリアはお客様扱いなので、そんな雑用的な事はさせられない。
望六や月奈の場合は一樹との付き合いが長いことから進んで自ら行っているのだ。
「一樹さんの料理……実に素晴らしかったですの。是非うちの屋敷でもその腕を振るって欲しいですわ」
「ほんっとうに最高だったな! これなら毎日食べても飽きない!」
望六が空になった食器やコップを纏めていると、横からはシルヴィアと翠嵐が一樹の手料理に対して最大級の評価を言い合っているようだった。
そして褒められた一樹は照れくさそうに口元を緩ませながら頬を人差し指で掻いていた。
「私も手伝った事を忘れるなよ。二人とも」
一樹を褒めるような言葉の数々が聴こえてくると月奈は自分を忘れて貰っては困ると言った感じで口を開く。
「ちなみに月奈はどの辺りを手伝ったんだい?」
ナタリアは何か思ったのか不敵な笑みを浮かべつつ探りを入れている様子である。
「むっ……そ、それはその……あれだ。タコさんウインナーだっ!」
予想外の質問だったのか月奈は目を泳がせながら言葉を詰まらせていたが少しの間を溜めると、席を立ち上がってそう自信気に言っていた。
「ああっ! あの可愛いらしいのは月奈が作ったんだ! 凄いね、今度僕にも作り方を教えてよ」
ナタリアは小さく両手を合わせると彼女に作り方を教わろうと頼み込んでいるようで、先程の自分に対しての態度とは一転しているような感じがして見ていて不安を抱く望六であった。
「も、もちろんだ! あれは私の自慢料理の一つだからな」
彼女に褒められた事が嬉しかったのか月奈は胸を張って言うと、望六はあの料理に添えられていたウインナーはタコ型だったのかと少々驚いた。なんせあれはタコ型と言われなければ、完全に未確認生物のエイリアンのような見た目だったからだ。
だが望六が周りを見渡せど誰もウインナーの形に関して口を開く者はおらず、その事に関しては誰も触れる事が出来ないのだろうと静かに心の内に留めると、彼は食器を両手に抱えながら台所へと向かうのであった。
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