13話「少年の置き土産は幼馴染を怒らせる」
一樹に案内されて宮園家への中へと足を踏み入れると望六は中学生の頃に何度か遊びに来ていた事もあり慣れているが、初見のシルヴィアや翠嵐達は部屋の中をじっくりと観察するように見渡していた。
「そんなじっくり見られると恥ずかしいな……。シルヴィアの家に比べたら犬小屋みたいなもんだろ?」
部屋を見渡している女子達の様子を見て一樹が人差し指で頬を掻きながら言葉を口にする。
「いえいえ、いくら私が貴族と言えどそんな事はありませんの」
声を掛けられたシルヴィアは微笑みながら落ち着いた雰囲気を出して返事をしていた。
「こ、これでも充分に大きいと思うのにシルヴィアの家はこれ以上に大きいの?」
するとその話を横で聞いていたのか翠嵐が震える声でそう尋ねてくる。
「ああ、シルヴィアの家はまるで漫画やアニメに出てくるような屋敷をまんま具現化したような感じだな」
一樹が頷きながら口を開くとそれは望六としては想像しやすいものであった。
つまり望六的にシルヴィアの屋敷は部屋が幾つもあって、お風呂には大理石を使っていて一人で屋敷内を歩くと迷子になって遭難する規模であることを。そしてお嬢様の彼女が帰宅すれば、一斉にメイドや執事が一例に並んで出迎える光景が容易に想像出来た。
「ほほっ、それは言い過ぎですの一樹さん。それと機会があれば是非皆さんを私の家に招待するつもりですから、その時に確認して貰えると嬉しいですの」
シルヴィアは気分が良さそうに軽やかな笑みを見せて口元を緩ませると、そのまま視線を全員へと向けていた。
そして望六は彼女の言葉を聞いて連想的にメリッサの事を頭に思い浮かべると、たまに電話して連絡を取り合っているが何時かは彼女に会いにイギリスへと行ってみたいと思えた。
「そ、それは楽しみだな……あははっ」
一樹が言っていた事を真面目に捉えて屋敷の規模を自分なりに想像していたのだろうか、翠嵐は若干引き攣ったような表情を見せていた。
――それからリビングで少しだけ雑談を交えると、一樹はシルヴィア達を空いている部屋へと案内するべく二階へと上がっていった。
「さてっと、一樹が翠嵐達に部屋の案内をしている間に俺達も空いている部屋へと向かうか」
階段を上がっていく一樹達を見送りながら望六はそんな事を呟く。
「そうだね。でもここは一樹の家なのに、望六は随分と自分の家のように自由だね?」
ナタリアは彼の言動を先程から観察していたのか視線を合わせながら小さく首を傾げていた。
「まあな。俺が一樹と知り合ってからこの家には長くお世話になっているからな。……それはもう本当に色々と」
望六は彼女の言葉に懐かしき中学の頃を思い出すと、それは妹達を怒らせて監禁されそうになった時に避難所として宮園家に逃げ込んだり、とてもじゃないが柳葉家には置いておけないエロ本を手に入れてこっそりこの家に持ち込んで隠したりと多岐に渡る出来事があるのだ。
無論だがこの全ては事前に一樹に許可を得て行っている事であり、勝手にやっている訳ではないのだ。ちゃんと親しき仲にも礼儀ありである。だがエロ本に関しては一樹が定期的に処分しているか、たまに遊びに来たついでに確認すると綺麗に無くなっていたりするのだ。
「へぇ……そうなんだ」
彼の言葉に何か思う事があるのかナタリアは目を細めながら睨んでくる。
「な、なんだよ。その疑いの眼差しは……」
まるで疑惑を込めたような瞳を向けられて望六は一瞬戸惑う。
「別にぃ? それよりも部屋を案内しておくれよ」
彼女は急に素っ気ない感じで返事をしてきた。
一体ナタリアは何を考えているのだろうかと彼は思い悩むが、
「あ、ああ。分かった」
取り敢えず部屋へと案内するべく歩き出すのだった。
しかし二人が歩き出して直ぐに二階から月奈の悲鳴のような声が響き渡り、家の中で反響すると思わず望六達は足をその場に止めた。
「えっ!? い、今のは月奈の声……だよね?」
突然の悲鳴にナタリアが肩を跳ねさせて反応すると二階へと通ずる階段へと顔を向ける。
「そ、そうだな。一体何があったんだ? ……いや待て。あの悲鳴は前にも聞いたことがあるぞ。あれは確か……学校の掃除の時間に突如として姿を現した”黒光りするヤツ”が月奈の顔に向かって飛んでいった時に聞いた同じ叫び声だっ!」
彼女と同じく望六も階段の方へ顔を向けて何の叫び声かと思案すると、その声には聞き覚えがあって自身の記憶の深層を探ると、それは月奈が中学の頃に一度だけ出した事のある悲鳴だと思い出した。
「って事は月奈はごき「しっ! 皆までその名を口にするな」う、うん……」
ナタリアが例の黒光りした虫の名を声に出して言うとすると、即座に望六は左手を使って彼女の口を塞ぎつつ注意した。
実は望六もゴキブリは苦手の昆虫であり、名前を聞くだけでも体中に悪寒が走るほどなのだ。
「まあだが、ヤツが出るのも無理はないだろう。なんせこの家の唯一の住人でさえ、今は寮生活で掃除なんて真面に出来ていないのだからな」
彼女の口を塞いでいた手を下げると望六は自分なりに例のアレが現れた経緯を説明するが、何故か言っていて冷汗が頬を伝っていくむず痒さが鮮明に分かった。
いや……冷汗の理由は明確に分かっているのだ。何故ならその説明ではこれから自分達が向か部屋にも、少なからず現れる可能性があると望六は話をしていて気づいたからだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから望六とナタリアは二人で一階の空いている部屋へと向かうと、そこは寮部屋と比較すると小さい部屋だが一人で使うには充分の広さである。
「んじゃ、ここはナタリアが使ってくれ。俺は隣の部屋を使うから何かあったら壁ドンか直接尋ねてくれ」
「うんっ! 分かったよ!」
ナタリアが周囲を見渡したあと顔を彼へと向けて元気よく返事をすると、望六は自分の使う部屋へと向かうべくその場を後にした。
……がしかしナタリアを部屋に置いて廊下に出たあと、望六は電流が体に駆け巡るが如く驚愕の事実を思い出した。
それは月奈が先程、悲鳴を上げた事に大いに関わっているのだ。
「待てよ……。たしか二階には俺が中学三年の夏休みの頃に、ひっそりと隠してたおいたSM物のエロ本が数冊ほどあった筈だ。しかも隠し場所は安直にもタンスの中だ。つまり月奈は自分が持ってきた衣類をタンスに入れようとして…………」
望六はそれらの可能性を独り言のように呟きながら足を進めて自分が使う部屋へと到着すると、この後の展開が手に取るように分かった。
「と、取り敢えず有無を言わさずに最初の犠牲者は一樹になるな……。そして一樹が誤解を解くと次の矛先は――」
部屋へと入って扉を閉めると彼は徐々に自分の手足の先が小刻みに震えていくのが実感出来た。
そして一樹に対しての制裁が終わったあと月奈は間違いなく自分の元へと来て、鉄よりも重たいその拳を顔か腹に目掛けてめり込ませてくる事も予想出来た。
「クソッ……。やっと久々の学園外だと言うのに、初日をベッドの上で過ごすのはごめんだぞ!」
彼は持っていた荷物を乱暴にベッドの上へと放り投げると、どうやって月奈の怒りを穏便に沈ませるか考え始める。だが時とは残酷なものらしく、唐突にも二階からは一樹の汚い悲鳴が聞こえてきた。
「……すまん一樹、安からに眠れ」
恐らく一樹の悲鳴は月奈による制裁が執行された事を意味しているのだろうと、望六は手で十字を切りながら彼の身を案じた。しかし悲鳴のあとは特に言い争うような声も聞こえてこないことから、一樹は一撃で気を失ったのだろうと望六は推測した。
「だがこれは困ったな。録に言い訳も何も思い浮かばないうちに一樹がヤラれるとは……。このままでは事情を尋ねきた月奈に俺までもが――」
言い訳を考えようとした矢先に一樹の悲鳴が宮園家に木霊した影響で、望六は頭の中が真っ白になると直ぐに何か信憑性の高い言い訳はないかと脳を嘗てないほどに動かし始める。
――――だがしかし、それは遅かったのだろう。
彼が脳を動かしたとほぼ同時に背後からはゆっくりと扉の開く鈍い音が聞こえてきたのだ。
「ま、まさか……」
扉の開く音に惹きつけられて望六は恐る恐る振り返る。
するとやはりと言うべきだろうか彼の背後には、
「おい望六、少しばかし聞きたい事があるのだが今大丈夫だよな? 仮に無理だと言っても私は一切聞く耳を持たんがな」
顔を鬼のように険しくさせて今にも額から角が生えてきそうなほどの貫禄を放っている月奈が仁王立ちしていたのだ。
しかも彼女の右手には望六が隠していた例の物が、しっかりと握り締められている様子だ。
「……ふっ、俺の命もここまでか」
そしてこの瞬間、望六は悟った。
これはもうどう言い訳を述べた所で、言い逃れ出来る余地はないと。座して死を待つのみだと。
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