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10話「彼女の傷の真実とは」

ナタリアの不自然な傷跡を見て望六が思案を巡らせながら、しっかりと月奈も食堂へと誘うと彼女は何故か不機嫌そうに口元を尖らせていた。


 恐らく月奈からしたら一樹に誘って貰いたかったのだろうと望六は予想すると同時に、肝心の一樹が今現在どうなっているかの説明を行った。


「――とまあ、こんな事になってるから先に食堂に行ってもらっても構わないぞ?」


 呆れた口調で状況の説明を終えると望六はナタリアを待たないといけない事から、月奈だけでも先に向かわようと考えた。そうすれば幾分か一樹は救われる事になるだろうと。


「なるほど。それで一樹じゃなくて、お前が呼びに来たという訳か。……分かった。なら私は先に向かわせて貰う」


 説明を聞いて月奈は頷くと彼の提案に乗ることにしたようだった。


「すまないな。状況が変に悪化しないように抑えといてくれ。頼む!」


 すぐさま望六は返事をしながら両手のひらを合わせて頼み込む。


「ああ、任せておけ」


 すると彼女は鼻で笑って返してきた。そして月奈は食堂へと向かって歩き出すと何故か左手で拳を作って、まるで気合を入れるかのように右手のひらに何度も押し当てる仕草を行っていた。


「……月奈を先に行かせたのは早計だったのかも知れないな」


 そんな彼女の後ろ姿を見て自分はもしかしたら、やらかしてしまったのかと望六は一瞬で不安に陥った。だが今更声を掛けて待ってくれというのも反感を買いそうで彼にはどうすることも出来なかった。取り敢えずとして望六は一樹の身の安否を案じておく事にした。


 ――それから五分ほどが経過したぐらいで、漸くナタリアが部屋から出て姿を現した。

 たかが食堂へと向かうだけで何故にこんなにも時間が掛かるのだろうと望六は思い悩んだが、女子には色々とあるのだろうと勝手に納得して済ませた。


「遅れてごめんね。ちょっと財布を探すのに時間が掛かっちゃって……」


 どうやらナタリアが遅かった理由は荷造りの際に財布を紛失したらく、それを探していて時間を取られていたらしい。


「別に気にする必要はないぞ。んじゃ、俺達も食堂へと向かうか」


 望六は気にしてない振りを装って返事をすると一瞬だけ視線を彼女の腕や足に向ける。

 何故なら青痣があった箇所には包帯がしっかりと巻かれていたからだ。


 そこで望六は多分だがナタリアは痣の痕を隠す為に包帯を巻いていて時間が掛かったのだろうと推測した。よく見れば腕の痣だけではなく足にも包帯が巻かれている事から、そこにも痣が出来ていたのだろう。


「うんっ、早く行こうよ! 僕もうお腹ペコペコだよ~!」


 包帯や絆創膏を体中に付けながらもナタリアは屈託のない笑顔を見せて腕を引いてくると、望六は空元気のような状態の彼女に腕を引かれるがままに食堂へと向かうのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 ナタリアと共に食堂へと着いて望六は一樹達が座っている席へと向かうと、そこには既に不機嫌とは程遠い穏やかな雰囲気が流れていた。

 翠嵐もシルヴィアも月奈も皆一様に口元が笑っているのだ。


 そこで事前に聞いていた情報とは一体何だったのかと望六はナタリアと共に席に座りながら理由を一樹達に訪ねてみれば、翠嵐が照れくさそうに部屋割りという言葉を口にしたのだった。


「なるほどな。つまりお前達が不機嫌だったのは”部屋割り”が理由だったと言う事か」


 シルヴィアと翠嵐が不機嫌だった理由が一樹の家で滞在する時の部屋の場所だと分かると、望六は全身の力が抜けていくのが実感出来た。

 しかも彼女らの話を聞くに誰が一樹の部屋の隣を使うかが事の発端らしい。


「はぁ……。お前はそんな下らない事で俺に助けを求めてきたのかよ……」


 望六は隣に座っている一樹に小声で話し掛ける。


「し、しかたないだろ。さっきまでは本当に怖くて怖くて仕方なかったんだよ」


 彼も小声で返してきて見れば顔には汗のような雫が所々に滲んでいた。


 しかし望六としては彼女らの不機嫌の要因はまったく別の事だ思っていたのだ。

 それは一樹ラブ勢のだけの泊まり会に自分とナタリアが参加する事で、邪魔だと思われているのが原因かも知れないと。


 だがよくよく思い返せば七瀬は彼女らに対して”望六”も参加させる事を条件にしていた事から、その線は最初から無かったと言えるだろう。


「な、なぁ! さっきからずっと気になってる事があるんだけど……少し良い?」


 一樹とのやり取り終えて望六は頬杖をつきながら一息すると、何かを躊躇するような様子で翠嵐が訊ねてきた。


「あ、ああどうぞ?」


 望六は彼女が珍しく見せる雰囲気に違和感を覚えながらも返事をすると、翠嵐は首を横に振ってナタリアの方へと視線を向けた。そこで望六は翠嵐が自分へ問いかけているのではなく、彼女に対して訊ねていた事を知り顔が熱くなる思いであった。


「んっ? どうしたんだい?」


 翠嵐から視線を向けられたナタリアは首を傾げて聞き返している。


「あ、アタシずっとナタリアの……その絆創膏や包帯が気になってしょうがないんだ!!」


 彼女が目を閉じながら言葉に余韻を持たせて聞いた事は、さきほど望六も気になって質問していた事であった。確かに初見でナタリアの姿を見たのなら、その怪我はどうしたんだと聞くのが普通の流れであるだろうと望六は静かに頷く。


「あー、やっぱり気になる……よね?」


 この場に居る全員に顔を向けて歯切れが悪そうにナタリアは呟くと、望六を除いて全員がほぼ同時に大きく頷いた。


「……えっとね? 望六にも同じ説明をしたけど、この絆創膏や包帯は荷造りをしている時に色々とあった結果なんだ。だから本当に気にしなくて大丈夫だよ!」


 全員の反応を見てナタリアは観念したのか重たそうな口を開くと、それは望六が聞いた時と全く同じ説明であった。そして短くも説明を終えると彼女は両手を左右に振って、体は大丈夫だと言う事をさり気なく主張しているようだった。


「……ちょっと待ってくれ。おい望六? お前はあんな単純な嘘を信じたのか?」


 しかしそこで話が終わる事はなく、何か違和感を悟ったのか月奈が威圧的な雰囲気を出しながら声を掛けてきた。


「ああ、まあな」


 だが望六とて馬鹿ではない。ナタリアの言っている事を本当に信じているのではなく、敢えて嘘の乗っている状態なのだ。それには色々と理由があるのだが一番は彼女が頑なに話そうとしないからで、深く追求しても躱される事が分かりきっているからだ。


「はぁ……お前はもう少し賢いヤツだと思っていたのだが、どうやら私の勘違いのようだな」


 彼の返事に月奈は肩を竦めて呆れたような表情を見せてくると、望六の隣に座っている一樹は彼女の言葉を聞いて目を泳がせていた。

 その反応を見るに恐らく一樹はナタリアの嘘を信じていたように伺える。


「えっえっ、信じてくれないの……?」


 二人の話しが終わった所を見計らってナタリアが慌てた様子で皆に顔を向けていた。


「まったく……。そんな見え見えな嘘がアタシ達に通じる訳がないでしょ。さあ、何を隠してるか分かんないけど早く真実を教えなよ」


 翠嵐が溜息を吐きながら彼女の話していた事を嘘だと断定する。


「う、うーん……」


 影を宿すよう徐々にナタリアの顔は曇りだしていく。

 

「もしかして()()()さんとやらに、やられましたの?」


 今まで場の状況を見守っていたであろうシルヴィアが口を開くと、それは彼女らに宣戦布告していたエルゼが怪しいというものであった。

 しかしその可能性は限りなく低いだろうと彼女の言葉を聞いて望六は思う。


 仮にその話が事実だったとしたら、最初に傷の事を聞いた時に逸早く言ってくる筈だからだ。

 何故なら皆にはエルゼに襲われたら直ぐに知らせるように約束しているのだ。

 ……けれどもし弱みを握られていて話せない状況なら、それ限りではないかもしれないが。


「ち、違うよ! こ、これは……その……あぁもぅ!! 実は階段を下りようとして足を滑らせてこうなっちゃたんだ!! 本当に恥ずかしいから言いたくなかったのに……」


 シルヴィアの言葉にナタリアは首を横に振って否定すると、急に体をもじもじとさせて揺れ始めて何かを決心したような表情を見せるとドジっ娘属性のような事を言い出した。

 だがその発言は彼女にとって相当恥ずかしいようで、顔は真っ赤に染め上がっている。

 

「あら、ナタリアさんは意外とおっちょこちょいですのね」


 シルヴィアは冷静に微笑みながらナタリアの事を弄る。


「か、階段から落ちたって……ぐふっ」


 その隣では両肩を震わせて翠嵐が笑いを堪えているようだった。


「そ、そうだったのか……。ならば次からは気をつけるのだぞ!」


 月奈は純粋に彼女の注意力散漫ぶりを心配を心配している様子。


「うーん、ちゃんと保健室に行った方が良いんじゃないのか?」


 望六の横からは一樹が目を細めて保健室へと行くことを進めていた。どうやら口振りから察するに四人は、ナタリアが本当に階段から落ちたことを信じているようである。


 ――だがしかし、望六にはそれも嘘だと直感的にだが分かった。なんせ食堂へと誘う時に彼女の暗い表情と瞳を見てしまい、その雰囲気からはただならぬ闇が垣間見えたからである。

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