8話「呼び出しを食らう先生と荷造り」
七瀬との話し合いが終わって駆け足で教室へと戻った望六達は急いで礼装から制服へと着替えると、なんとか女子達が戻ってくる寸前で間に合う事が出来た。そして今現在は帰りのHRが始まったばかりで、教卓の前には木本先生が気だるい感じで立っている。
「あー、全員知っているとは思うが今日はゴールデンウィークの関係上授業が短縮となっている。このHRが終わり次第、お前達は速やかに寮部屋と戻って荷造りを済ませろ。……そのあとは自由時間として好きに過ごせ。以上だ」
右手に持っているタブレットをひらひらと振りながらこの後のやるべき事を木本先生が話すと、各自が寮部屋へと戻って帰省する為に荷造りをしろとのことであった。
しかもそれが終われば自由時間とのことだ。
望六はその自由時間中に溜まっているアニメを消化できるのではないかと思案を巡らせ始めると、
「すまない。最後に私から小言を一つ言わせて貰おう」
木本先生が喋り終えたのを見計らってか七瀬が静かに声を上げた。
「ど、どうぞ?」
その突然な出来事に木本先生は困惑している様子だが、七瀬は彼女と場所を入れ替わるようにして教卓の前へと立った。
「小言と言っても別にお前達を叱る訳ではないから心配するな。……だが今から言う事をしっかりと聞かなければ怒るかも知れんがな」
七瀬が両腕を組みながら場を制するように威圧的な視線を全員に向けると、思わず望六は背筋を伸ばして姿勢を正した。それは彼女の言葉が少なからず重たいものである事を彼は瞬時に感じ取り、これは真面目に聞かなければならない事だとアニメの事は一旦頭から除外した。
「……まあ、あれだな。全員知っていて当然だが魔術士候補生が学園外で魔法を使う事は一部の例外を除いて原則禁止されている。それは一般市民の方々に恐怖を抱かせない為であり、同時にお前達のような未熟者が魔法を使って悪さをさせない為である。これはちゃんと”未成年魔法条例”の一つとして記されている事だからな」
七瀬が話しながら背後の電子黒板に視線を向けると、そこには未成年魔法条例という文字と共に彼女が話していた事と同じ内容が表示された。
しかしそれだけではなく、下の方に望六が視線を向けると過去に問題を起こして捕まった学生達の名前と顔写真が晒し出されている事に気がついた。
恐らく魔術士候補生という理由で名前や顔が公開されているのだろう。
仮にこれが一般市民であれば【学生、十七歳】と言った感じでぼかされている筈だ。
その辺りを見るにやはり日本では少なからず魔術士と言った者達を軽蔑する意識があるようだと、望六は晒し出されている顔写真の数々を見て思う。
「いいな? お前達もここに名前と顔を晒したくなければ規則は絶対に守れ」
暫くして全員が電子黒板に表示された情報に目を通した辺りで七瀬が真面目な声色で告げる。
「「「「はいっ!!」」」」
すると望六を含めてその場に居る全員がきっちりと返事をした。
「うむ、よろしい。あとは特にないが……木本先生。あとで私の元へと来るように」
七瀬は全員の返事を聞いて満足したのか両腕を組むのを辞めると、そのまま隣に立っている木本先生へと声を掛けた。
「えっな、なんですか!? 私は何もしてませんよ!?」
すると当の本人でもある木本先生は目を大きく見開き、あからさまに慌てた様子であった。
「いいから来いと言っている。何度も言わせるな」
七瀬は彼女の言葉に聞き耳を持たないのか一切の有無を言わさずに両断する。
「は、はい……分かりました……」
木本先生は諦めたのか頭を下げつつ弱々しい声で言葉を返していた。多分だが学生時代に色々とあったことから、下手に抵抗するのは悪手だと考えたのだろうと望六は見ていて察した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから七瀬が木本先生を名指しで呼び出したあとHRは終わりを迎え、各自が寮部屋へと向かうべく軽い足取りで教室から続々と出て行った。その中には一樹と月奈も含まれている。
そんな光景を眺めながら望六はナタリアと少し話をしてから寮部屋へと向かおうとすると不意に視線を背中に感じて、振り返るとそこにはエルゼが冷たい氷のような顔をして静かに睨んでいた。
それはまるで何か物言いたげな様子にも伺える。
だが彼女が珍しく最後まで教室に残っている姿を見て望六は言いようのない不安にも似た感情を抱いたが、今は荷造りと溜まっているアニメの消化を優先させるべく視線外すと教室を後にした。
――そして望六が自分の寮部屋へと着いて中に入ると、
「うわッ、なんだよ……。この大量の服と日用品の数々は……」
まず最初に広がってきた光景は床やベッドに多くの物が置かれている場面であった。
「あっ、すまん! ちょっと荷造りで手間取っててな。一体何をどう纏めればいいのやら……」
望六のそんな声で部屋に戻ってきた事に気がついたのか、一樹が難しい表情を浮かべながらどれを持っていくべきかと荷物選びで悩んでいる様子だった。しかしそれは望六からしたら心底どうでもいい事で、荷物なんてスマホの充電器と着替えぐらいがあれば何とかなると思っているのだ。
「そ、そうか。まあ存分に悩んでくれ。どうせこのあとは自由時間だしな。……っと俺も荷造りしないと」
一樹に向けて荷造りの続きをするように言うと、望六はこの学園に来る時に使っていたキャリーケースを引っ張りだして床に広げた。あとは持っていく荷物を選ぶだけであり、取り敢えずスマホの充電器と滞在中に使う衣服一式を入れ込む。
「あとは……そうだな。あれを運良く回収出来た時の為に、収納する部分が必要だから余裕を持たせたないとな」
望六はブツブツと独り言を吐きながらも荷物を纏め終えると、そのままベッドへと腰を落ち着かせた。そして未だに荷造りで頭を悩ませている一樹を眺めていると以前食堂にて翠嵐が彼を恍惚とした表情で見ていたのを思い出し、彼女と何かあったのかと望六は気になり質問をする事にした。
「なあ、一樹。突然ですまないが翠嵐と何かあったか?」
「いや、別にこれと言った事はないが……急にどうしたんだ?」
突拍子もない質問に一樹は顔を望六へと向けると目を丸くさせて答えていた。
どうやら、急な質問に対して彼は困惑している様子だ。
「いや、その、なんと言うか……まあ、何でもないならそれで良いんだ。悪い、変な事聞いちゃって」
望六は視線を泳がせながら両手を合わせて軽く謝る。
「なんだよ? 変な望六だな。まっ、それなら深くは聞かないけど」
一樹は首を傾げて益々困惑を極めているようだったが話を終えると再び荷造りへと意識を集中させているようだった。
そんな彼を余所に望六はベッドへと上がると横になって、スマホで某有料動画サイトを開いてアニメ干渉へと洒落込んだ。そのままアニメを見て過ごしていくと二、三本見た辺りで漸く一樹が荷造りを終えたのか額に滲んだ汗を手の甲で拭っていた。
「よーっし! なんとか荷物は完成したな! あとは……特にやることはないけど、姉貴が言っていた事をシルヴィア達にも早めに伝えといた方が良いよな」
一通りやることを終えた一樹が手を自身の顎に当てながら独り言らしき言葉を放つ。
「そりゃあ、そうだろうな」
望六はスマホから視線を外して声を掛けた。別に一樹は自分に対して話し掛けている訳ではないだろうが、彼は見ていたアニメが一段落着いた事もあり反応したのだ。
「んじゃ、ちょっとシルヴィアと翠嵐に事情を伝えに行ってくるぜっ!」
一樹がスマホをポケットから取り出して何処かに連絡するような素振りを見せた後その言葉を残して部屋を出て行き、望六は一人きりになると再びスマホへと視線を向けてアニメ鑑賞を再開させた。
「まーた面倒な事が起こらなければいいがな」
そう呟く望六は一樹が下手な事を言って話を二転三転させないかと少しだけ心配であった。
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