7話「少年少女に課せられた条件とは」
七瀬が望六に対して自身の家を使って良いと言うと、彼としてはその提案は嬉しかったが一樹はどう思っているのか気になる所であった。
そこで望六は感謝の意を伝える為に下げていた頭を上げて一樹の様子を伺う事にした。
「ふっ、丁度良かったな一樹。望六が一緒ならば先程の件は承諾してやっても良いぞ」
すると七瀬が口角を上げて微かに笑みを見せてくると、一樹に向けて何か意味深のような言葉を放っていた。
「ほ、本当か姉貴!? よっしゃあぁぁ!!」
そしてそれを聞いた一樹は目を丸くさせながらも両手を上げて喜んでいる様子だ。
一体何がなにやらと望六は二人を見ていて軽く混乱してくると、
「おっとすまないな。お前にもちゃんと説明しておこう。実はさっきシルヴィアと翠嵐に引きづられて愚弟が職員室へと来たのだ。理由を聞いてみれば二人はコイツをホテル滞在にしろと巫山戯た事を抜かしてきた。まあさっきのお前みたいにな」
七瀬が腰に手を当てながら事情を話し始めると最後の方は溜息混じりであった。
「は、はぁ……。それで俺が”宮園家に泊まる”事と”一樹が喜ぶ”のにどんな関係が?」
だがその話を聞いたとしても一向に内容が掴める訳もなく望六は混乱状態が続いた。
そして彼は単純に二つの事について知りたいだけで話の核心を訪ねようとしたが、すかさず七瀬が右手を突き出して有無を言わさずに止めてきた。
「焦るな望六、話はまだ終わっていない。そこで私は当然ホテル滞在を許可する事は出来ないと彼女らに告げると、何を思ったのか一樹が住んでいる家に付いて行くと言い出したのだ。つまり私の家にだ。……まあ、それを聞いて一教師として許せる訳がないと適当にあしらったのだが思いのほか諦めが悪くてな。そこで私は望六も泊まるならば許可してやると言ったのだ」
彼の言葉を止めて七瀬は話がまだ続いていると言うと、突き出した右手を下ろしてから再び事情説明を行った。だが話をしている時に彼女は肩を竦めたり眉間を押さえたりと仕草が多かった事から面倒事だったのは何となくだが望六にも理解出来た。
――しかしその話を最後まで黙って聞くと望六は震える両手を広げて、
「えっ……。えぇぇぇっ!? な、何で俺を巻き込むんですか!?」
という驚きの声となぜ自分を巻き込んだのかと言う至って普通の疑問であった。
「まあ成り行きだな。別に深い意味はないぞ。そして、私も何故この馬鹿がこんなにも喜んでいるのかは分からない。魔法の使いすぎで気でも狂ったか?」
七瀬は望六の反応を見ても顔色一つ変えずに淡々とした声色で言い切りると、次に一樹へと視線を向けて辛辣な言葉を掛けていた。しかし彼女は深い意味はないと言っていたが望六としてはそれは絶対に嘘だろうと思えてならなかった。
でなければ関係のない自分の名前を安易に出すこと何てしないだろうと。
そこで彼は一体七瀬は何を考えているのだろうかと思案を巡らし始めた。
「ひ、ひどいな姉……宮園先生」
だが横から聞こえてきた一樹の声でそれは中断させられた。
どうやら実の姉からの言葉が心に刺さったのか、一樹は喜びの表情から一変して口を半開きにして気落ちしている様子だ。
「知るか馬鹿者。でだ、お前達二人も横に居ると言う事は私の家で滞在したいんだな?」
七瀬は一樹から視線を外すと、そのままナタリアと月奈を交互に見ながら声を掛けていた。
二人は突然声を掛けられた事に驚いたのか少し肩を跳ねさせて反応している。
「あっ……は、はい! と言うよりも望六となら僕は何処でも大丈夫です!」
ナタリアがハッとした表情から正気に戻ると、七瀬に向けて望六と一緒の滞在場所にして欲しいと握り拳を作りながら胸元あたりで小さく見せていた。
「い、いいんですか……?」
そして同時に月奈も弱々しい声と表情を向けて聞き返していた。
「色々と面倒ではあるが仕方あるまい。私とてコイツらが信用している者達を疑うつもりはないからな。しかし当然だが条件が幾つかある。よく聞け」
七瀬は渋々と言った感じで滞在を許可すると表情を引き締めて二人に”条件”があると強めの口調で言い放つ。
「「は、はいっ……!!」」
彼女の真剣な顔付きと強めの口調によって、二人は萎縮していた様子だが何とか返事をする。
「ではまず一つ目だが、これはナタリアや月奈や他の魔術留学生においても重要な事だ。後でシルヴィア達にも伝えておけ。では単刀直入に言うぞ、お前達は変装をしろ。出来れば自分が絶対に着ないであろう服や、普段しない髪型でな。最初に言ったと思うが私の家の周りには政府の者が、ある程度の距離から見張っている筈だからだ。ゆえにその者達に、お前達留学生の存在を気づかれると何かと面倒だからな。念の為の処置と言う訳だ」
七瀬が人差し指を立たせながら彼女らに提示した条件とは”変装”であった。
それは普段から”着ない服”や”滅多にしない髪型”を敢えてする事で多少なりとも違う人物を装って、身元をぼかすことで安全面を向上させる狙いがあるのだろうと望六は聞いて思った。
「変装ですか……わ、分かりました! 頑張って違う自分になってみせますっ!」
ナタリアは変装と聞いて少し戸惑っているようだったが、直ぐに自信気な表情に切り替えて返事をしていた。
「わ、私も頑張ってみます……!」
その隣では月奈も同様に戸惑っていたようだが、ナタリアを見て覚悟を決めたのか力強い視線を七瀬に向けていた。
「うむ、よろしい。あとは私の家に大人数の者が入る事を政府に怪しまれないように理由を考えないといけないが……。まあ、いざとなれば亜理紗に情報そのものを消させるか」
二人の返事を聞いて七瀬は微笑みながら頷くと独り言のように何かを言い出して、その言葉の中には不穏なものが混ざっていたが気がするが望六は何も聞いていない振りをする事にした。
現にこの場にいる一樹達が何も言わない事から、彼と同様に面倒事は避けているのだろう。
「そ、それで次の条件は何ですか……?」
独り言をブツブツと放っている七瀬に月奈は恐る恐る声を掛ける。
「ああ、すまない。二つ目の条件は愚弟達も関係している事だから、しっかりと覚えておけ。いいな? 一度家に足を踏み入れたら滞在中は一歩も家から出るな。緊急時を除いて例外は認められない。そして緊急時だとしてもしっかりと変装はしておけ。分かったな?」
声を掛けられて七瀬は独り言を止めると、左手を腰に添えて右手の人差し指と中指を立たせて二つ目を主張してきた。
そして全ての話を聴き終えるとそれはまるで一度入ったら出られない監獄のようだが、どのみち柳葉家に帰ったとしても外には出られなかっただろうと考えると望六は案外すんなりと割り切る事が出来た。
「「「「はい! 分かりました!」」」」
各々がそれらの条件を承諾して覇気の篭った声で返すと、七瀬は表情をいつもの無愛想なものへと変えて直ぐに教室へと戻るように望六達に言い放った。
このあとはもう帰り支度を始めて寮に戻らないといけなく今日は短めの授業だったのだ。
さらに三時間目を終えて七瀬と話していた事もあり、急いで教室へと戻らないと望六と一樹は着替えを終えて戻ってきた女子生徒達にあられもない所を見られしまうのだ。
望六はその可能性に少なからず気が付くと、
「や、やばい!! 急いで着替えないと教室に皆が……っ」
その場で声を荒げて自らが置かれている状況を再確認した。
「ぬあっ……そうだ!! 今日はもうこのあとHRだけじゃないか!? い、急いで着替えるぞ望六!」
彼の危機迫る言動で一樹も思い出したのか頭を左右に振って慌てながらも、望六の腕を掴むとそのまま駆け足で校舎へと戻っていくのであった。だがその際に望六は背後から七瀬の声で「ふむ、やはり友情というのは素晴らしいな」と言う怪しい言葉が聞こえてきたのを聞き逃さなかった。
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