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5話「警戒と予兆」

 廊下でエルゼに問い詰められて色々と起こったあと二人が教室へと戻ると案の定授業開始ぎりぎりの時間であり、ナタリア達からは疑惑の色を秘めた視線を浴びて望六は席へと戻った。恐らくエルゼと共に戻ってきた事やトイレに行くだけで時間が掛かっている事を不審に思われているのだろう。


「んふっ、あとで色々と聞いていいかな? なんであの女と一緒に戻って来たのかとかさ……」


 望六の隣の席から暗い声色でそう聞こえてくると、やはり彼女は色々と疑っているようだと望六は自然と溜息が口から出ていった。


 そして前の席に意識を向けると一樹と月奈が小さく振り返ってさり気なく見てくるあたり、彼らにも事情の説明を要求されるに違いないと思う望六であった。


「……わかったよ。放課後に食堂で話すよ。どっちにせよ皆には伝えとかないといけない事もあるしな」


 望六はナタリア達に全ての事情を話す決意をすると共にエルゼが言っていた”全員叩きのめす”という部分を皆に言わなければならなかった。

 それは関係のない人達を巻き込んでしまった者の義務であるからだ。


「よーし、全員着席してるな。今から魔術基礎をやっていくから教科書を開け~」


 木本先生が教卓の上に教科書を置いてから全員に声を掛けると二時間目の授業が開始された。

 しかし望六は廊下での一件や自身の記憶についての事に頭を使っていた為に授業の内容は殆ど入ってこなかった。


 ――それからあっという間に全ての授業が終わりを迎えて校内にチャイムが鳴り響くと、やっと自由時間という名の放課の到来であった。

 

 望六は事情を聞きたくてうずうずしている様子の一樹と月奈と、未だに濁った瞳をしているナタリアを連れて食堂へと足を運んだ。翠嵐やシルヴィアにはメッセージアプリで食堂に行くことを事前に伝えている為に後で来るだろう。


 そして幸いにもエルゼは授業を終えると早々に教室を出て行ったので、望六が杞憂していた監視という行為はなさそうに思えた。彼女のあれだけ執着する性格を考えるに尾行ぐらいは覚悟していたのだが、それはどうやら望六の考え過ぎだったようだ。






「……でだ。俺はお前達に謝らないといけないことがある。まずはそれから聞いてくれ」

 

 望六達が食堂へと到着して暫くすると翠嵐とシルヴィアも姿を現して、全員がテーブル席に着いた事を確認すると望六は何を話すべきかと迷ったが取り敢えずこれを最初に話す事にした。


「実は翠嵐とシルヴィアは知らないと思うが今日一組に新たな転校生が――」

「知っていますの」

「ドイツの魔術留学生だっけ?」


 事の状況を理解するには最初に転校生が来た事から言おうと望六は思ったのだが、それは直ぐに彼女らの言葉によって遮られてしまった。


「……なんで知ってるんだよ」


 だが一体なぜ他クラスの二人が既にエルゼの事を知っているのだろうかと彼は疑問を抱く。


「それは至極簡単な事ですの。私達は国にとって貴重な魔術留学生ですのよ。つまりは他国から留学生が来たら本国から逸早く連絡が来ますの。それは戦闘データや魔術データを盗まれないように警戒しろという意味ですけど」


 するとシルヴィアはいつものように紅茶の入ったティーカップを片手に話し始めると、それは確かに納得のいく理由であり望六は改めて魔術留学生というのは貴重な人材と認識した。


「アタシの方もシルヴィアと同じ感じかなぁ。なんでもドイツ軍人が直接学園に来るからどうのこうのって。……まあその時のアタシは超眠かったから適当に返事して寝たんだけさ。あははっ」


 そしてシルヴィアが話を終えてティーカップに口をつけると同時に、今度は翠嵐が両手を頭の後ろで組んで気だるい感じで話してきた。

 

 望六は漸くそこで最初の疑問でもある、なぜ二人がエルゼの事を知っていたのかの謎が解けた。

 ……だがならばと新たな疑問も生まれる。


「そうか……。だとしたらナタリアは事前に連絡とか来なかったのか? イタリアの魔術留学生だろ?」


 そう、望六の新たな疑問とはナタリアがエルゼの事について知らなかったと言うことだ。

 朝方のHRを見ればその事は一目瞭然であり、彼はどうにもそこが腑に落ちないのだ。


「僕が知らないのは当たり前じゃないか。……望六は忘れたのかい? 僕は今、絶賛本国を裏切ってるんだよ? それなのに国からの連絡を受け取る訳ないじゃないか」


 ナタリアは両肩を竦めて呆れたような表情を見せてくると、確かに彼女は自分達のデータを国に送らないと言う意思表明をしていたことを望六は思い出す。


 ……だとしたらナタリアがエルゼの事を事前に知らないのも納得がいく事で、彼は自身の思慮が足りない事を思い知って少しだけ恥ずかしくなった。

 

「そ、そうだよな。すまん、俺が浅はかだった。……んじゃ、改めて本題に移るが真面目に聞いてくれよ。俺は決して巫山戯て言ってるとかではないからな」


 恥ずかしさを紛らわす為に頬を軽く掻くと彼は全員に視線を向けて話の本筋に入ろうとした。


「分かってるって。前置きはいいから早く言ってくれよ」


 望六の横からは一樹が早く話せと言わんばかりに急かすように声を掛けてくる。

 それに対して望六は小さく頷くとゆっくりと口を開いて、この場の全員にエルゼが言っていた事を話し始めた。


「実はそのエルゼがだな――――」


 彼が淡々と彼女が言っていた事を話していくと話を聞いていた一組のメンバーは困惑の表情を浮かべていた。そしてシルヴィアや翠嵐は自分達には関係のない話だと思っているのか、特に表情が変わることはなかった。


 事実エルゼは周りにいる全員を叩きのめすと公言していたが、その中にシルヴィアや翠嵐が含まれているのかは分からない。しかし可能性としては充分に考えられる訳で、望六は全員が揃ってから話そうと決めていたのだ。


「ま、まじか……俺達は望六のとばっちりで狙われるのか……」


 一樹は眉を歪ませて渋い反応を見せる。


「まったく、飛んだ大馬鹿者だな。そのエルゼとやらは。私が望六と仲が良い訳ないというのに」


 すると月奈は目を閉じながら呆れた口調でそう言っていた。けれど望六は月奈の放った言葉にガラス細工の様な心を殴られたような衝撃を受けると、それは冗談で言っているのか本気なのか分からないが鼓動が早くなった気がした。


「その話から考えるに狙われるとしたら僕が最初だろうね。なんせ望六と僕の関係を濃密に見せつけてあげたからね」


 彼が鼓動を早くした影響で額に浮き出た汗をハンカチで拭いていると隣の席からナタリアが神妙な顔付きで口を開いて、自身が一番最初に狙われると言うと確かにそれは充分にあり得ることかも知れないと望六は思った。


 何故ならエルゼとナタリアはHR時には既に険悪な雰囲気を作っていて、小休憩が訪れる度に互いに視線を合わせ火花を散らせていたほどだからだ。


「まあ話を聞く限り私と翠嵐さんは狙われる可能性は低そうですの。クラスも違えばこうやって放課後や小休憩でしか話せませんし」


 シルヴィアは望六の話を聞いて自身はあまり関係ない事を悟ったのか軽い口調で呟くと手に持っているティーカップを机へと置いて、そのままイギリスの茶菓子とも言われるスコーンを掴んで口へと頬張った。


「でもこの場面をその……え、エルゼ? っていう転校生に見られていたら危ないだろうけどな。……だけどアタシは…………い、いや、なんでもないや!!」


 そして最後に翠嵐が反応を見せてくると相変わらず気だるい感じの様子ではあったが、後半に何かを言いかけたのか咄嗟に誤魔化しているように望六には見えた。

 

 ……しかしそれだけではなく、先程から彼女が横目で一樹をずっと追っていることにも望六は気がついているのだ。さらに気だるい感じは恐らく彼女の偽装行為であり、他の女子達に一樹を見ている事を悟られないようにして行っているのだろうと言うことも。


「ま、まあ。取り敢えずそういう事があるかも知れないから気をつけてくれよ。俺はお前達が傷付くのは見たくないからさ」


 翠嵐の行動が気になる望六ではあったが、全員がエルゼを警戒するように最後にこの言葉を残した。そして彼が放った言葉にこの場に居る全員は静かに頷いて返すと、時刻は丁度夕食の時間となっていた。


「……っとあまり話し込んだ覚えはないんだが、もう夕食か」


 望六が何気なく周囲を見渡すと食堂に続々と生徒達が入ってくるのが見える。


「シルヴィアはスコーン食べてたけど大丈夫なのか?」


 不意に一樹がそう訊ねると、


「問題ないですの。ちゃんと数は抑えましたし、あれは茶菓子ですから!」


 シルヴィアは閉じていた目を薄らと開けて人差し指を立たせると妙に誇らしげに答えていた。


 ――それから望六達は各々が料理を注文して再び席へと戻ってくると、先程までの重たい雰囲気から一変して雑談を交えながら夕食を堪能するのだった。

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