1話「不思議な夢と新たな転校生現る」
――――あれから怒涛のクラス対抗練習試合やナタリアとの下着鑑賞会を終えると四月はあっという間に過ぎ去っていき、明日からは一年魔導対決という名の一大イベントが控える月となった。
そう、つまりは五月に突入するということ。
そして今現在、望六と一樹は既にベッドへと身を預けて寝る体制を整え終えたところだ。
望六は今度こそ面倒な事に巻き込まれずに、平凡な月になることを願いつつ瞼を閉じると静かに眠りに就く。
……それから暫くすると望六は唐突にも体に違和感を感じ取り、寝苦しくなると閉じていた瞼をそっと開いた。
「えっ……。こ、ここは何処なんだ……?」
すると彼は自分の瞳に映る光景に唖然としてしまう。
何故なら望六が今目にしている光景はいつもの寮部屋ではなく空港のような場所だったからだ。
「いやぁ……なぜに空港なんだ? どうせなら妹達に囲まれる夢とかが見たかったんだが」
周囲を見渡しながら望六は呟くと、これが夢であることを認識する事が出来てきた。
理由としては彼が寝るときに着ていたジャージが今や制服と変わっているからだ。
一体なぜ制服姿となっているのかは望六とて分からないが、ここ最近で一番着ていた服だからだろうと一人納得する。
「……にしても何だろうな。この覚えていそうで覚えていないモヤモヤした感じは……」
彼はこの場所にまったく身に覚えが無い訳でもなく、不思議と何処か懐かしさすら感じられていた。しかし幾ら考えても頭の中には霞が掛かっているような状態で思い出すことは出来なかった。
「駄目だな。脳を捩じ切る勢いで思い出そうとしたが無駄だった。……はぁ。取り敢えずここに立っていてもしょうがないし、歩くとするか」
そう言って望六は頭を使うことを放棄すると当てもなく歩き始めた。
流石に自分の夢なのだから、何かしらヒントぐらい見つかるだろうと思ったのだ。
「ん~……おや? おやおや?」
誰も居ない空港を体感時間で十分ぐらい歩いていると、望六の視界には幼い少年と少女が唐突にも映りこんできた。
「あの二人がこの夢の手掛かりなのか?」
彼は一応気づかないように近くの物陰に身を潜めて様子を伺うと、少女からは怒りにも似たような声が聞こえてきた。
「どうしてなんだ!」
「帰らなきゃ……いけないんだ」
銀色の長髪を揺らしながら少女は白髪の少年の腕を掴んで引っ張りながら聞いている。
「ッ……! そんなの駄目に決まってるだろ! 望六は私とずっと一緒に居るべきなんだ! そうあるべきなんだ!」
少女が彼の腕を掴んでいる手とは別に空いている手を自身の胸に添えてそう言い切る。
「ごめん……。てもまたきっと会えるから大丈夫だよ」
少年の方は微笑みながら弱々しい声で返していた。
しかし二人の会話を盗み聞いていた望六は驚愕した。
なんせ目の前の白髪少年も彼と同じ”望六”と言う名前だったからだ。
そこで彼は今一度考える。この懐かしさすら感じる空港や銀色の髪をした少女について。
けれど無情にも何処からか鳴り響く電子音によって望六は起床を余儀なくされた。
「ま、待ってくれ! あの娘は一体誰なんだよーー!」
そう叫びながら彼はベッドから起き上がると、横では一樹が目を丸くして望六を見ていた。
「大丈夫か? 何でお前は寝てるだけで泣いてるんだよ?」
「泣いて……る?」
一樹に言われて事が理解出来なかった望六は手でそっと自身の目元に触れると……確かに濡れていた。今の彼にとってあの夢は悲しいものだったのかは分からないが、きっと忘れてはいけない事なのは確かだと思えた。
「まあ気にすんな。ちょっと大量のゴーヤに襲われる夢を見ただけさ」
「なにそれ!? 普通に怖い!」
望六が咄嗟に思いついた嘘を言うと一樹は見事に信じた様子で顔色がゴーヤのようになっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから二人は制服へと着替えると時間も良い頃合で、部屋にいつものメンバーが集まると全員で朝食を食べあと各人は教室へと向かった。しかし五月に入った事も影響しているのか、妙に食堂ですれ違う女子達の雰囲気が緩んでいるような気がした望六である。
「よっと……今日も今日とて平和な一日なりますようにっと!」
自分の席へと座りなが望六は呟く。
そして周りを見渡すと、どうやら一組の女子達も気が緩んでいるのか軽い空気感があった。
「なに、その些細な願い事みたいなのは? 七夕はまだ先だよ?」
ナタリアはしっかりと彼の呟きを聞き取っていたらしく疑問の眼差しを送ってくる。
「あーいや、気にするな。……ただ単に月が変わって最初の方は何かしら面倒事に巻き込まれてきたから……それに対する皮肉だ」
望六は思っていた事を何となく話し始める。
「ふーん、そうなんだ。てっきり遠回しに僕と一緒に居るのが嫌とでも言ってるのかと思ったよ」
それを聞いたナタリアは表情を顰めると声色を冷たくさせて返してきた。
その唐突な声色に望六は背筋までもが冷えた気がしたが何とか苦笑いを作ってその場を凌ぐ。
――すると今度は後ろから足音が聞こえて望六が振り振り返ると、
「朝からこの一角は元気だね~。流石は学園に数少ない男子達だけのことはあるし~」
そこには片目を閉じてピースサインを向けてくる柚南の姿があった。
「なんだそれ……関係あるのか?」
学園に男子が少ないと言えど、それは賑やかな事に関係あるのだろうかと優司は疑問を抱く。
しかし彼のその質問は柚南が人差し指を立てて小さく左右に振って無理矢理終わらせた。
「まあ、そんな事よりもさ。望六っちは知ってるー? なんでも今日このクラスに転校生が来るらしいよ~」
だがそのあと直ぐに彼女が何らかの含みを持ったような顔で話し出すと、一体どこからそんな情報を得てくるのか望六は不思議でならなかった。やはりギャル属性持ちというのは、そういう事に関しては敏感なのか別に専用の情報窓口があるのだろうかと。
「おお、それは気になる情報だな。無論、転校生という事は女子なのはほぼほぼ確認事項だとしても、問題は――」
望六は柚南から”転校生”という貴重な情報を得ると直ぐに自身の顎に手を当てて、どんな女子かと想像を膨らませようとするが。
「ねえ何で転校生が来るだけで望六はそんなにテンションが上がってるの? なんで僕と話してる時は低かったのに今は上がってるの? ねえ何でかな。ねえ……こっちを見て答えてよ」
何やらスイッチが入ってしまったナタリアが瞳孔を全開まで開いてその瞳と共に顔を近づけてくると、望六は体が金縛りにあったかのように動けなくなった。
「ち、違うんだナタリア! 俺は別にやましい気持ちで考えていた訳ではなく、お前と仲良くなれる人だと良いなと思っていただけだ!」
けれど口は動いたのでそれとなく理由を考えて彼女に言い訳を述べた。あとはナタリアがそれを信じるかどうかだ。でなければ……恐らく吸血される未来が待っていると望六は予想したのだ。
「……そ、そっか。望六は僕の事を思ってくれていただけなんだね! あははっ、勘違いしちゃって恥ずかしいよ。……でも良かった。もしその転校生の容姿とかを想像してたら、僕は望六の爪を剥いでお守りにしちゃう所だったよ」
ナタリアはそう言って笑顔見せてきたが最後の方だけは目が笑っていなかった。
その妙に痛い事を言われると望六は咄嗟に爪を隠すように握り拳を作る。
「はぁ……。んで? 柚南のその情報は毎回どこから入手してくるんだ?」
色々な感情を溜息と共に吐き出すと望六は柚南に気になっていた事を質問した。
「んー、言える訳ないじゃーん。秘密だよ。ひ・み・つ。じゃ。あーしは自分の席に戻るから、まったね~」
まるで嵐のように現れて過ぎ去っていく彼女は右手をひらひらを振って席へと戻っていった。
そこで教室にチャイムが鳴り響くと扉が音を立てて開かれた。
「全員席に着いているな? よろしい」
その声は七瀬であり、彼女の後ろには頭を抱えた木本先生の姿も見える。
そのまま七瀬は教卓の前へと立つと木本先生は右端で死んだ魚のような目をして佇んだ。
「今日のHRは色々と言わねばならない事があるが、取り敢えず最初に言うべき事はこのクラスに新たな仲間が出来ると言うことだ。入れ」
七瀬が教卓に両手を乗せて姿勢を前のめりして口を開くと扉に向けて声を放っていた。
恐らく転校生が廊下で待機しているのだろう。
そしてそれと同時に木本先生は溜息を吐いて見るからに項垂れている様子だった。
「失礼する」
その淡白な声と共に扉が開かれるとそこに姿を現したのは――――
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