34話「訪れし休日という名の悲劇―中編―」
「そ、それじゃあ行ってくるけど……本当にそんなのが土産で良いのか?」
食堂で朝食を終えて少年二人は部屋に戻ってくると一樹は外出する準備を整えたらしく、いつもの制服から一変してカジュアルで身軽そうな服装をしていた。
「ああ問題ない! 寧ろそれがないと俺はこの辛い学園生活を乗り越えられないんだっ!」
そして一方で望六は彼の外出を心から羨ましく思い、せめて外出が出来ない自分の代わりに”土産”を頼む事にしていたのだった。
その土産とは即ちアニメショップで”妹萌系の同人誌”を買ってきて欲しいというものだ。
既にその同人誌の表紙画像を一樹のメッセージアプリに送っているから間違う事はないだろうと望六は信じている。だが問題なのは一樹共に月奈とシルヴィアと翠嵐が共に行動すると言う点だが、その辺は彼の技量に賭けるしか望六には術がなかった。
「ちょ!? そんな食い気味に顔を近づけてくるなって! ……まったく、んじゃ望六もナタリアとの休日しっかりと過ごせよな~」
一樹が口角を上げてニヤニヤした表情でそう言い残して部屋を出て行く。
「お、おう……」
一人部屋に取り残された望六は重たい声色のものが口から出ていった。
そう、食堂でナタリアに言われた約束とは望六が何時ぞやの学園案内の時に言ったことであったのだ。それは下着コーナーにて彼が口走った”水色”で尚且つ”ボーダライン”の下着の描写の場面を一緒に確認することである。
「まさか、あの時の約束を覚えていたとはな……。俺ですら忘れていたと言うのに……」
そんな事を呟くと望六は扉の前から立ち去って、例の場面が描かれているマニアックな場面を探すために椅子へと腰を降ろすとパソコンを使って検索を開始した。
急ごしらえにはなってしまうが、今の時代なんでも検索欄に打ち込んで検索すれば大抵の事は分かるのだ。
ゆえにあと五分足らずでナタリアが来てしまう事を考慮してより緻密に詳細な検索をしていく。
「どうせなら、高画質で動画系の方が信憑性が増すはずだ。漫画だとフルカラーでないと難しいからな……」
などと独り言を彼は呪文のように吐いてキーボードとマウスの音を部屋に響かせる。
――そして望六が目の水分を全て飛ばして乾燥して痛みを伴い出すと同時に、やっと納得のいく例の場面を見つける事が出来た。
「ふむ……完璧だ。これならナタリアも納得するだろうな。てかしてくれないと俺が困るのだがな」
例の場面が画面いっぱいに表示されているのを望六は両腕を組みながら眺めていると、扉の方から軽いノック音が聞こえてきた。
それに連れられて彼は時計を確認すると約束の時間であることを確認する。
「ん~。今開けるからちょっと待ってろ~」
重い腰を上げてのそのそと扉の前まで歩いていくと、そのまま鍵を解除して扉を開ける。
すると望六の視界には懐かしい光景が広がっていた。
「時間通りにきたよ望六!」
眩いほどの笑顔を向けてくるナタリアに対して望六は震える指先を向ける。
「そ、そうだな。それよりもその服装って……」
彼がナタリアの服装を見ながら訊ねると、それは望六がイタリア留学の時に彼女と初めて出会った頃の服装だったのだ。それは忘れもしない紫を貴重としたワンピースである。
だが流石に中学の頃に着ていたものとあってか多少危うい格好となっている。
「うん! これは僕と望六があの空港で初めて出会った時に着ていた服だよ! あの日以来、記念としてちゃんと保管していたんだ。勿論それは今こうやって望六に見せるためにねっ! だけど……ちょっと無理があったかも。主に胸の辺りが締め付けられるようで苦しい……」
ナタリアが片目を閉じて自身の人差し指を唇に添えて小悪魔のような雰囲気を見せてくると、胸が窮屈らしくそのまま人差し指を胸元へと近づけて服を引っ張ると一層彼女の谷間が強調されて望六は視線が離せれなくなった。
「中学生の頃に着ていた服だしな……色々と成長してるんだろうな……。と、取り敢えず中に入れよ? こんなところを他の連中に見られると面倒だからな」
そう言って望六は慌ててナタリアの手を掴むと部屋へと連れ込んだ。
そのまま彼女を部屋の奥へと案内すると、小さい折りたたみ式のテーブルと直接床に座って腰を痛めないようにクッションを押入れから取り出して手早く準備した。
「ほら、ここに座って待っててくれ。茶でも入れてくるから」
お茶を容易する為に望六は簡易的な台所が設置されている場所へと向かう。
「う、うん! ……あ、そうだ。コップは普段から望六が使っている物で構わないよ!」
背後からはナタリアの妙にハキハキした声色が聞こえてきた。
「……はぁ。それは俺が困るから却下だな。えーっと……お茶って新しいのあったっけ……」
振り返らずに言葉だけ返すと望六は客人用のコップを棚から出して、冷蔵からは未開封のお茶を取り出した。二つをお盆に乗せて彼は再びリビングへと戻ろうとすると、
「お待たせ。お茶もって……きた……ぞ」
望六は思わず視線を逸らすべきかと一瞬迷うほどの、予想だにしていなかった状況に遭遇してしまった。何故なら望六の視線の先には普段から自分が使っているベッドにナタリアがうつ伏した状態で足をバタバタとさせて悶えている所だったからだ。
「俺が茶を入れてる一瞬で何があったと言うのだ……。いや、待てよ? こ、これは……!!」
ナタリアの様子を見て望六はそっとしておくべきか直ぐにベッドから引き離すべきかの二択で悩んだが、彼女が足をバタバタとさせているせいでワンピースがどんどんと肌蹴ていき、もう少しで彼女が履いている下着が見えそうな事に気が付く。
「も、もうちょっとで……!! あと少しっ!」
テーブルにお盆を置くと望六は物音を立てないようにしつつも鼻息を荒げながら彼女の下半身を舐め回すように見始めて――
「あっ、ごめん望六! ついキミの匂いに当てられて自分を抑えられなかったよ。あはは……ってどうしたんだい? そんなに顔を近づけて」
ナタリアが急にベッドに埋めていた顔を上げてくると、後ろ髪を触りながら申し訳なさそうな顔を彼には向けてきた。
そして望六は今現在みっともない顔をしていると自覚出来るほどで地味に恥ずかしかった。
「あ、いや……何でもないぞ! 本当にまじで!」
その場凌ぎだとしても特に言い訳が思いつかず、彼が咄嗟に取った行動は両手を突き出すと小刻みに振って誤魔化すことのみであった。
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「えっとぉ……約束通りに例のシーンを確認するって事で良いんだよな?」
改めて場を仕切り直すと二人はクッションの上に腰を落ち着かせて望六は約束の件を確認するように話し掛ける。
「もちろん! でないとあの時の言葉が本当かどうか分からないからね。まあ望六が僕に対して嘘を言うなんて思わないけど……もし嘘だったら分かってるよね?」
ナタリアは口元を緩ませて微かに口を開くと舌なめずりして妙な雰囲気を出していた。
「わわ、わ、分かってますともはい!」
望六はその雰囲気に押されないように彼女から目を逸らすと、事前にパソコンを使って見つけていた例の場面をテレビへと転送してナタリアに見せる用意をする。
あとはリモコンで電源をオンにすれば、それは動画として流れるようになっているのだ。
「ふーん、なら良いんだけど。……じゃ早速見せてよ望六ぅ!」
彼の準備が整った事を何となく分かったのか、ナタリアが何処となくそわそわした様子でテレビ画面を見ながら体が左右に揺らして言ってくる。その姿を客観的に見れば純粋に可愛いという感想が望六の中で湧くが、いつもの彼女を知っていると何とも言えない気持ちであった。
「はぁ……。わかったわかった」
溜息を吐きながらリモコンをテレビに向けて電源を入れると、真っ暗だった画面にはセーラー服を纏った女性が拳銃を片手に戦場を走り回っている場面が映し出された。
そしてそのアニメを黙って二人は暫く見ていると唐突にもナタリアが口を開いた。
「……ねえ望六。この疑問は早いかもしれないけど、本当にこのマニアックそうなアニメに例のシーンがあるのかい?」
その声は何処か困惑にも似たようなものであり、彼女は不信感を抱いたような瞳を彼に向けてくる。
「まあ待てナタリア。その疑問を抱くのは分からなくもないが、お目当てのシーンはこの先だぜ」
望六は右手をナタリアの目の前に出して静止を掛けると冷静にそう言い放つ。
事実、彼が言っている通りに例の場面はもうすぐなのだ。
……がしかし、それは同時に望六にとって緊張の瞬間でもあったりする。
なんせ美少女と共に同じ部屋で下着が映っている場面を見るのというのは、もはや一種の卑猥な行為にすらなりうるのだ。それは考え方次第ではセクハラとして訴えられるか、場合によってはお金を支払うぐらいのことである。
だからこそ望六は冷静な声色を出しつつ変な考えをナタリアに悟れないよに場を乗り切るしかなく、彼が捉える視線の先にはいよいよ本命の場面が迫ってきているのだった。
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