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33話「訪れし休日という名の悲劇―前編―」

 デイヴィスから渡された魔法をインストールしながら寝ると、望六はスマホから鳴り響くアラーム音によって起床を余儀なくされた。


「ん……ああ。もう朝なのか……」

 

 まだ完全には覚醒していない脳を動かしながらスマホを手に取ると、ぼやけた視界で時刻を確認しようとする。しかし昨日の夜に鳴っていたメッセージアプリの通知が画面を覆い尽くしていて時刻が見えない。


「んだよ……一体誰がこんなにも送って…………どぅぇ!?」


 面倒ながらもアプリを開いて通知を消そうと送り主の欄をタップして開くと、先程まで霞が掛かっていたような脳内は一瞬にして晴れて望六は自分の目を疑わずにはいられなった。

 何故ならそれは――


「う、嘘だろ!? な、なんでエレーナ先輩が俺のアカウントを知ってるんだよ……」


 彼のスマホのアプリ内にはエレーナと言う名が表示されると共に二十件程のメッセージが送られていたのだ。一体どこから連絡先が流失したのだろうかと望六は起きたばかりの頭を使って考えるが、思い当たる節と言えば昨日の一斉交換ぐらいしか浮かばなかった。


「ま、まあ……。今は考えてもしょうがないよな。取り敢えずは二十件のメッセージを確認しないと……」


 けれどその場にエレーナは居なかったと彼は記憶していて、仮にクラスメイト達が教えたという線は無いに等しく現状として考える事を一旦辞めた。


 そして彼女はどんな目的があってこんなにもメッセージを送ってきたのか望六は気になると震える人差し指で画面に触れてトーク欄を開く。 


「なぁっ!? こ、これは……!!」


 するとそこに表示されたのはエレーナからの怒りのメッセージであり、どれもこれも練習試合の事についてのものだった。


『ちょっと望六君に、お話があります!』

『どうやってアカウントを手に入れたかは、この際どうでもいいので省きますけど』

『まずは練習試合の事で私は凄く怒ってますからね! なんですかあの立ち回り方は! あれでは負けるのも必然というやつです!』


 大体こんな感じで送られて来ているのだが昨日返信をしなかったせいで、一番最後のメッセージでは『おやすみなさい。今度、一年校舎に行きます。逃げたら……分かりますよね?』と言う一文で終わっていて彼は全身の血が冷えるような感覚を受けた。


「あー……やっぱり先輩もあの試合は見ていたか……。俺としては目を瞑って欲しかったけどなぁ」


 望六は頬をぽつりと掻いて深い溜息が自然と口から漏れていった。

 しかしトークアプリというのは画面を開くと既読というのが付いてしまう厄介な機能が付いているがゆえに義務的に返事をしなければならない。


 だから彼は色々と考えた上でこう返信することに決めたのだ。


「えーっと……ご、ごめんなさいエレーナ先輩!」


 返信内容を口には出しながら打ち間違えないようにして送信をタップするといつ既読が付いて何を言われるか分からないと言う恐怖がじわじわと襲ってきて、望六はスマホをベッドへと投げると気分を整える為に顔を洗いに洗面所へと向かうのだった。


 

◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから望六が部屋着に着替えたり今日の予定を考えていると一樹も起き上がってきて寮内には休日専用の時間帯に流れるモーニングコールならぬ”全員起床”の言葉がスピーカーに乗って聞こえてくる。

 

 その声は木本先生の干からびたような声で平日の時は朝の六時に七瀬の声で聞こえてくるので、どうやら分担されているのだろうと望六は考える。

 ……がしかし、今はそんな悠長な事を考えている場合ではなく、


「んー、今は九時か。どうっすかな、腹減ったし食堂でも行くべきか……?」


 望六は自分の腹部を触りながら空腹を感じると食堂へと行こうと思ったのだがエレーナとばったり遭遇したら何とも言えない状態になってしまうと思い気が引けてしまう。


 一層のこと学園の唯一の娯楽。通称コンビニを利用するのも手だったが食券よりも弁当の方が高いので、中々に実行に移すのには意志と覚悟がいるのだ。


「ふぅー。顔洗ったらやっと眠気が飛んだぜ! さて、遅めの朝食を食べに行こうぜ望六!」


 望六が悩んでいる間に一樹は身支度を終えたらしく、さっぱりした表情をして戻ってくるとそのまま朝食を食べに食堂へ行こうと誘ってきた。


「あ、いや俺は……ちょっと……」


 しかし彼はエレーナと遭遇する確率を考えると素直に答える事は出来なかった。

 

「なんだよ? 腹減ってないのか?」


 彼の何とも言えない答えに一樹は疑問を抱いたのか首を傾げたあと顔を近づけてくる。


「いや、別にそういう訳ではなく……」


 別にやましい気持ちなんて無いのだが現状を正直に言うことは難しく望六は顔を逸らす。 


「だったら良いじゃないか。ほら、早く行こうぜ! この後の外出時間も減っちゃうからさ!」

 

 朝っぱらから一樹が爽やかな笑顔を見せながら軽く腕を引っ張ってくる。


「……はぁ。確かにそれもそうだな」


 望六は確かに彼の言う通り外出時間が減るのは痛手だと思い腰を上げる事にした。

 やっとまともな休日が到来して学園外に出て遊べる時が来たのだ。

 例えこの身が狙われているとしても、人が多くいる場所なら大丈夫だろと望六は思っている。


 つまりはこんな所で時間を使っていては本末転倒だと言うことで万が一、エレーナに遭遇したらその時は全力で逃げるのみだと望六は今決めた。


「ふっ……まあ逃げた後どうなるかは知らんが、それはそれだな」


 もしもの可能性がふと浮かんでしまうと望六は気分が重くなったが、割り切る事が大事だと思うしかなかった。


「ん、どうした? 何かから逃げるのか?」


 その独り言に一樹は反応して聞き返してくる。


「いや……気にするな。こっちの問題だからな」


 望六は何でもないと右手を小さく振って誤魔化した。その様子に一樹は何か言いたそうな顔をしていたが押し黙ったのか、二人はそのまま寮を出て食堂へと向かうのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「……で? せっかく休日なんだし、あんたらは何するんだ?」


 望六と一樹が座っているテーブル席には何故か翠嵐達も座っていて唐突にもこの後の予定を訊いてきた。そのいきなりの質問に望六は味噌汁を飲もうとしていた手を止めると、そのまま周りに視線を向ける。


 その理由としては何故こんな遅めの時間帯の朝食なのにも関わらず、自分達の席にはいつものメンバーが勢揃いしているのか不思議でならなかったのだ。

 それはまるでずっと食堂で待機していたかのような現れぶりである。


「いや……特にこれと言って決まってはないが、行きたい場所ならあるな」


 そう言って彼は再び手を動かすと口元に味噌汁の入った器を近づけて数口啜った。


「俺も特には決めてないかな。取り敢えず学園から出たいだけだし」


 望六が味噌汁を啜っている間に隣からは似たような事を言って返事をしている一樹。

 しかし望六はああ言っているが事実はそうではなく、彼には学園から出たら密かにやることがあるのだ。


 それは周りに人が居ては出来ない事で、だからこそ愛想のない感じを出しつつこうやって答えているのだ。即ちその目的とは本屋でエロ本とアニメショップで同人誌を買う事である。

 

 ……ならば周りに人が居ては達成できないのも通りであり、望六は一緒に休日を過ごそうと言われないように敢えてしているのだ。


 けれどこんな自分と一緒に休日を過ごしたいなんて物好きがいるのだろうかと望六は思うが、念のために予防線を張るのは間違っていないだろうと確信していた。

 

「あら、でしたら私達と一緒にお出かけしませんか? 私と翠嵐さんはこのあと月奈さんに東京という街を案内してもらう予定ですの」


 突然一樹の対面する方の席からシルヴィアがそう言ってくると、望六はなぜ月奈が二人を案内する事になっているのだろうかと当然の疑問が湧いた。

 しかし一方でこれは好機なのではないかと彼は捉えると、


「おー、それは良いな。是非行ってきてくれよ一樹くん」

 

 隣で呑気に焼き鮭を食べている一樹の肩に手を乗せてシルヴィアのグループに入れようとした。


「えっ、望六は行かないのかよ?」


 一樹は鮭の身を箸で掴んだまま顔を彼に向けてきた。

 それは当然の反応かも知れないが、予想出来ない訳でもなく望六は直ぐに返事をする。


「ああ、遠慮しとくよ。俺には別で用事が「そうだよ! 望六には既に僕との約束があるからね! ……えっ?」


 一樹に向けて適当な言い訳を述べようとした望六なのだが、急に割り込んできたナタリアがプリンを食べながら放ってきた言葉に思わず疑問の声が出てしまう。


 一体ナタリアが言っている約束とは何の事だろうかと……彼はじっと彼女に見られなが急いで脳内を動かして回答を探し始めた。でないと朝食を食べ終えたあと確実に不幸な事が起こると望六は何となくだが分かってしまったのだ。

最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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