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31話「少年達の恋心」

「はぁ……。体は何とか回復したようだが、心の方はなぜか痛みを感じるな……」


 七瀬から冷たい眼差しを身に浴びながら逃げるようにして保健室を後にした望六は溜息を吐きながら寮へと戻るべく一学年校舎の廊下を歩いていた。


 ……そして暫く誰も居ない廊下を一人で歩き続けていると、彼の視界には広報ボート言われる学園の情報掲示板が不意に映り込んだ。

 

「おっと、これはデマ情報を平然と載せてくる広報ボードじゃないか」


 そこで望六はボードを見て春の事を思い出して皮肉を込めた言葉を吐くと、妙に感情が高ぶってきたがまだ病み上がりという事もあって堪える事にした。


 だが彼は頭の中で何か引っかかりのようなものを感じると、何時ぞやに一樹達と一緒に広報ボードを見たときに載っていた生徒の名前が書かれた実力ランキングなるものを朧げに思い出した。


「そう言えばデイヴィス先輩やエレーナ先輩って何処かで見たことあるような名前だと思ったんだが……まさかな」


 そう呟きながらも望六は手を震えさせて過去の記事を漁るようにして一枚一枚めくって目を通していくと、やがて記事は入学当初の頃の日付の物となり――


「なっ!? や、やっぱりか。薄々分かってはいた気がするが……あの人達ってこの学園のランキング上位の人達じゃないか……。そりゃあ勝てる訳がないし、エレーナ先輩はよく俺の特訓に付き合ってくれたな。自分で言うのも何だが、お人好し過ぎるぞ……」


 何枚もめくってようやくお目当ての記事を見つける事が出来ると望六は一字一句、見間違えないようにして全ての内容を心の中で読み上げた。そして結果はやはり彼の勘が正しかったようで、あのチェーンソー使いの先輩と優しき師匠は共に第一WM学園のトップ的存在の人達であった。


「も……もしかして俺は気づかないうちに、とんでもない人達と関わりを作ってしまったのか?」


 彼はそう言って考え込むと、そのうちこの提示版に書かれている名前の上位陣達とも何処かで関わり会ってしまうのではと心配になった。


 なんせ望六は世界中……いや、学園の海外勢から実験用のモルモットが受けるような視線を受けているのだ。寧ろエレーナ先輩が甘すぎるのではないかと彼は思えてならない。

 普通なら戦闘データや魔法データを何かしらで採取して国に送ってもおかしくはないからだ。


「うーむ。エレーナ先輩は特に怪しい素振りがなかったから白だと思いたいが、デイヴィス先輩は俺と直で戦っているからもしかしたらデータを取られている可能性があるかもなぁ」


 しかし望六が分かる範囲なんぞ限られているわけで、真意は直接本人達に聞いてみないと分からないだろう。だけど彼としてはあの二人からは他の海外勢と違って怪しい雰囲気がなく、どちらかと言うとシルヴィアや翠嵐と言った方の敵意のない印象が強かった。


「……っていかんな。はやく食堂に行かないと食券が売り切れてしまう!!」


 色々と思う事が出来てしまったが取り敢えず回復魔法の副効果で急激にお腹が減った望六は小走りで食堂へと向かう事にした。

 デイヴィス先輩が言っていた事は本当で身体の被害が多い場合、回復魔法で一気にカロリーを持っていかれるようだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……うむ。こんな大きな食堂で一人で夕食を食べるのも中々に乙だな」


 急いで食堂へと到着した望六はそのままラーメン定食の食券を購入すると、誰も使っていない食堂でラーメンを啜って濃厚な鶏ガラスープを飲み干すとお冷を飲んで一服していた。

 完全に夕食の時間は過ぎていて周りを見渡せど人影はまったくない。


 唯一いるのは食堂で働いている人達ぐらいだ。そして人がいない理由としては恐らく一年の場合は練習試合の披露が溜まっているからだろう。しかしなぜ二、三年の先輩達もいないのかと言う疑問が望六の中で残ったが余り深くは考えないようにした。


「さてっと、飯も食べ終えた所だが……。そのまま寮に戻るのも何か落ち着かないしなぁ。少しだけ夜風に当たってから戻るか」


 お盆に空となった器を乗せて返却口に持っていくと、そのまま望六は外へと向かった。

 彼の中で練習試合での出来事や提示版で知った出来事、その他諸々が複雑に頭の中で絡み合うとそれは黒い霧みたいなものとなって心が形容しがたい感情を持ってしまい気持ちを切り替える為に必要なのだ。

 

 ――そのまま外へと向かう為に望六は廊下を歩いていたが不思議と誰とも遭遇しなかった。

 まるで急にこの学園で一人ぼっちになったかのように。

 だが今は逆にそれが心地よかったりもして意外と悪くはなかった。


「お、ちょうど良い所にベンチがあるじゃないか。そこに座って暫く黄昏るとするかな」


 望六が外へと出ると空はすっかりと漆黒を帯びていて見えるのは無数の星と凛とした月のみであり、視線を周囲に向けると近くに設置されていた木製の長椅子に見つけて腰を落ち着かせた。

 時折流れてくる夜風は周りが海という事も影響しているのか微かに潮を含んでいるような匂いがする。


「ああ、まったく。この学園に入学してから俺の平穏は何処へやらだな……」


 そう自然と彼が呟いて空を見上げると不意に横から声を掛けられた。


「お、なんだ? 望六も外で気分転換してたのか?」


 その声を掛けてきた人物は一樹であり、彼の手には自動販売機で買ったと思われる缶コーヒーが握られていた。


「か、一樹?」


 なぜこんな時間に一樹が外に出ているのだろうかと望六は疑問だったが、それを言うと自分も同じなので説明するのが面倒だと思い聞くことはしなかった。


「お、丁度いいな。隣失礼するぜ」

「あ、ああ。構わんが……」


 そう言って一樹が望六の隣に座ってくると互いに何も喋らずに暫く沈黙の時間が訪れた。

 それはまるで保健室の時の七瀬と同じ状態で、やはりこの姉弟は変な所で似ていると望六は思った。


 ……しかしそんな沈黙を先に破ったのは一樹の方であり、彼は缶コーヒーを握り締めながら唐突にもこんな事を言ってきた。


「俺さ、あの試合が自分達の足りない部分を見つける為の試合だって聞いた時安堵したんだよ。この試合結果で別に一組が負けとか勝ちとか決まらないから。……でも、もしこれが本当の試合だったらって考えると俺が降参した事で間違いなく一組は不利な状況になっていた。……だから俺は俺が許せないんだ。相手が気弱な女性だったとしても……降参を選んだ事に」


 一樹はそう淡々と話していくと自然と手に力が篭ったのか缶コーヒーが凹んでいた。

 望六は黙って彼の苦悩とも言える話を聞くと普段は能天気で何も考えていなさそうな男でも、ちゃんと反省するべき点は分かってるいのだと少しだけ一樹を見直した。


「そうか……お前も色々と悩むんだな。だけどそれを言うなら俺も同じだ。あの時、俺はデイヴィス先輩が圧倒的な実力を持っていると知った瞬間に戦う事を一度諦めて降参を選ぼうとしたんだ。まあ、結果は見ての通りでボロ雑巾のようにされて負けたがな。ははっ。……だけど、だけどやっぱり負けるって意外と悔しいものだな……っ」


 一樹に感化されて望六も心の底に留めていたものが溢れるようにして口から出て行くと、今の彼の気持ちは悔しいという念で一杯だった。


 今まで勝ち負けに拘るという事は望六にはあまりなかった事だが、きっとナタリアや翠嵐、シルヴィアや月奈達の試合を見て勝ちたいと思えてしまったのだろう。

 それほどまでに彼女らの戦いは彼に熱を帯びさせたのだ。


「じゃあ、あれだな……。次の試合の時は絶対に負けないっ! もう降参なんていう逃げ道は使わないって事で!」


 一樹がはにかみ笑顔で拳を突き出してくる。


「ああ、そうだな。次こそは負けない、降参も無しだ」


 望六もそれに答えるようにして拳を突き出して互いに拳同士を合わせると次こそは何があっても勝とうと誓い合った。

 そして再び二人は夜風にあたりながら他愛もない話を続けていると、


「あー、そうだ。お前にちょっと聞きたい事があるんだが……いいか?」

 

 望六は急にある事を思い出して一樹に訊ねる事にした。


「なんだよ急に改まって? 別に変な質問じゃなければいいぞ」


 突然の質問に一樹は目を丸くして彼を見てくる。


「そ、そうか。多分変な質問ではないと思うんだが……ぶっちゃけ大分前に皆で自己紹介した時あったじゃないか? その時にまあ……あれだ。色恋沙汰の話になって”好き”とか言われたよな。特にお前はシルヴィアと翠嵐からさ」


 望六はまごまごしながらも気になる事を訊ねると、自分で言っていて何だが気はずかしさを感じで頬を人差し指で掻きながら視線を一樹から逸らした。


「んー、そう言えばそうだけど。それがどうかしたのか?」


 一樹は至って真面目な声色で聞き返してくる。


「いやさ。だからその好きとかって向こうからしたら本気で言っているのかなとか、逆にお前は言われてどう思ってるのかと少し気になってな……ははっ」

 

 望六はむず痒い恥ずかしさを堪えて一気に根本を彼に訊ねた。


 そう、望六はあの自己紹介の時から心の中に彼女らの好きという言葉が強く残っていたのだ。

 それは今まで妹達以外から言われたことのない言葉で、しかも彼から見て美少女達から言われたら尚更なのだ。


 ……けれど普段から言われ慣れていない言葉ゆえに、その好きが本当なのかただの冗談なのか望六には判断材料が少なくてもやもやしていたのだ。

 しかしだからこそ、こんな雰囲気の中でしか聞けないと思い歴戦のモテ男である一樹に聞く事にしたのだ。

 

「んー。俺には女性の気持ちは分からないから何とも言えないけど、あれは多分()()()()()()()で言ってるんじゃないかと思うな。ほら、日本以外の国だとわりかし親とかにもキスしたり愛しているとか普通に言うじゃないか。だからそれの類だと思う。……てかそういう望六はどう思うんだよ?」

 

 一樹は凹んだ缶を口元に持っていき一口飲む仕草を見せると、望六に顔を向けてあれは挨拶類だと言ってきた。だがそれを聞いて望六は思い出す。

 そう言えばこの男は相手の好意にまったく気づかない近年希に見る鈍感系男だったことを。


 一体あの彼女らの好きと言う発言をどう捉えたら挨拶の類だと思えるのだろうかと望六は眉間を抑えた。特にシルヴィアからは恋という言葉を明確に言われていたにも関わらずだ。

 だけどここは一樹みたいに、はぐらかすというのも一つの手なのではと望六は思えた。


 何故なら今は世界中や国内の組織から狙われる身。そんな状況で仮に誰かと付き合ったとしてもきっと……いや確実に巻き添えを与えてしまうだろう。


 前に話し合った時に彼女らはそれを覚悟の上で色々と協力してくれるとは言っていたが実際問題、望六としてはその気持ちだけで充分であって少なからず本心は巻き込みたくないと言う気持ちがあった。協力といってもそれは情報提供のみに限定すべきかと思案するほどに。


「あー……お、俺も一樹と同じかなぁ。あははっ」


 一瞬の間に色々な考えが彼の脳内で構築されたが、取り敢えずその場を適当にやり過ごす為に嘘をつく事を選んだ。


 望六は一樹と違って鈍感系ではないと自負しているが、もし彼女らの好意が本物ならば現状を考慮して濁した答えの方が良いだろうと結論づけたのだ。

 ――――いつか自分が世界中から狙われなくなると分かるその日まで。


「……しかしこれは何とも逃げないと言ったあとだけに気が引けるな」


 そう決め込むと彼は自然と口からはその言葉が出ていた。


「ん? 何か言ったか?」


 缶コーヒーを飲み終えたのか近くのゴミ箱に投げ入れて横目で見てくる一樹。

 どうやら不意に漏らしてしまった望六の言葉は、しっかりとは聞こえていなかったらしい。


「いや何でもない。てかそろそろ部屋に戻ろうぜ?」


 望六は風が冷たくなってきた事を肌で感じると長椅子から立ち上がりながら声を掛けた。


「そうだな。明日は何と言っても休日だし、ここで長居してたら風邪引いちゃうな!」


 そして一樹も長椅子から腰を上げるとテンションが高い様子でそう言葉を返してきた。

 彼の言っている通り明日は練習試合の影響で”特別休養日”という事で休みとなっているのだ。

  

 だから明日は久々に外出でもしてアニメショップかストレス発散でゲームセンターに行こうかと望六は考えながら一樹と共に寮へと戻るのだった。


最後まで読んで頂きまして、誠にありがとうございます。

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