30話「巨乳は武器であり兵器」
「……それよりも先に答えるべき事があるんじゃないですか先生? なぜ七瀬さんはあの乱入試合を許可したんですか?」
七瀬から先に能力についての質問を尋ねられたが、望六としてはそれよりも試合の真意を聞くことの方が大事であった。一応、一樹達から練習試合の内容を聞いている事から大体の予想はついていたが……それでも望六は七瀬本人から直接真意を聞かねばならないと思ったのだ。
「ふむ、やはり気になるか。だが良いだろう、どの道話さねばお前は私の質問に答えてはくれなさそうだしな」
両腕を組みながら少しだけ微笑むような表情を見せると七瀬は淡々と、あの試合についての詳細を話し始めた。そしてその話を望六は頷きながら聞いていくと大方予想していた通りの事であり、やはり無属性で尚且つAランクという希な者同士を戦わせて成長を促そうとしていたとの事であった。
「まあ後は可能性でしかなかったが、お前の例の能力が再び見られるかもと言う期待が少しあったな。以上があの乱入試合を許可した理由だ」
七瀬が試合についての詳細を話し終える。
「な、なるほど。それなら確かに合理的ですね……」
そうまでして自分の能力が見たかったのかと望六は頭が重くなるを感じた。もっと他のやり方があったのではないかと。
そのまま望六は溜息を吐いて何とも形容しがたい気持ちを吐き出していると、
「んんっ、では確認の為に改めて訊くぞ。望六、お前はあの試合で何か能力について変化はあったか?」
咳払いで仕切り直したのか再び鋭い目つきで七瀬は能力について訊ねてくる。
「あー、残念ながら特にないですね」
だが結果は見ての通りで何も変化はなかったとしか言えなかった。
それに仮に能力が復活していればここまで傷を負うことはなかっただろうと望六は断言出来る。
「……そうか」
その言葉を最後に七瀬が手の甲を顎に当てながら難しい表情を浮かべると保健室に沈黙の時間が流れ始めた。そのまま互いに一言も喋らない状態が続くと段々と望六は気まずくなってきて、何とかしようと兼ねてより思っていた質問をする事にした。
「あ、あの。今って質問とかって大丈夫ですか?」
念の為に確認として質問していいか尋ねる。
「ああ構わんぞ。私に答えられる範囲でならな」
七瀬は先程までの鋭い目付きから一変して何処か優しさを感じられる柔らかい目付きとなっていた。恐らく能力についての質問は彼女にとって真剣にならないといけない事だったのだろう。
「実は……というより七瀬さんも知っていると思いますが、俺の礼装って政府支給の物じゃないですか? さらに礼装って魔力を通じてバイタルの確認が出来るじゃないですか……だからその、俺が一度だけ能力を使った時に政府にそれが伝わっているんじゃないかと……」
望六がずっと気になっていた事を言葉を詰まらせながら言うとそれは礼装から送られているデータを政府が見ていて、無属性で登録されているのにも関わらず他の属性を使った事が明るみになっているのではと言う心配であった。
「なんだ、その程度の質問か? だったら気にする必要はない。予めこちら側で細工を施しておいたからな。政府の方には偽のバイタル情報が送られている筈だ。……まあ、たまには痴女も役に立つという事だ」
そう言って七瀬が不敵な笑みを見せてくると、どうやら望六の礼装には亜理紗の手によって何らかの細工が施されているらしい。
それを聞いて相変わらずあの人の技術力は人並み外れていると望六は思いつつも安堵する事が出来た。これで取り敢えずは国自体から狙われる確率が減ったからだ。
……と安堵しているのも束の間で、保健室の出入り口に息を荒げた様子の谷中先生が姿を現した。
「お、遅くなりました……。はぁはぁ……」
「あ、いや。大丈夫か? 谷中先生」
あまりの息の荒れっぷりに七瀬が心配して咄嗟に声を掛けるほどである。
その様子を見るに谷中先生は何処からか全力で走ってきた事が伺えるが、今まで何をしていたのだろうかと望六は首を傾げた。
「は、はい! だ、大丈夫です! それよりも望六くんの問診をしないと……」
彼女は無理やり息を整えたようで下を向いていた顔を上げると、そのまま望六の元へと向かって歩いてきた。
――しかし無理やり息を整えるという行為には難があったのか、望六の直ぐ目の前で近づくと急に体を不安定にさせて彼に向かって全身の力が抜けたように倒れてきた。
「ちょ、ちょっと!? や、谷中先生!?」
もはや彼女は自分の意思で倒れるのを止める事が出来ないと望六は直ぐに分かると、驚きの声を上げつつも体は自然と谷中先生を受け止める為に両手を広げていた。
そして彼女が望六に向かって倒れると……、
「あ……っ」
「ん”ん”っ”」
彼は何とか谷中先生を受け止める事は出来たが少しばかり予想外の事が起きた。
それは二つの柔らかなものが望六の顔に密着していると言う事だ。
しかも何を思ったのか谷中先生は両手を使ってさらに頭を抱きしめるようにして強く胸を圧迫してきたのだ。
「ん”ん”!? く、く”る”じ”い”」
最初の方は谷中先生の豊満な胸に抱かれて天国のような気分であったが、さらに圧迫された事でいよいよ息を吸う隙間すらなくなり、それは一瞬にして地獄となり望六は彼女を剥がそうと必死になった。
「はぁはぁ……あっ、ごめんなさい望六くんっ……も、もう少しだけ……ね?」
何処か谷中先生の声は色っぽく聞こえる。だが望六とてこれが万全状態であれば寧ろ何時までもと大歓迎であったのだが、息が吸えないのは死活問題であった。
なんとか酸素を吸おうとしても極わずかしか吸えずに、しかも谷中先生から漂うお日様のような良い匂いが濃度高めで意識が朦朧としてくる始末なのだ。
「……ふぅ。やっと息が整いました。あ、ありがとうございますね。望六くん!」
谷中先生がそう言って顔色を良くして彼から離れると、望六はなんとか意識をぎりぎりの状態で保ちながら口を開いた。
「お、お安い御用ですよ……ははっ」
天国と地獄を同時に味わった望六は漫画やアニメで巨乳に抱きつかれて窒息死になりかける主人公達の気持ちが少しだけ理解出来た。その描写を見ている時は羨ましいと言う感情が多かったが、実際経験すると凄く怖いという意味を。
「あっ、は、早く最後の問診をしないと――」
望六から離れたあと慌てながら机の上に置いてあった聴診器を手に取ると、
「その必要はないぞ。谷中先生」
横から唐突にも七瀬が声を出して谷中先生の動きを止めていた。
「えっ……? 何でですか?」
その言葉が谷中先生には疑問だったらしく戸惑いながら返していた。
「アイツは谷中先生に抱きつかれている時に物凄い勢いで手足を動かしていたからな。それを考慮して望六の体は万全という事だ」
七瀬は彼が胸に圧迫されて死に掛けている時の状況をしっかりと見ていたらしく、その時の状況を事細かに谷中先生に報告していた。しかし言われてみれば無我夢中であったとしても手足をあんなにも動かせたと言う事は、回復魔法がしっかりと効いている証拠だと望六は改めて実感した。
「そ、そうだったんですか……。じゃ、じゃぁ望六くんはもう寮に戻っても大丈夫ですよっ!」
七瀬の言葉で納得した様子の谷中先生は前屈みになりながら言ってくると望六は光の速さでとある箇所に視線が釘付けとなった。
それは彼女が胸元が露出している服を着て尚且つ前屈みになったからだ。
つまり上手くいけば谷中先生の秘部が見られるのではと……彼は先程までその胸によって殺され掛けていたにも関わらず見入ったのだ。
「ほら、早く自分の寮部屋に戻って休め。……変態学生が」
あと少しでポロリが見られそうな所で七瀬の冷たい声が聞こえてくる。
すると望六は直ぐにベッドから降りて横に置いてあった制服を持つと保健室から出ようと足を進めた。だがなぜ七瀬は先程から自分の事をそんなに注意深く見てくるのだろうかと望六は不思議でならない。
「し、失礼しました!!」
けれどそれは今考える事ではなく寮に戻ってからにすると、保健室から出る前に谷中先生と七瀬に一礼してから望六はその場を後にするのだった。
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