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27話「Warning――乱入者現る――」

『それでは午後の部、一番最初の戦いはある意味で期待が持てるこの選手ッ! 一組の白戸望六候補生ぇぇ!! それに対し勇猛果敢に挑むのは二組の大塚美弦(おおつかみつる)候補生だぁぁあ!!』


 休憩を挟んだ事で喉の調子が回復したのか春が声を響かせながら選手の説明を力説していくと、望六は会場へと通ずるゲートを一歩、また一歩と緊張感を抱えて歩き出した。

 

「ああ、くそっ。いざ本場を迎えるとなると手足が嫌でも震えてきやがる。だが、ここで負けたら一組はきっと……」


 望六は自分がここで負けたら恐らく一組は最下位になるだろうと予想しているのだ。

 それは控え室に置かれていた電子提示版が表示していたのだが、トップは二組で下の方は一組と四組みが争っている状態だったのだ。つまり一樹があの試合を降参したことが響いてきているのだ。


「はあ……。だからと言ってアイツを責める訳にもいかんよなぁ。その性格を知っているがゆえにな。まあ問題ないだろう。俺がここでなんとか勝てば最下位は回避出来る筈だ!」


 そう言いつつ自分の闘争心を奮い立たせると、視線を真っ直ぐと向けて走り出し会場へと飛び出した。するとやはり一樹の時みたいに歓声の湧く声や、黄色い声はまったくと言えるほどなかった。寧ろ静寂が訪れたのではと錯覚できるほどに無なのだ。


「わ、分かってはいた事だがこれはこれで中々に悲しいな……」


 しかし観客席を見渡していると先に試合を終えた一学年達がひと塊となって座っていて例の専用の応援席が視界に映った。

 そこには一樹、月奈、ナタリア、翠嵐、シルヴィアがなにやら話しながら彼を見ているようだ。


「アイツらが見ているところで負けるのも、なんか気が引けるというか……正直ダサい気がするからなっ! これは俄然と負けられないぜ!」


 望六は一樹達から視線を外して目の前の対戦相手へと向けて呟く。

 そして対戦相手と視線が合うと体操服型の汎用礼装を身に纏い、手には拳銃型のデバイスを握り締めている美弦が口を開く。


「ふんっ、まぐれでイギリス人に勝ったぐらいで調子に乗らないで欲しいわ。たかが情弱な男が意気揚々とほざいて……まったく」


 美弦の強気な口調とともに嘲笑うかのように言ってくると、やはり他クラスの女子にはまだ分厚い壁が存在していることを望六は認識した。ここ最近は一組の女子達が気さくに接してくれるおかげで、彼はその辺りの事を忘れていたのだ。


「そうか? だったらまぐれかどうかは今から見せてやるよ」


 望六はデバイスの刃先を彼女に向ける。


「あらあら……弱い者ほどよく吠えるとはよくいったもの」


 美弦も銃口を彼に向けて返してきた。

 しかし春はそれをしっかりと解説席から見ていたのか、


『両者は早々にヒートアップしていますッ! それでは試合か「ちょっと待ちなァ!!」」


 試合開始の合図を出そうとした瞬間に急に聞こえてきた女性の声で遮られた。

 けれど遮られたと同時に全身をデジタル迷彩に身を包み胸元が大体に露出している女性が観客席から飛び降りて、望六のもとへと近づいてきたのだ。


「よう、お前が噂の一年坊だな? なんでも二つ名では【魔法を無力化する黒き候補生】だったか?」


 話し掛けながら近づいて来ると望六は女性の姿がはっきりと確認出来て、どうやら日本人ではないことは確実だった。肩に届くぐらいの髪は黄色と黒色をしていて所謂プリンヘアで、青い瞳を持ち、身長は望六より少し低いぐらいだ。


「そ、その二つ名で俺を呼ぶなっ! 恥ずかしいだろ! ……だが貴女は一体誰だ?」


 迷彩の女性は不敵な笑みを浮かべながら唐突にも二つ名で読んでくると、望六としてはその二つ名は普通に恥ずかしいので辞めて欲しいところだった。

 たまに一組の女子達が冗談な感じで言ってくる時があるのだが本当に悶絶したくなるのだ。


「まあオレの事は気にすんなよ。ちょっとした品定「ちょっと! 神聖な戦いの場にいきなり乱入ってどういう頭をしているんですか貴女!!」ああ? んだよ? このオレになんか文句でもあんのかよ?」


 一直線に望六へと向かって歩いて来ると、その後ろから美弦が拳銃を向けながら乱入した事について怒っているようだった。

 だが迷彩服の女性は会話を遮られてた事に苛立ったのか足を止めて振り返ると――――


「えっ?」

「相手のレベルも目視で測れないようじゃぁ、まだまだだぜェ?」


 望六の目の前から一瞬にして姿を消して美弦の正面へと現れると、彼女の首を手刀を使って落していた。その一連の動きは本当に刹那の出来事で、近くで見ていた彼でさえ自らの目を疑うほどの速さであった。


「な、なんだ今の動きは……!?」


 美弦が落とされた事で望六は身構える。


「あー? 秘密にきまってんだろ。それよりお前はオレと勝負しろ。……なあ! いいだろ春!」


 迷彩服の女性は勝負しろと言ってくると同時に彼女は叫び声にも似た大きな声を出して解説者の春に尋ね始めた。


「そんな身勝手な事、無理に決まっているだろ! そもそもお前は誰なんだよ!!」


 あまりの暴君さに望六も荒い口調になりかけている。

 もはや会場内は滅茶苦茶だがこんな事、教員達が許さないだろうと望六はこの状況が早く終わる事に賭けた。


『全然大丈夫ですっ! たった今、各教員達から承認が出ました! よって急遽ではありますが、今回の試合は”白戸望六候補生”対【Davis(デイヴィス) Jaime(ジェイミー)】候補生による対決としますッ!!』


 春のその声はなによりも生き生きとしていて、それを聞かされた瞬間に全身から力が抜けていくのを望六は感じられた。

 各教員が承認したと言う事は七瀬もそれに賛成しているという事だからだ。


「な、なぜだ!? なぜ七瀬さんはこの状況を良しとするんだ!」


 望六は会場に取り付けられているカメラに向かって叫び散らかす。


「おいおい決まった事を愚痴ってもしょうがねぇだろ? それに試合の鐘はとっくに鳴ってんだぜェ?」


 対面の方からデイヴィスが背中に背負っていたチェーンソー型のデバイスを取り出して彼に突きつけてきた。


 さらにその後ろではアンドロイド達が倒れた美弦を搬送していて、本当に望六はデイヴィスと戦うことは避けられない事だと思わざる得なかった。

   

「くそっ、ふざけやがって! この状況についてなんの説明もなしかよ!」


 望六は急な出来事の数々に苛立ちが臨界点に達する。


「なに言ってんだよ。オレはさっき言ったぜ? これはちょっとした()()()だってなァ!」


 迷彩の女性がデバイスを構えて走り出す姿勢を取るとまたしても一瞬にしてその場から姿を消す。

 一体どんな魔法なのかそもそも属性がなんなのかも考える余裕すら望六にはなく、


「ど、どこだ?「後ろだ。一年坊」なにっ!? ……く”あ”っ”!?」


 周囲を警戒していると囁くようにデイヴィスの声が聞こえて背中にチェーンソーの刃が当たる感触を覚えると次の瞬間には吹き飛ばされていた。

 彼は顔から地面へと入っていくと土煙を上げながら転がり続けるが、なんとか片手を使って体制を整えることが出来た。


「……ま、まじかよ。礼装を纏ってこれかよ。生身だったら背骨を折られていた所だな……」


 デバイスを地面に突き刺して望六が立ち上がる。


「ほう、体制の直し方が上手いじゃねぇか。よしよし、その調子で引き続きサンドバックになってくれよォ!」


 デイヴィスは肩にデバイスを乗せて走り出した。今度は姿を消すことはなく視認できるが、それはあくまでも見えるというだけで目で追うことは叶わなかった。


「おらおらッ! 簡単に落ちてオレの期待を裏切らないでくれよォ!」


 瞬く間に彼女が望六との距離を縮めるとチェーンソーの刃が回転し始める。


「知らねえよ! そもそも勝手に期待なんかしてんじゃねえよ!」


 彼は咄嗟に宵闇月影を構えて刃を受け止めるが尋常ではないほどの金属の擦り切れる音が木霊していた。


 このまま受けていたら先にデバイスが切断されてしまうのではと感じられるほどで、さらにデイヴィスは女性でありながら凄まじい筋力を持っているらしく、単純な力量でも勝られていると望六は剣を交えて分かった。


「ははっ! どうした一年坊ッ! こんなんじゃないだろ、お前の力はよォ!」


 その言葉と同時に望六はデイヴィスとの鍔迫り合いで押され負けて剣を弾かれると、大きく隙のできた腹へと強烈な蹴りの一撃を入れられた。しかも彼女の履いているブーツには金属が仕込まれているのか、その重さと威力は通常の元は明らかに違っていた。


「ぐはっ……あぁっ……」


 望六は蹴られた箇所を左手で抑えてその場で蹲ると、胃から何かがこみ上げてきて盛大に吐いた。まるで胃液を逆流させられて無理やり吐かされたような気分は最悪だった。


「はぁはぁ……本当に女性なのかよ……。デイヴィスって人は……」


 腹部が軋むように痛みが走るが望六は顔を上げて彼女に視線を向ける。


「ああ、もちろんだ。オレはか弱いか弱い女性だぜェ? だからよぉ、蹴り如きで地に膝を付けるなよ。もっともっとオレを楽しませてくれ。同じA()()()()()()()同士なんだからよォ」


 デイヴィスの吊り上がった口からは衝撃的な事が告げられた。それは彼女も望六と同じくAランクで無属性だと言うことだ。そこで彼は記憶の隅にずっと残っていた七瀬の言葉を思い出す。


「お、お前が七瀬さんの言っていた……無属性でありながら学園のトップに近い存在へと上り詰めたヤツなのか……?」


 望六は自然と言葉を口にしていたが、それが本当なら目の前の彼女には絶対に勝てる訳がないとデバイスを握っていた力が抜けていき”降参”という二文字が頭を過ぎっていくのだった。

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