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24話「一組は劣勢だが、少年は何とかなると思いたい」

 ナタリアと翠嵐の壮絶な対決が引き分けに終わると、二人は学園が所有しているアンドロイド達によって保健室へと搬送された。その様子を控え室のモニターで見ていた望六は彼女らの試合に感服して、これが魔術士の対決だと知ると自らの頬を数回叩いて気合を入れ直した。


「試合の結果はどうであれ、あの二人の試合は凄く格好良かった。……俺もそれに恥じないような戦いをしないとな」


 拳を握り締めながら望六は静かに呟く。以前はメリッサと対決した事もあったが、今回の練習試合はそれの比ではない事は分かっていたのだ。

 あの時も確かに苦戦を強いられた部分があったのは事実だ。


 がしかし、今回は各々がレベルアップを果たしていて以前のような生易しいものでは済まされないのだ。望六はそれを二人の試合を通して確信へと変えていた。


「まったくだな! あんな胸躍る戦いを見せられたら簡単に負けるわけにはいかないぜ! それにナタリアと翠嵐が引き分けという事は、このあとの試合も重要になってくるだろうしな」


 望六の隣では一樹も二人の試合を見て何か思う事があったのか、その瞳と表情は活気に満ち溢れているように見える。そして一樹の言う通り引き分けで終わったという事は、この後一組は勝ちを出さなければならない。


『さぁ! 初戦から熱い戦いを見せてくれましたが! このまま熱気が冷めないうちに、どんどん次の試合を行っていきましょう! 続きまして第二試合は――』


 先程まで実況解説を忘れていたと思われる春だが、今はテンションの上がった様子で進行を務めているようだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから次々と試合は行われていき、負傷が続々とアンドロイド達によって保健室へと送られていく様は最早恒例のものとなってきていた。

 しかし次の試合は望六がもっとも気になっている試合の一つで、正直この対戦の組み合わせは酷だと思わざる得なかった。


『続きまして第二十五試合はこちらの二人だぁぁぁ!! 一組からは水崎月奈候補生ッ!! 対するは二組の魔術留学生シルヴィア・ローウェル候補生だぁぁ!!』


 そう、春が今解説している通りに月奈とシルヴィアの対決なのだ。

 一体この組み合わせは何を考えているのかと望六は言いたくなったが、教員達がそれが適切だと判断して選んだ事なら何が意図があるのだろうと黙っている。


「あね……宮園先生、これは一体どうしてこの組み合わせに?」


 一樹は一瞬、姉貴呼びをしそうになった所で先生呼びに戻す。


「それは試合の進行上話すことは出来ない。……だが敢えて言うならば月奈の為とだけ言っておこう」


 七瀬は横目で彼を見ながらふくみのある言い方をしていた。月奈の為とはどういう事なのだろうと望六は思案するが、この圧倒的な実力差のある戦いが彼女の何の為になるのだろうか。


 余りにも情報量が少なするぎるゆえに思案は途中で行き詰まり、望六はモニターへと視線を向ける。考えているようも試合を見たほうが何かわかるのではと思ったのだ。

 

『あら、この私の相手はてっきり一樹さんかと思いましたが……まさか貴女でしたか』

『どうやらそうみたいだな。私とてシルヴィアと当たるのは予想していなかった。だが! 決まった以上、私の中に戦わないと言う選択しはないっ!』


 シルヴィアの言葉に男らしい事を言って返す月奈。

 だが月奈の言葉からは目の前の彼女とは明確な実力差がある事は理解しているように聞こえる。

 

 相手は経験豊富な魔術留学生、しかし一方は自身の魔法をどういう物にしたらいいのか迷っている普通の候補生だ。


『それでは両者整ったようですので……試合開始ですぅぅぅ!』


 春の若干上擦った声を合図にして試合は開始されると、望六と一樹は共に食い入るようにしてモニターを見つめて試合の行く末を見守る。


『はぁぁぁあ!! 術式展開!』

『術式展開ですの!!』


 二人が同時に魔法を発動すると戦いは序盤から一気に過熱していき結果は――――



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『試合終了ッ! 月奈候補生のデバイス破損により、勝者はシルヴィア候補生です!」

「「「「うぉぉぉぉ!」」」」


 春が試合終了の言葉を告げると観客席からは歓声にも似た声が響いていた。

 グラウンドには両膝と両手を地面に付けて項垂れている月奈と、レイピアを鞘に収めて汗一つかいていないシルヴィアの様子がモニターに映っていた。


「予想していなかった訳ではないが……圧倒的だったな」


 望六は二人の様子を見ながら改めて先程の戦いの光景を頭に思い浮かべた。


 月奈はテンプレ魔法しか未だに使っていなく、これといった有効打がなかったのが大きいだろう。そしてシルヴィアの植物魔法の茨によって得意な居合や斬撃を封じられて、最後は彼女の放った突きを刀で受け止めて刀身が折れたのだ。


「これのどこが月奈の為になるんだよ……姉貴! 一方的な試合になっただけじゃないか!」


 一樹は怒りからなのか全身を震えさせながらベンチから腰を上げて言葉を強くして言い放つ。


「落ち着け馬鹿者。これには理由があるのだ。それにこれぐらいの事でへこむようなヤツでは、この先の授業にはついて行けないだろうな」


 七瀬は依然として表情を凛とさせたままた淡々としていた。

 だけど一樹の言い分も望六には理解できる。

 こんな見えきった実力差で対戦を組むなんておかしい事ぐらい尚更だ。


「先生、試合が終わったあとでも真実は話せないんですか?」


 先程の質問では試合が始まる前であった事から詳細を話すことは禁止されていたのだろうと望六は予想し、今は試合が終わったあとだと言う事で改めて尋ねる。


「望六もか……やれやれ。しかしそうだな。試合が終わった今なら話しても問題ないだろう」


 七瀬は前髪をかきあげながら返してきた。


「いいか? いくら話すと言えど他言は厳禁だ。しっかりと守れ」


 彼女がそう念を押してくると二人は『はい』と二つ返事でそれを承諾した。

 それから二人がなぜこの対戦の組み合わせなったのか理由を聞くと、それは詰まるところ月奈の為で間違いなかった。だが些か強引な部分があるのは確かだろうと望六は話を聞いていて思った。


 その月奈の為とはずばり、彼女が未だに自身の特質属性という魔法をどのように作るべきか悩んでいて先に進めていないからだ。

 先程の試合でもテンプレだけで挑んだ事から敗北した可能性でってある。


 即ち、敢えてシルヴィアと戦わせることで無理やりでも今の状態では先に進めないと言う事を身を持って教える意味があったらしい。しかもこれが一番大事なのだが、このままでは月奈は実技の方の練度が足りずに留年というのもありえるらしいのだ。

 

「ま、まじかよ……。そういう意味があったのか……」


 一樹は月奈の為という部分を理解したのか狼狽えている様子であった。


「そう言う事だ。理解したのならさっさとデバイスを持ってグラウンドに向かえ!」

「は、はいっ!」


 七瀬から怒声のごとく指示されると急いで立てかけてあったデバイスを背負い彼はグラウンドへと向けて走っていく。

 その光景を望六は見届けると七瀬と同じタイミングでモニターへと視線を向けた。


「次はいよいよ、一樹の番か……。流石にこのまま負けっぱなしと言うのは悔しいから勝って欲しいところだ」

「ふっ、そうだな。でなければ私が考案した補習のフルコースを堪能することになる」


 試合の状況的には一組は他の組と比べるとやや劣勢気味なのだ。

 そしてこのまま負け続けると七瀬がにやりと笑みを見せて言ってきた通りに補習を受ける事になるのだ。しかもフルコースと言っているあたりが不穏過ぎて望六は凄く心配になる。


 ……と、そこへモニターの画面に動きがあった。

 グラウンドには純白の礼装に稲妻模様が良い感じに映えている一樹と、どこか気弱そうな雰囲気を放っている女子が立っていのだ。


『さぁ、続きまして第二十六試合目は! あの宮園様の弟でもある、一組の宮園一樹候補生だぁ! それに対するは四組の【司波花怜(しばかれん)】候補生だぁぁああ!』


 ここまで休む間なく腹の底から出しているような声でそう告げてくる春。


『『『一樹君格好良いよー! 一樹君ファイト~!』』』


 観客席からは月奈達の時と同様に歓喜の声が上がっている。

 だがその声を出している者の多くは一樹のファン達だと望六はモニターを見ていて分かった。


 何故なら観客席の方では一樹LOVEと書かれたうちわを大勢の先輩達が振っているのだ。

 寧ろそのうちわを持ってないのは海外の女子達だけだろう。海外勢は皆表情を機械のように無にしていて、それはまるで試合の記録をその目に焼き付けるかのようなのだ。


 しかし一樹の相手はどうやら魔術留学生とかではなく一般の候補生のようで、彼女の礼装は例の体操服みたないな物を着ている。

 これもまた月奈達の試合の時みたく立場が逆になったようなものだ。


『へへっ。あまり女子に刃物を向けるのは気が進まないが、このまま一組が負けるのは嫌なんでな! すまないが全力で行かせてもらうぞ!』


 一樹はグラウンドに木霊する女子達の声には興味がないのかデバイスの刃先を向けて試合前の恒例の挨拶をする。


『ひいいっ!? そ、そんな本気で来られても、こ、困りますぅ……』


 花怜の方は歓喜の声もあってか戦々恐々している様子で返事もその立ち振舞いもオドオドとしていて何とも気迫に欠けているようだ。


『両者共にデバイスを構えていざ――――試合開始ですッ!!』


 そして試合開始の合図がグラウンドや控え室に響くと一樹はデバイスを片手に走り出し、花怜の元へと近づいて一気に勝負を仕掛けるつもりらしい。

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