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23話「イタリア少女とチャイナ少女の決着」

『くらえナタリアッ! これが中国が誇る魔法だ! 術式展開【Flock(小鳥の) of birds(一群)】!!」


 翠嵐のその言葉と同時に右手の鉤爪型デバイスが光りだすと彼女の周りに小鳥の群れが突如として出現し、その小鳥達は次々とナタリアへと向かって飛び出した。

 その様子を控え室のモニターから見ていた望六は初めて見る魔法に口が開いたままである。


「ほう、あの翠嵐とやらは中国がもっとも力を入れて研究している具現魔法が使えるのか」


 すると横から七瀬が同じくモニターを見ながら呟いていくる。


「具現魔法……?」


 望六は具現魔法と聞いて思わずオウム返しをしてしまう。

 しかし魔法基礎の授業にて一通りの魔法属性を学んでいる彼はそれを知識としては覚えていたが、実際に本物を見るとなるとまるで別物だったのだ。


「ああ、そうだ。中国は具現魔法に力を注いでいて――っとこの話しは後でだな」


 七瀬が具現魔法について何かを話そうとした所で試合に動きかあったのか、彼女はモニターの方を見るように視線で訴え掛けてきた。

 望六は話の続きが気になってしょうがなかったが、取り敢えず今は二人の試合を見ることを優先させた。


『くっ……! 中々にやるね翠嵐! 周りに飛んでいる小鳥達が凄く厄介だよ!』

 

 ナタリアは先程から魔法で作られた小鳥の攻撃によって、じわじわとダメージが体に蓄積されているようだ。


『ふふんっ、そうだろう! アタシは周囲にこうやって動物を展開させて、相手がそれに気を取られている間に攻撃する戦法だからな』

 

 それに対し翠嵐は先程から小鳥達を先に攻撃させて、ナタリアがそれに対応している間に生まれた隙を狙って的確に攻撃を仕掛けているのだ。

 つまり単純に考えれば現在ナタリアは手数の多さで負けている状態なのだ。


『ははっ。ご丁寧に戦法を僕に教えちゃってもいいのかな?』


 ナタリアはスレッジハンマー型のデバイスを肩に乗せながら尋ねる。


『全然構わない! 寧ろ簡単に負けられる方がアタシとしてはつまらないからね!』


 翠嵐は随分と余裕がありそうな笑み浮かべながら返していた。

 このままいけば優勢的に翠嵐が勝つと望六は思ったが、それと同時に両腕を組みながら七瀬が口を開いた。


「さっきの続きだが中国は具現魔法に力を入れていて、具現化できる物は武器や動物など多岐に渡るのだ。そして具現魔法が使える者は総じて創造力が豊かでないといけないのだ。まあ、この辺の話は魔法基礎で話した内容だが……よもや忘れてはいないだろうな?」


 そう言って七瀬は横目で睨みを効かせてくる。望六はその威圧に少しだけ恐怖すると、横では一樹が体を一瞬ビクッと反応させていた事から恐らく彼は忘れていたのだろう。


「……も、もちろんっすよ! 忘れるわけがないですよ~ははっ!」


 そんな彼を見て望六はこんな所で忘れましたとは口が裂けても言えなかった。

 もし仮にそれを口にしてしまったら、今ここで基礎の補習が始まること間違いないと確信を持って望六は言えるのだ。


「ふむ、ならいいが」


 七瀬はその言葉を信用したのかは分からないが、視線を彼から外すと再びモニターへと向けた。

 ひとまず命拾いした事に望六は胸を撫で下ろすと彼も同じく視線をモニターへと向ける。


『さてさて、小鳥達も見飽きた頃だし……次はちょっと獰猛な動物を召喚するかな』


 翠嵐は相変わらず余裕な笑みを見せながら言うと小鳥達は微粒子となり散り散りなって崩壊した。だが微粒子達は再び一箇所に集まりだすとそれは形を成していき、翠嵐の足元には狼のような動物が二匹具現化した。


『この二匹に噛まれるとかなり痛いけど、どうする? ここで降参するかい?』


 翠嵐は勝利を確信したのか降参するように言う。


『はっ、冗談言わないでよ。最初に言ったでしょ? 僕は君に負けるわけにはいかないんだって』


 ナタリアは顔を横に振ってそれを断った。

 だが小鳥の群れで翻弄されていた彼女が狼を相手に立ち回りながら、尚且つ翠嵐を相手できるとは望六には思えなかった。

 

 それにナタリアは一体どうして翠嵐には負けられないと口にしているのだろうか。それは同じ魔術留学生としてのプライドがあるのだろうか。

 はたまた別の何か譲れないものがあるのかと……望六は固唾を飲んで様子を見守っている。


『……そっか、じゃあ噛まれて歯型が残っても文句は言わないでくれよ。いけっ! アタシの狼達っ!』


 二匹の狼は翠嵐の合図と共に走り出す。


『ははっ。この世界で僕を噛んでいいのは望六だけさ。無論その逆もまた然りだよ。……だからその二匹は絶対に近づけさせないッ!』


 ナタリアは自身に向かってくる狼達を見据えて口角を上げて笑みをちらつかせた。その一瞬の表情の変化を望六は見逃さずに気づくと、彼女にはなにか勝算があるのだろうと見ていて分かった。


『術式展開【Inferno(炎の) Field()】!! 火傷しても文句は言わないでよっ!』


 ナタリアはデバイスを手元で一回転させてから地面に突き刺すと詠唱を行った。

 その刹那、彼女の周りにはオレンジ色の波動のようなものが円形に広がって放出されたのだ。


『うわっ熱! あんたそんな魔法も使えたの!?』


 翠嵐が両手を重ねながら前に出して守りの体制を維持していると、波動が体に掠ったのか驚愕の声を上げていた。


 だがその声から察するにナタリアが放った波動は熱を帯びているらしく、あれは火属性の”範囲魔法”なのだろう望六は予想した。

 その証拠に二匹の狼達は波動を受けると消滅してしまったのだ。


『へへっまあね。でも思っていた以上に魔法を使ったせいで体に熱が篭ってきちゃったよ。……だから申し訳ないけど、このまま決めさせてもらうよ!』


 ナタリアは魔法を放ったあと苦しそうな表情を見せながら額の汗を手の甲で拭う。

 しかし彼女自身が言っている通り、火属性の魔法を使うほどに体に熱が溜まって身体機能が低下していくらしい。


 その様子はモニター越しで見ていても分かるほどで、ナタリアは試合開始当初からずっと火属性の魔法を放って動物達を相手し、その隙を狙って攻撃してくる翠嵐に対しては肉体戦術だけで対応していたのだ。


 ゆえに疲労だけで言えば彼女の方が上で、翠嵐の方はまだ余力が残っているように望六は思えた。


「うーむ、やはりそういう事だったのか……」


 望六は顎に手を添えながら小声を漏らす。

 その理由は何時ぞやの授業終わりに一樹がナタリアの礼装についてどうのこうの質問してきた時に、彼が真面目に考えて言った事が当たっていたからだ。


 本当に思いがけない所で事の真実が判明すると、意外と自分は()()()()に長けているのではと望六は自画自賛しながらほくそ笑んだ。


「がしかし、今はそんな事よりも試合の行く末が大事だな」


 彼は自分の頭を左右に振って思考を一旦空にすると彼女らの戦いを見る事に専念する。

 多分だが次の行動でこの試合は終わりを迎えると二人を見ていて何となく悟ったのだ。


『ははっ、言ってくれるじゃないか。だったら互いに次の魔法で終わりだな!』


 ナタリアから次で決めると言う宣言をされると、翠嵐は表情を強気なものに変えて鉤爪同士を擦らせて金属音を響かせた。それはまるで気分が乗っているようにも伺える。


『ああ、もちろんだとも。行くよ翠嵐ッ!』


 ハンマー型のデバイスをナタリアが向けながら言う。


『こっちこそ。行くぞナタリアッ!』


 それに応じるようにして翠嵐も鉤爪型のデバイスを向けて返す。

 既に二人は幾度となく魔法を発動した影響で残りの魔力はもはや僅かだろう。


 さらにナタリアは鉤爪攻撃によって礼装の一部が裂かれていて、唯でさえ露出度の高い服が一層顕になっている。ショートパンツの破れた部分から下着が見えるほどだ。


「ふむ……紫色か。いいセンスだ」


 控え室にて静かに声を低くして望六が呟くと、透かさず横からクリップボードで頭を叩かれ室内には軽い音が木霊した。だけど特段気にするほどの事ではなかった。

 それよりも一体、七瀬はどこからそんな物を取り出したのかの方が望六的には不思議だったのだ。


 …………だが、そんな他愛のない考えもモニターから聞こえる彼女らの声によって吹き飛んだ。


『力を貸してくれ、Distruttore!』

『真骨頂を見せる時だ! 虎牙咆拳!』


 互いにそう叫ぶのはきっとデバイスの名前だろう。

 望六も練習の時とかに不思議と叫びたくなることがあるから分かるのだ。


『『アビリティ魔術――!』』


 魔術士の必殺技アビリティを発動する詠唱が聞こえると、望六の横では一樹がベンチから腰を上げて立ちあがり二人を応援するように声を荒らげ始めた。

 

「いけーーっ! 二人ともぉぉお!!」


 その声援を止める者はこの場に誰ひとり居なかった。

 それほどまでにこの試合に七瀬と望六は集中しているのだ。


Esplosione(愛の) Amore(大爆発)!!』

空我白虎(エーテル・ビースト)!!』


 二人はアビリティ魔術を同時に発動するとナタリアはデバイスを思いっきり振り上げてから地面に打ち付け、翠嵐はデバイスを自身の頭上に掲げた。

 

 ――そしてナタリアが打ち付けた場所からは爆発が起き始めて、


『な、なんだよこれ!! うああああーーっ!?』


 それは真っ直ぐ翠嵐の方へと向かい大爆発と共に会場に轟音を土煙を舞い上がらせた。

 ……だがその土煙の中から大柄な白色の虎が一頭姿を現すと、


『と、虎も具現化できるのかい!? ぐああああっ!!」


 その白虎は一直線でナタリアに駆け寄ると強烈なタックルを与え吹き飛ばしてから姿を消した。

 それから二人の少女の悲鳴がモニターから聞こえて一つの間が空くと、


『こ、これは……両者共にダウンだぁぁあ!! ナタリア候補生、翠嵐候補生、互いに気を失って立ち上がれないッ! よって第一試合は引き分けです!』


 突然スピーカーから大きな声で春の声が流れてきたのだ。

 望六は試合に没頭しすぎて忘れていたが、今回は春が試合の進行をやっているのだ。しかし彼女もついさっきまで何も解説していなかった事から同じく試合に集中していたのかも知れない。

 

「引き分けか。……だが互いに意地でも相手を倒そうとする気概は素晴らしい。おい、二人を至急保健室へと搬送しろ」


 七瀬はモニターで状況を確認すると無線機を使って何処かに指示を出していた。


 望六はそんな七瀬の言葉を横で聞きながらモニターをじっと見つめると、そこに映っているのは爆発をもろに受けた翠嵐が地面に横たわる姿と、白虎から強烈な体当たりをくらって会場の壁にぶつかって倒れているナタリアの姿だ。


 二人の礼装は、裂かれ、燃やされ、数々の攻撃によって至る部分が破損している。

 ……望六は傷だらけの彼女らを見て、これが魔術士の本気の戦いで留学生達の実力だと痛感させられた。

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