22話「チャイナ少女の魔法とは」
とまあ、ひと悶着起こりはしたがなんとか瞳から光を失ったナタリアに事情を説明することが出来ると、五体満足で解放された望六であった。
危うかった場面があるとすれば、それは腕を噛まれて歯型をつけられようとしていたぐらいだろう。
それと広報ボードの後半にはクラス対抗練習試合の内容が書かれていた事から、きっと多くの先輩達が見に来ると望六は予想していた。
ただでさえメリッサの時に変に目立ってしまったのだ。ならばそれも必然と言えるだろう。
そして今現在、望六達は食堂で特訓終わりのシルヴィアや翠嵐達と一緒に夕食を楽しんでいると、来るべき練習試合の時には互いにベストを尽くして戦おうと健闘し合っていた所だ。
また彼女らから話を聞く限り二組はシルヴィアを筆頭に個々のレベルアップに力を注ぎ、三組は翠嵐が主軸となって対人戦闘の能力を上げていたらしいのだ。
やはり魔術留学生が居るクラスは中々に手強い事を再確認すると、望六だって自分達のクラスの大半が無詠唱を獲得したという絶対なる自信があった。
「まあ、練習試合だろうが何だろうが試合に勝つのは私達三組だけどね」
「あら? 何を言っていますの。勝つのは無論、私たち二組のクラスですの」
テーブル席に置かれている食器も空となり皆が紅茶やほうじ茶を飲んで一息ついていると翠嵐の放った言葉がシルヴィアの何かに触れたのか、一瞬にして食後の和やかな雰囲気が張り詰めたものへと変わった。
「「……は?」」
二人は互いに同じ疑問の言葉を呟くと次の瞬間には睨み合いへと勃発していた。
その光景を見て望六はシルヴィアと翠嵐が仲良くなっていた事を認識すると同時に、戦いは既に始まってしまったのではないだろうかと額に汗を溜めていた。
――それから些細な事がきっかけでシルヴィアと翠嵐が互いにクラス自慢を繰り広げ始めると、その実力の程は「練習試合で見せ合ったらどうかな?」とナタリアが冷静に言い放って収まりを迎えた。
……しかし彼女のその台詞はあの二人にとって宣戦布告とも取れたようで、寧ろ闘士を焚きつけているようにしか望六は思えてならなかった。
だが幸いにもこの些細な言い争いで喧嘩という下らない事に発展しなかったのは良かったと言える。
何故なら先生達から実力不足と言われて更には特訓漬けの毎日、これらは思春期の望六達からすれば多大なるストレスにしかならないからだ。
けれども今のこの雰囲気なら心配はなさそうだと、望六は変に緊張して渇いた口内をお冷を飲んで潤した。
そのままお冷を飲みながら彼が横を向くと一樹も先程からお茶をずっと飲んでいるようで、恐らくは彼もまた望六と同じ事を心配していたのだろう。
別に似たもの同士とは言わないが、長く一緒に居ると色々と似てくるようだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
あれからまた特訓漬けの毎日を続けて日数が瞬く間に経過していくと、いよいよ【クラス対抗練習試合】の日を迎える事となった。
時刻は既に早朝の七時頃となり、天気は晴れで雲一つなく青空が冴え渡っている。
まるでこの日を神が歓迎しているかのようにも見えるが、それとは対極的に一人の少年は控え室のベンチに深く座りながら頭を抱えて項垂れていた。
「ああ、まじかよ……。分かってはいたけど滅茶苦茶怖い怖い怖い怖い」
「おいおい大丈夫か? 本番前にそんなじゃ体が持たないぞ?」
望六が恐怖して身震いさせている最中、話し掛けてきた一樹は何処か余裕そうな雰囲気を醸し出している。そして彼は既に礼装に着替えていて準備は万端のようだ。
無論だが望六とてそれは同じだ。だが幾ら準備が整ったと言えど……、
「お、お前は怖くないのか? あんなに大勢の海外の女子達に見られると言うのに……」
そう、望六が今一番恐怖しているのは試合会場の観客席に座っている大勢の海外女子たちの事なのだ。控え室にはモニターがいくつも設置されていて、グラウンドが至る方から見えるのだが……そのモニターにはしっかりと観客席に座っている女子達も確認出来るのだ。
さらに言うならば海外の女子達が多い印象だとしても、席にはしっかりと日本人の生徒も見られるのだ。……つまりこの試合は監視されていると言っても過言ではない。
「まあ怖くないと言えば嘘になるけど、観客席から手は出せないんだから大丈夫だろ。なあ姉貴?」
一樹が頭を掻きながら望六から視線を外すと、次に七瀬の方に顔を向けて尋ねていた。
「姉貴ではない、七瀬先生だ。……だが愚弟の言う通り観客席には特殊な防御壁が起動しているから大丈夫だ。あれは魔法攻撃や銃弾を吸収する優れ物だからな。それに一応は録画機器等の類は会場に入るときに回収している。まあ気休めにしかならんだろうけどな」
その質問に七瀬は溜息を漏らしながら答えると、一樹が海外女子達に対してそんなに怖気ついていない理由は観客席の”防御壁”にこそあったらしい。
だけどそんな情報いつの間に得たのだろうかと望六の中で疑問が浮かんだ。
そして今、この控え室にいるのは一樹と七瀬と望六の三人だけである。
木本先生やナタリア達は別の控え室にて準備中なのだ。理由としては流石に控え室に男女混合は風紀的にまずいからだ。
「にしても驚いたよな。今回の試合に実況が付くなんて」
試合が中々始まらない事に妙に落ち着かない感じなのか、一樹はずっと控え室の中をうろうろと徘徊しては時折話し掛けてくる。だが彼が放った言葉は独り言とかではなく、自分に向かって放たれた言葉であると望六は分かった。
「そうだな。だけどその実況する人とは……」
自身の太ももに両肘を乗せて手を組むと望六は、どんよりとした重たい雰囲気を漂わせながら声を出したが――
『長らくお待たせしました! 一年の各クラスの準備が整った模様です! それでは時間が惜しいので、早速試合開始といきましょう!』
同時に被せるようにして控え室のスピーカーから聞き覚えのある声が望六の耳を抜けていった。……だけど不思議な事にその声を聞くと望六の中には「今度会ったら必ず尻か胸を揉みほぐしてやる」という復讐の火が揺らめいていたのだ。
『まず最初はイタリアの魔術留学生【ナタリア・カヴァロッティ】候補生! そして対するは中国の魔術留学生【恋・翠嵐】候補生だぁぁあ!!』
妙に張り切った声が先程からスピーカーを通じて聞こえてくるがその都度、望六の復讐の火が大きく揺らめいてく。……そう、今回試合の解説をしているのは彼と一樹のインタビューを度し難い変態思考に捏造した張本人の筑波春なのだ。
「まったく、どうしても実況がやりたいと泣きついて来たから許可したが……。これはお遊戯会とは訳が違うんだぞ。アイツはそれが分かっているのか? ……はぁ」
モニターを見ながら七瀬が呟くと本日二度目の大きな溜息が漏れていったようだ。
しかしその言葉から察するに春が頼み込んでやらせてもらっているようだが、それは何かにしらスクープがあるという事なのだろうか。それとも単純にただ広報の為なのか。
と、望六は色々と考えてみるが捏造された件が根強く蘇ってきて途中で考えるのを放棄した。
そのまま彼は視線をモニターへと向けると、そこにはグラウンドの真ん中でナタリアと翠嵐が互いに礼装を纏ってデバイスを片手に試合開始の合図を待つようにして佇んでいる映像が映っていた。
『この学園での初の相手はナタリアか。アタシとしてはシルヴィアと戦いたかったけど……相手にとって不足なし! 全力で挑んでこないと怪我するよ!」
『言ってくれるね。だけど僕だって簡単に勝たせる気はないよ。……特に君には負けられないんだ』
二人の声が控え室のスピーカーから聞こえてくると今回も選手にはイヤフォンが付けられているようだ。恐らくこの会話は別の控え室にも聞こえているだろう。
だがそれよりもモニター越しとはなってしまうが、望六は初めて翠嵐の礼装とデバイスを見て視線が釘付けとなった。
「あれが翠嵐の礼装とデバイスか。……なんだ、今の礼装って露出高めなのが主流なのか? それに持っている武器がこれまたえげつないな。まるで肉を抉るかのような見た目をしているぞ」
彼の視界に映る翠嵐はチャイナドレスような服を着ていてノースリーブモデル、無論だが足の方は瑞々しい肌が露出している。しかもその服は全体的に赤色をしていて胸の辺りには、金色で虎の刺繍が入っているのが印象的なのだ。
だが彼女はお世辞にも胸があるとは言えず”絶壁”がゆえに刺繍が綺麗に見えて映えるのだ。
きっとこれが月奈やナタリアが着ていたら、虎が膨らんで立体モデルになること間違いない。
……ただしそんな事を翠嵐の前で言おうものなら、彼女が今両手に装備している”鉤爪型”のデバイスで肉を裂かれることも望六には容易に理解できた。
『それでは両者……試合開始ですっ!』
春のその声と共に試合の火ぶたが切られると観客席からは歓声にも似た声が木霊して、ナタリアと翠嵐はほぼ同時にデバイスを構えて魔法を発動した。
――――が、しかし。
「なっ!? あ、あの魔法は……!!」
翠嵐の放った魔法を見て望六の口からは驚愕の声が飛び出していった。
なんせ彼女が使った魔法は知識としては知っていても、彼自身は初めて見る魔法だったからだ。
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